[画像] 男子バレー左の新エースはルーキー宮浦健人。ユース代表で控えだった西田有志の活躍に「僕も負けない」

 男子バレーボール日本代表の新戦力として期待される、ジェイテクトSTINGSのルーキー宮浦健人。1月21日時点で、Vリーグの総得点ランキングは日本人1位(全体で5位)の348得点と、1年目からチームをけん引している。

 アンダーカテゴリーから将来を嘱望されていた身長190cmのサウスポーは、ユースの主将としてアジア選手権優勝、世界選手権で3位という輝かしい実績を誇る。同時期のユースの一学年下には、東京五輪に出場した日本代表のオポジット・西田有志がいたものの、宮浦の存在があったためコートに立つことができなかった。

 高校卒業後は早稲田大学でインカレ4連覇を成し遂げ、ジェイテクトに入団。東京五輪後にイタリアリーグ1部に移籍した西田に代わってチームの主砲を務めている宮浦に、これまでのバレー人生と今後の目標を聞いた。


Vリーグ1年目から総得点ランキングで日本人トップのジェイテクト・宮浦 Photo by Kurobane Shiro

 熊本県に生まれた宮浦は、両親や兄がバレーをやっていたことがきっかけで、8歳で競技を始めたという。そこからめきめきと成長し、高校バレー界の強豪・鎮西高校では「点取り屋」として全国に名を轟かせた。

「高校の3年間で、すごく成長できたと感じています。点を決めるためにどうしたらいいかを考えた、というか考えさせられました。自主的にやる姿勢もこの頃に培われたと思います」

 ユースでは、先述のとおり主将として活躍。控えだった西田について、宮浦は「よく覚えていますよ。当時からすごくパワーがある選手でした。結果としては僕が試合に出ましたが、『自分が優位』という感覚はなかったです」と当時を語る。合宿では話をすることもあったようで、「バレーボールの話はもちろん、競技には関係ない何気ない話もしていましたね」と笑顔で振り返った。

【大学とVリーグの違い】

 この時に悔しい思いをした西田は、「同じことをしていては宮浦さんに勝てない」と感じ、高校卒業後に大学には進まずにジェイテクトへの入団を決意する。そして、すぐさまVリーグで頭角を現し、シニア代表でも中心選手になった。

 同じ左利きのオポジットである西田の活躍を、早稲田大時代の宮浦はどう見ていたのか。

「もともと『すごい選手』とは思っていましたが、レベルが高いVリーグの世界に入ってからの成長ぶりに驚きました。すごく刺激になりましたし、『もっと成長しないといけない』と思いましたね。焦りやもどかしさというよりは......シニア代表でも活躍する西田選手にどうやったら追いつけるか、その舞台に立てるかというのを考えていました。もちろんそれに囚われていたわけではないですが、自分の成長によりフォーカスするきっかけにはなったと思います」

 大学を卒業して入団したのは、西田と同じジェイテクト。Vリーグ男子では外国人選手がオポジットを務めることがほとんどだが、数少ない日本人オポジットを採用しているチームを選んだ。

 ジェイテクトの印象や、本格的にフル出場するようになって感じた大学とVリーグの違いについては次のように話す。

「ジェイテクトは『自由度が高いチーム』という印象です。成長できるかどうかは自分次第。学生の時は『誰かに指示されてやる』という部分もありましたが、自分で道を切り開かなくてはいけない場所にいるんだと感じています。

 リーグ全体のレベルも違いますね。ブロックひとつとっても、高さ、位置取り、形が違うので、スパイク一本打つのも工夫がいるし、質とパワーの両方が揃っていないと決まりません。あとは、大学よりもリーグが長くて毎週2連戦ですから、コンディション調整も難しいです」


サーブのフォームからも身体能力の高さを感じる photo by Hino Chizuru

【石川祐希への感謝】

 宮浦は総得点だけでなく、サーブの得点と効果率でもトップ5にランクイン。高い身体能力を存分に生かして得点を積み上げている。ここまでの手応えと課題をどう感じているのか。

「スパイクに関しては、通常のトスはいい感触でスパイクを打つことができています。ただ、難しいトスになった時に強打でいくのか、リバウンドを取るのか、相手の嫌なところに落とすか、といった状況判断ができてないことがありますね。アジア選手権で課題に感じた、ブロックを利用する打ち方もまだまだです。

 サーブは今シーズンの序盤は全然安定していなかったんですが、いろいろ試行錯誤することで徐々によくなってきています。手応えがいい時はサービスエースが取れたり、相手を崩したりすることも増えてきている。そこは成長したかなと思います」

 Vリーグでの成長の先には、日本代表、2024年のパリ五輪がある。初めてシニア代表として出場したのは昨年9月のアジア選手権。宮浦は「本当にいい経験ができた」と振り返る。

「特に(身体能力の高い)中国、イラン、カタールと試合がやれたことは大きかったです。自分の中では、サーブレシーブからのアタックはかなりよかったと思っていますが、スパイクレシーブからのアタックは厳しい場面がありました。相手のブロックが高いので、特にハイセット(2段トス)ではなかなかうまく決められなかったですね。先ほども話したように、もっと相手のブロックを利用する打ち方をする必要があると感じました」

 アジア選手権では代表のキャプテンでエースの石川祐希とも一緒に戦い、プレーでチームを引っ張るだけでなく、積極的にコミュニケーションを取る姿に頼もしさを感じた。石川はアジア選手権からの参加になった宮浦を、チームに溶け込めるよう気遣ってくれたという。「頑張れよ」という何気ない言葉かけや、コートの中では技術的なアドバイスもしてくれたそうで、「とてもやりやすかった」と感謝を口にした。

【パリ五輪へ「現状維持ではいけない」】

 そんな石川や西田らの奮闘で、男子バレーが29年ぶりのベスト8まで進出した昨夏の東京五輪はテレビで観戦。そこでパリ五輪への思いを強くした。

「予選ラウンドを突破したことに興奮しましたし、『あの舞台に立ちたい』という思いが増しました。もちろんパリ五輪の出場を目指しています。ただ、他の国同士の試合も見ていて、中途半端にやっていたらそれが叶わないこと、もっと結果に対する執着心を持たないといけないと感じました。アスリートである以上、現状維持ではいけない。常に上を意識しながらプレーしています」

 同じ左利きのオポジットとしてすでに結果を残している西田は"超強力"なライバルになるが、「西田選手はパワーもボールコントロールもすごいですが、そこは僕も負けないと思っています」と強気に述べた。

 今年度の日本代表での活動に弾みをつけるため、個人としてだけでなく、チームとしてもVリーグで結果を残したいところ。しかし、天皇杯での中断期間を挟んでの5連敗もあって、ジェイテクトは一時7位に順位を落とした。その苦しい時期を経て、1月16日のホームでの東レアローズ戦で久々の勝利を挙げたあと、宮浦はしばらくコートに仰向けになり、男泣きした。

 リーグはまだ折り返し地点を過ぎたばかり。現在6位のジェイテクトも、レギュラーラウンド上位3チームによるファイナルステージ進出を諦めていない。

「まだ僕たちにもチャンスがあると思っています。先を見ずに、1戦1戦ベストを尽くしていきたい。勝っていけば先が見えるし、ベストを尽くした上での負けからは明確な課題も見つかります。全試合全力で、応援してくださるファンの方々にも『見に来てよかった』と思ってもらえる試合をしていきたいです」