2022年1月14日から開催した東京オートサロン2022。会場となった幕張メッセ東8ホールトヨタGRブースに気になるクルマが…と思って眺めていると、ブース外(一応プレスなので規制線の内側にいた)から声が掛かった。聞き覚えのある声に振り向くと、もと某社CCO(チーフクリエイティブオフィサー)。カリスマ外国人経営者直々のヘッドハンティングで10数年に渡ってデザイン部門を率いたNさんだった。

「このクルマ(GR GT3コンセプト)ってアレだよね」とNさん。私も一目見た時からどこかで見たような…デジャヴ(既視感)のモヤモヤ感があった。

言われて納得だった。アレとは他でもない2015年のTMS(東京モーターショー)に初出展し、明くるTAS(東京オートサロン)にもお目見えしたRX-VISION。マツダ渾身の大型クーペのことで、プロポーションからいって他には考えられないという。

【画像】GR GT3コンセプトとRX-VISIONを見比べると!

マツダは次のTMS 2017でVISION COUPEを公開。特徴的な長いフードの中に収まるのはSKYACTIV-X(直列6気筒)。RX-VISIONがその名の通りロータリーエンジン(4ローター)想定のコンセプトに対し、VISION COUPEはレシプロ、それも絶えて久しい直列6気筒搭載を予定する。プロポーションを考えれば他には考えられない必然の造形を成している。

「なるほど!」と即座に同意したのは当然だろう。 初見の段階で付きまとった「やたらペッタンコで、フードが長く、超ワイド」の異様さはカープレッドが印象的だったマツダデザインの系譜だが、黒塗りボディでキャラクターが巧みに消されていた。

さすがはデザインのプロと言うべきか。余計なファクターを省き、造形だけでシンプルに答えに直行した。一度ヒントで核心を突かれると嫌でもそれに見えてしまう。人間という生き物はある意味単純だが、なるほどこりゃRX-VISION派生に間違いない。

ちなみにGR GT3コンセプトのボディサイズは、全長4590mm×全幅2040mm×全高1140mm、ホイールベースは2725mmと公表されていた。

これに対応するのがオリジナルRX-VISION…ではなくて、ゲームソフト『グランツーリスモ』シリーズで有名なポリフォニーデジタルのデジタルモデラーとマツダデザイン陣の共創による『MAZDA RX-VISION GT3コンセプト』。スペックは全長4590mm×全幅2075mm×全高1120mm、ホイールベースは2700mmとある。微妙に数字が違うが、これはまあお約束の範疇だろう。

そう言えば、私とNさんはミレニアムのころから同氏がCEOとともに某社を辞する2017年までの間、名のある国際自動車ショーの取材がひとしきりした後に差しであれこれ語り合うのが常だった。

そこで印象的だった話がある。

「我々は所詮実働部隊なんですよ」
「……?」
「いやね、クルマ作りの核は商品企画なんです。我々デザイン部門やエンジニアリング部門は、彼らの注文に応じてスキルを提供する立場なの」
「デザイナーやエンジニアが先走ってクルマ作りをリードするなんて、組織化された現代の自動車会社ではありえません」
 
至言だと思った。言われてみれば当然だが、巨大組織である自動車メーカーにとって、事がシステマチックに動くかどうかは収益に直結する。

2015年に協業関係を結び、2年後の2017年に業務資本提携に踏み切って急速に緊密さを深めたトヨタとマツダを考えれば、相互補完は見事に成り立つ。