アマゾン川はブラジル・ペルー・ボリビア・コロンビアなどを流れる世界で2番目に長い川であり、流量は世界で最も多く、多様な魚類や固有種であるアマゾンカワイルカなど貴重な生態系が存在しています。ところが、アマゾン川の本流は全長6000kmを超えて複数の国にまたがっているにもかかわらず、1本も橋が架かっていないとのことで、科学系メディアのLive Scienceが「一体なぜアマゾン川には橋がないのか?」という疑問について解説しています。

Why are there no bridges over the Amazon River? | Live Science

https://www.livescience.com/why-no-bridges-over-amazon-river

世界で最も長い河川であるナイル川にはエジプトの首都・カイロだけで9本の橋があるほか、アジア有数の河川である長江には過去30年間で100本以上の橋が建設されており、ドナウ川は長さこそアマゾン川の3分の1ほどですが133本もの橋が架かっています。これらの河川と比較すると、流域に3000万人以上が住んでいるアマゾン川に1本も橋が架かっていないのは奇妙なことに思われます。

アマゾン川に1本も橋が架かっていない謎について、スイス連邦工科大学チューリッヒ校の構造工学教授であるWalter KaufmannはLive Scienceへの電子メールで、「アマゾン川を渡る橋はそれほど差し迫った必要性がありません」と指摘しています。アマゾン川の大部分は人口のまばらな地域を蛇行しており、橋が接続できる主要道路が周囲にほとんどない上に、川に接する都市や町ではボートやフェリーが交通・輸送手段として確立されているため、急いで橋を建設する必要性がないとのこと。



by Stephen Horvath

Kaufmann氏は、アマゾン川の自然がもたらす技術的・物流的な困難も、橋の建設を妨げているとしています。たとえば、アマゾン川の流域には湿地帯が広がっていて土壌が柔らかいため、非常に長い高架橋と深い基礎を必要とします。これは橋の建設に多額の財政的投資が必要となることを意味しており、橋を建設しても経済的コストに見合うメリットが少ないそうです。

また、アマゾン川は季節によって川の流れる位置が変化し、水位にも顕著な違いが現れます。特にアマゾン川の下流では、6月〜11月の乾期には平均的な川幅が3〜10kmほどですが、12月〜4月の雨期には最大50kmになることもあるとのこと。Kaufmann氏は「アマゾンの環境は確かに、世界で最も厳しいものの1つです」「海峡を渡る橋の建設も水深があると難しいのですが、少なくともポンツーン(水上構造物)などを使用して建設が可能です」と述べています。

記事作成時点ではアマゾン川の本流を渡る橋はないものの、支流であるネグロ川を渡るPonte Rio Negroという橋は2011年に開通しました。2019年にはブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領が「アマゾン川に架かる橋」の建築を含むインフラプロジェクトを発表したほか、アマゾン川上流に橋を架ける計画をブラジル・アマゾナス州のマナカプル市が発表するなど、今後アマゾン川に橋が架かる可能性はゼロではありません。

しかし、ブラジルで長いキャリアを過ごしたアメリカの生物学者・Philip Fearnside氏は、「アマゾン川に架かる橋がもたらす経済的利益と比較して、建設コストは非常に高価になるでしょう」「マナウス自由貿易地区の工場からサンパウロまで水路で製品を輸送する方が安上がりです」とコメント。また、アマゾン川に橋を架ける計画は森林伐採者の熱帯雨林へのアクセスを容易にし、環境破壊にもつながると警告しています。

Kaufmann氏は、「橋が建設されるのは困難とコストをニーズが上回る場合だけだと思います。個人的には、この地域に予期せぬ経済発展がない限りは、橋の建設がすぐに起こるとは思えません」と述べました。