男子バレー西田有志インタビュー 前編

 昨年12月8日、バレー界に衝撃が走った。「V.LEAGUE DIVISION1 MEN」のFC東京が、「2022年5月末限りで活動を休止する」と発表。それは実質的には廃部を意味する。

 FC東京のバレーボールチームは、1948年に東京ガスの「バレーボール部」としてスタート。2003年から現在の名称となり、2008−09シーズンからV1に参戦している。ただ、平日の練習は社業を終えてからという練習環境や、上位チームのように世界的に名のある外国人選手をなかなか獲得できないといったチーム事情もあって、順位は下位に沈むことが多かった。


セリエAで1年プレーした西田

 活動休止の発表を受け、今季、セリエAのビーボ・バレンティアでプレーしていた西田有志は、同日に自身のSNSで次のように反応した。

「この件は今日起きた時に知った情報で、何故こうなったのか、そして全て考えた上でこの選択になったのかわからないが、魅力となるチームを無くすにはあまりにもショックすぎる。

 忘れることもない入団当初の、FCさんとの試合、最高の応援だと思ったチームだからより寂しい。」

 その後、FC東京の選手たちによるハッシュタグ運動「#NeverGiveUp東京」にもすぐに反応したが、活動休止の決定は覆らず。すでにレギュラーシーズンの試合は終了。現状では、4月30日から始まる黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会が最後の戦いの場になる。

 イタリアのバレー文化に触れた西田が、Vリーグに改善してほしいところ、現在の日本バレー界への危機感を包み隠さずに語った。

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――現在のVリーグは週末に同一カード2連戦が行なわれます。一方、イタリアのセリエAは週末に1試合、週によって水曜日にもう1試合、カップ戦などがあれば+αといった形が通常ですね。

「Vリーグの、同じチームと2日連続で試合をする今のシステムは、僕には疑問があるんです。違うチームとの試合のほうがモチベーションを維持できるし、観客の方たちもそのほうが面白いんじゃないかと思っています。1日目で勝敗を決したチームと、翌日にまた試合をすることに、(ジェイテクトSTINGSでプレーしていた)昨季はモヤモヤしていました。イタリアは週に3回試合をすることもありますが、同じチームと2回連続ということはありません。

 4レグになって試合数が増えるということも、選手側に説明が無かった。しかも『ファイナル6』が『ファイナル3』になって3チームしか出られなくなり、そこに入れないと決まったチームの試合は消化試合になってしまう。ファイナルに進むチームを減らすことで、リーグの試合の重要度を増すといった狙いもあるかもしれませんが、集客力で苦戦している今は、枠を増やしたほうが終盤まで緊張感のある試合を多く見せられるのではないかと思います」

――2020−21シーズンからは、ホーム&アウェー方式も採用されました。

「せっかくホーム&アウェー方式にしたのに、ひとつのチームが何個もサブホームを持っていると、その特徴を最大限に生かせないんじゃないかと感じていました。日本全国、いろんなところでバレーができることは魅力でもありますが、サブホームは遠隔地にあることもありますし、その地を訪れる機会も少ないですから試合以外の何かで貢献することは難しい。それでは、その地方の方々も満足はできないんじゃないか、そもそもチームが認知されているのか、という不安があります。サッカーのようにホーム地を絞り、そこに密着した活動、『地域貢献』ができたらいいのでは、と思っています」

――イタリアでの地域貢献はどんなことを行なうんですか?

「僕が所属するビーボは、ボランティアとして地元のスーパーに行くこともありましたね。そのボランティアの方法がすごく変わっていて、『クリスマスなので商品を買ってください』というチラシを作り、(チームのスポンサーである)トンノカリッポの袋をお客さんに渡す。その中に買った商品を入れて戻してくれたら、それが困難な地域に寄付されるというシステムでした。

 選手たちはスーパーの前で約2時間、袋を配り続けながら声かけもしました。集まったダンボールは7、8個くらいになりましたね。日本でよく見る募金もいいですが、僕個人としては物を寄付する形のほうがいいなと思いました。スーパーの売上げも上がって"ウィンウィン"にもなりますし。ぜひ各チームやリーグに取り入れてほしい方法です」

――他に、違いを感じる点はありますか?

「会場の雰囲気ですね。Vリーグの会場の演出は『本当にこれが最大限なのかな?』と疑問に思っていました。ホーム&アウェー方式なので、アウェーで試合をするチームが音響を使えないというのは理解できるにしても、音響を使えないなりに、アウェーチームを応援する人が盛り上がれる雰囲気づくりをしているのかと。

 僕が所属するビーボをはじめ、イタリアの応援は手拍子だけでも会場がすごく盛り上がります。手拍子は相手チームも誰でも、自然とできる行動ですし、それをやりやすい雰囲気ができている。ホームチームにアドバンテージはあっていいですが、相手チームを応援する人も含めて、会場に来た人すべてに『面白い』と思わせることが大事です」

――イタリアだと「アウェーエリア」があって固まって応援していますね。

「そうですね。そのエリアで、音が出る応援グッズ、フラッグなども使ったりしています。それならアウェーでも応援しやすくなる。アウェーチームに点が入った時にも盛り上がらないと、会場全体の熱が下がってしまいますから」

――他のメジャースポーツ、例えば野球では、アウェーチームも巻き込んだ球場での演出なども行なわれるようになっていますね。

「Vリーグは時代に逆行している印象があります。最近、僕は選手としてだけでなく、経営者、運営側の人などの視点からもリーグを見るようになりました。そうなると、金銭面の事情もあるかもしれませんが、『なんでこうしないんだろう』という疑問点がたくさんあります。

 例えば、会場で流れる音楽もそう。他のスポーツを参考にするなどして、お客さんが盛り上がる曲はどんな曲なのか、ということをもっと分析してほしいです。日本の曲だけじゃなく、海外の曲にまで選択肢を広げて。今は声を出しての応援ができませんから、手拍子しやすいような曲を作ってもいい。とにかく、ずっと同じ曲を使っている、演出を変えないといったことが一番よくないですよね」

――国際試合や、オリンピックなどではそういった曲や音響を使った演出がされていますね。

「僕もYouTubeをやりだして、自分で音作りなどもできるようになりましたが、より高度なことができる方がたくさんいますよね。人材の確保も大変かもしれませんが、とにかくお客さんが『もう一度会場に足を運びたい』と思えるような雰囲気作りをしてほしい。ただ試合をするのではなく、その前後に行なわれるイベントも含めて。もちろん選手たちも参加して、そこでの活動に手ごたえを感じられるくらいになると、自信を持って『試合を見に来てください!』と言えるようになるんじゃないかと思います」

(後編:Vリーグや日本バレー界が目指すべき未来>>)