昨夏の東京五輪で25年ぶりの1次予選敗退。再スタートを切った女子バレーボール日本代表は、5月31日に開幕したバレーボールネーションズリーグ(VNL)で破竹の5連勝と、新生"眞鍋ジャパン"にとって上々の出だしとなった。
女子バレー日本代表の新主将としてチームをけん引する古賀
これまでのVNLは、各国ともベテランを休ませて若手を試す大会という色が強く、特に五輪の翌年であれば新チームの"お試し期間"だった。だが、パリ五輪の出場権獲得方式が大きく変更されたことで、大会の重要度も変わった。
これまで行なわれていた各大陸の予選がなくなり、世界ランキング24位以内のチームが参加できる2023年の世界最終予選で6チームが決定。その6チームを除き、2024年6月時点の世界ランキングで上位5チームに入れば出場権が得られる(そこに開催国フランスを加えた計12カ国)。VNLもランキングに影響するポイントがつくため、今回は若手や新戦力を試しつつ、結果も求められることになった。
新指揮官の眞鍋政義監督は、かつて女子の日本代表を率いてロンドン五輪銅メダルを獲得した名将。東京五輪終了後に中田久美監督が退任するにあたって、眞鍋氏のところに幾度も監督復帰の要請があり、最初は断っていたようだが「火中の栗を拾うつもり」で引き受けた。
新チームは古賀紗理那(NEC)を主将に、Vリーグの上位チーム、大学生に至るまで幅広く選手を招集した。さらに、ロンドン五輪を戦った時の代表メンバーと、補助選手だった石田瑞穂さんを含めた13人を「アントラージュ(フランス語で『取り巻き、環境』の意)」と名づけてチームのサポート役に任命。VNL前の合宿には、当時リベロとして活躍した佐野優子さんらが駆けつけ、後輩たちの指導にあたった。
そうして臨んだVNL初戦の相手はアジアのライバル・韓国だったが、あっけないほどの快勝。セッターは松井珠己(デンソー)が務め、古賀が22得点、石川真佑(東レ)も14得点と活躍した。
新エースとして期待される井上
続く第2戦はドイツとフルセットの接戦になった。2セットを連取された時点で、セッターは松井から関菜々巳(東レ)に。さらに石川に代わって井上愛里沙(久光)がコートに入ると、途中出場ながら13得点と流れを変える役割を果たした。井上はその後の試合でも得点を重ね、27歳にして日本の"攻撃の核"として台頭しつつある。
井上は2021−22シーズンのVリーグを制した久光のエースとして活躍し、最高殊勲選手賞(MVP)とベスト6を受賞。さらに最多得点部門で、木村沙織が持っていた日本記録を12シーズンぶりに塗り替えたスコアラーだ。バックアタックも決定力があり、東京五輪で日本の弱点だった攻撃枚数の少なさを十分に補うことができる。
シニア代表への初登録は、眞鍋監督が指揮を執っていたリオ五輪前の2014年。筑波大4年時に出場した2017年のユニバーシアードでエースとして活躍し、チームに銀メダルをもたらした。そのユニバーシアードでは、ロシアの高いブロックを果敢に打ち破っていた。
課題はサーブレシーブなどの守備面だが、それを補って余りある決定力が魅力。スパイクのコースの幅も広く、ブロックがついても簡単には被ブロックしないクレバーなプレーが光る。VNLでも、第3戦のドミニカ戦で26得点を挙げてチームのベストスコアラーに。第4戦の現世界ランキング1位のアメリカ戦でも19得点と、古賀と共にベストスコアラーとなってストレート勝ちに大きく貢献した。パリ五輪に向け、古賀との"2枚エース"として大いに期待がかかる。
主将としてチームをけん引する古賀は、東京五輪後、バレーを辞めることも考えていた。しかし眞鍋監督の頼みを受け入れ、かつて竹下佳江さんや木村沙織さんが代表の主将として背負っていた「背番号3」を継ぐことになった。
VNLでは積極的にチームメイトに声をかけ、試合中にチームを立て直すこともできている。競り勝ったドイツ戦後には、「最初はサーブが消極的だったので、途中で『集中していこう』と話しました。そこから修正ができて、3セット連取で勝ちきれてよかった」とコメントした。
古賀は東京五輪でも、足首のケガを抱えながら"攻守の要"として活躍したが、今大会ではすべてのプレーがよりブラッシュアップされている。VNLに参加する全16チームの選手の中でベストスコアラーランキング2位につけ、ブロックランキングでは日本勢で唯一の20位以内に入っている(6月15日時点)。
開催地をアメリカからフィリピンに移した第5戦のポーランド戦でも、マッチポイントを握ってからの最後のポイントは、古賀が1枚ブロックで決めた。前衛でも後衛でも変わらない高い決定力に加え、リベロと共にサーブレシーブを担い、ブロックでも存在感をアップするなど、ますます攻守で欠かせない選手になっている。
東京五輪で課題が見えたセッターは、現時点では関が一歩リードという印象。第3戦からスタメンで起用され、ミドルブロッカーやバックアタックも積極的に使っている。
日本はセッターの身長が低い傾向が強いこともあり、セッターにもリベロ並みのレシーブのよさが求められてきた"伝統"がある。関の課題はまさにディグ(スパイクレシーブ)だったが、そこは改善が見られている。新たな課題は、古賀とのコンビの精度だろうか。古賀は速いトスを打ちこなすタイプのため、その要求にどれだけ応えられるかがスタメン定着のカギになるだろう。
大会の第2週からは宮下遥(岡山)もベンチインして、セッターが3人体制になった。ポーランド戦では試合の最後に、松井と共に宮下もコートに立つ場面も。宮下はライトへのトスを得意とし、ブロックやサーブ、ディグも能力が高く、途中交代で流れを変える役割も期待される。3人の中では最終予選や五輪を経験した唯一のセッターであるため、その経験をどう生かしていくのかも注目される。
7月3日まで続く大会の今後の見どころのひとつは、6年ぶりに代表に招集された宮部藍梨をどう使うかだろう。
宮部はナイジェリア人の父を持ち、181cmの身長と身体能力の高さを買われ、金蘭会高校時代にシニア代表に抜擢されて話題に。高校卒業後はアメリカのサウスアイダホ大学に留学。その後、ミネソタ大学に編入してバレーを続け、今年5月30日にヴィクトリーナ姫路への入団を発表した。
VNLの第2週は、登録メンバー14名には入らなかったものの、チームに帯同することになった。プレーの機会がありそうなのは第3週以降だが、試されるのは日本の速いバレーへの対応だろう。そこで古賀、井上に並ぶ決定力を証明できれば、ロンドン五輪チームのような「3枚エース体制(木村沙織、江畑幸子、迫田さおり)」も夢ではない。
古賀、井上、宮部を同時に起用できるようになれば高さ・決定力とも申し分ないが、守備面では厳しくなる。その場合は江畑、迫田の時のように、試合によって他の選手と使い分ける形になるかもしれない。ただ、姫路の安保澄監督は宮部について「サーブレシーブも悪くない」と、チームではサーブレシーブを担わせることを示唆しているだけに、パリ五輪までに守備面も大きく成長するかもしれない。
VNLは6月15日時点で日本が単独首位。世界ランキングも5位と上昇した。新戦力も実戦で使いながら、勢いを保ち続けることができるのか。眞鍋監督の腕の見せどころだ。