この記事をまとめると

高齢ドライバーが運転をやめるべきタイミングは判断が難しい

■そこで開設されたのが「自動車運転外来」

■内容や料金などについて解説する

ドライブシミュレーターを使って運転能力を評価

 もはや社会問題となっている、高齢ドライバーによる交通事故増加。警視庁が公表した2021年度の交通事故死亡者数は、前年比203人減の2636人と5年連続で過去最少を更新したものの、65歳以上の人が占める割合は57.7%と過去最高となってしまいました。さらなる交通死亡事故の抑制には、高齢ドライバーの交通安全対策が鍵を握ることは明らかです。

 とはいえ、周囲から年齢的に「そろそろ」と言われても、買い物や通院など生活を支えるためにはクルマ移動が欠かせないという地域も多く、なかなか自ら運転をやめる決意をするのは難しい状況です。また、以前はスムースにできた車庫入れに手間取るようになったり、うっかり壁などにぶつけることが増えてきたり、自分の運転能力が低下していることに薄々気が付いてはいても、まだ大丈夫だろうと運転を継続してしまうケースも多いのが現状。

 そんな不安を抱えた高齢ドライバーたちの現状を受け、開設されたのが昨今話題の「自動車運転外来」です。先進機器やシミュレーターなどによる適正な診断をもとに、医師の処方によるリハビリテーション治療を行い、安全運転能力の向上を目指すという内容。もともとは脳に損傷を負う可能性のある疾患や手術をおこなった患者に向けて、社会復帰するにあたり安全に運転を再開するための支援として開設されていた病院が多かったのですが、2017年頃から認知症の疑いのある高齢ドライバーを支援する目的での自動車運転外来も少しずつ増えてきています。

 では運転外来とはどんなことをするのでしょうか。

 病院によって多少の違いはありますが、大まかな流れとしては、まずどんな症状があるのか、医師の問診からスタート。次に机上で集中力や判断力のテストを行い、認知機能や視野などの状態も評価します。続いてドライブシミュレーターを使い、実際の運転を模した3Dシミュレーターで運転能力を評価。さらにMRIで脳構造の評価も行います。ここで医師が必要だと判断すれば、提携する自動車教習所などで実車による運転評価が行われる場合もあります。

さまざまなリハビリテーションが用意されている

 これらの結果を踏まえ、個人の低下した機能に合わせてどんなリハビリテーション治療が必要なのかを判定。運動を取り入れて脳を活性化させるものや、目と手の動きで集中力、注意力を鍛えるものなど、レベルに合わせてさまざまなリハビリテーションが用意されています。

 そして最終的には、自動車教習所での実車評価を経て、必要に応じて免許更新を後押しするための診断書の作成を行うか、もしここで運転はやめた方がいいという結果となれば、免許返納を薦めることになります。運転外来は、全員が運転再開できることを約束するものではなく、あくまでまずは自身の現状を把握し、それによってリハビリやトレーニングを行い、症状が改善すれば運転への不安が取り除かれ、改善が見られなければ免許返納への決意を促すきっかけになるというものです。そのため、何度言っても運転をやめようとしない高齢の両親を案じた娘・息子さんから強く勧められてやってくる人も多いようです。

 運転外来の期間ですが、診断のレベルによって変わり、だいたい2〜10日間程度というところが多く、自動車教習所の空き状況によっては数カ月待ちとなる場合もあるようです。費用については各病院によってさまざまですが、ドライブシミュレーターのリハビリテーションで、1時間あたり7000円〜8000円前後というのが一般的となっています。

 自分の運転能力はどれくらい衰えてきているのか。あと何年くらい運転できるのか。もし少しでも不安に感じたら、こうした運転外来を受診してみることをお勧めします。

 また、もし近くに運転外来が見つからないという場合には、自宅でもできる安全運転のためのトレーニングがあります。たとえば日本自動車工業会が提案するトレーニングが、「交通脳トレ3ヶ月」。とっさの危険を察知する脳の力を活性化したり、考える力ややる気を支える脳の動きを活性化するトレーニングがプログラムされており、Webサイトからプリントアウトすればどこでもチャレンジ可能。JAFの「高齢運転者総合応援サイト」にも、運転に必要なさまざまな能力をトレーニングする情報がきっしり。さらに、トヨタ自動車が提案する「神経シゲキ体操」はとてもユニークですが、日頃刺激していない体幹の運動神経を目覚めさせることで、運転中の誤操作や事故回避につながる可能性があると期待されているそうです。家族みんなで楽しくできる体操なので、朝のラジオ体操の代わりに日課にして、運転能力の向上を目指すのもいいですね。

 高齢化社会はみんなの問題。高齢ドライバーを責める前に、ひとりひとりができることから、よりよい社会、誰もが安心して暮らせる社会に向けて努力していきたいですね。