コロナの感染者数が激減した日本とは対照的に、韓国では凄まじい勢いで増加が見られる。2021年12月15日の1日の新規感染者数は、これまでで最も多い7,850人となった。28日現在、重症者数も8日連続1,000人を上回り、深刻な状況だ。一体何が両国の明暗を分けたのか。

■韓国、10万人あたりの感染者数は日本の93倍

韓国の感染封じ込め策にほころびが見え始めたのは、新規感染者数が初めて2,000人を突破した今年8月のことだった。それ以降は3桁台以下に抑え込むことができず、冬の到来と共に瞬く間に拡大した。前年同時期と比較すると、現在の新規感染者数はおよそ7倍に膨れ上がっている。

一方、日本は8月の2万5,000人をピークに減少に転じ、現在は200人以下に抑え込むことに成功している。死亡者数も10月から急増している韓国とは正反対に、9月以降は減少傾向にある。

ロイターのデータで過去7日間の両国の感染状況を比較すると、日本の感染者は10万人に1人と極めて低いが、韓国はその93倍と差が際立つ。

■「ワクチン接種したら大丈夫」が最悪の事態を招いた?

両国の明暗を分けた要因については、データに基づいたものから科学的根拠がない、あるいは事実無根のものまでさまざまな推測がある。しかし結局のところ、「ワクチンを接種したら大丈夫」という油断が、韓国で最悪の事態を招いたのではないだろうか。

韓国は2021年11月まで1年8ヵ月にわたり厳格な防疫方針を維持してきたが、ワクチン接種率が7割に達したのを機に大幅に緩和した。感染が拡大し続けていたにも関わらず規制を緩めたことが、状況の悪化を後押ししたと見て間違いないだろう。

一方、日本はワクチン接種を進める一方で、他国から「鎖国」と呼ばれる徹底した水際対策を維持した。オミクロン株が国内で発見されるやいなや、有無をいわせないタイミングで再強化するなど徹底した防疫策を講じている。

ワクチンの接種率に焦点を当てると、韓国は日本を上回っている。ニューヨークタイムズ紙が各国の人口に対するワクチン接種者の割合を示したデータによると、韓国のワクチン2回接種率は81%と世界で9番目に高い。ブースター接種率は19%だ。これに対して日本のワクチン2回接種率は78%で、ブースター接種も医療従事者を対象に始まったばかりである。

■「ワクチンの有効性・安定性の違い」を指摘する声も

一方では、「韓国と日本では主流ワクチンが違う」という指摘もある。確かに、韓国は接種プログラム開始当初、英アストラゼネカのワクチンを主流としていた。同社のワクチンはファイザー、モデルナのワクチンと比較して、ウイルスの働きを抑える抗体の量を維持できる期間が短く、デルタなどの新種株に対する予防効果が低いという報告がある。

これが事実であれば、ワクチンの有効性や安定性が再感染拡大の要因の一つになっている可能性がある。同様の現象は、アストラゼネカのワクチンを広範囲に使用している英国でも見られる。そう考えると、ファイザーとモデルナが主流の日本ではワクチンの効果が持続しているため、感染者や死亡者が減っていると説明がつく。

しかし、これについては相違する研究結果が複数報告されているほか、両国の未成年者の接種率の差など考慮すべき点は他にもある。そのため、「ワクチンの有効性の差が両国の明暗を分けた」と結論付けるのは早急だろう。現時点でいえるのは、両国の現状を見る限り、ワクチン接種と共に行動制限や水際対策が感染抑制で重要な役割を果たしているということだ。

■オミクロン株の猛威に勝てるのか?

今後懸念されるのは、感染速度がデルタ株の70倍とされるオミクロン株の蔓延だ。

韓国疾病管理庁は12月1日に国内で初のオミクロン株感染者が確認されたことを受け、水際対策の強化を発表した。また、6日以降は飲食店などでワクチン接種証明書の提示を求めるなど、国内の防疫措置も強化している。オミクロン株の感染者数は8日までに38人と確認された。

オミクロン株に関しては「重症化しにくい」との見方もあるが、全体像を把握するためにはより多くの情報が必要だ。感染者数が急増加とともに入院者数が増える可能性も懸念されている。すでに国内の重症化率が2〜2.5%に達しており、想定よりも0.4〜0.9ポイント高くなっていることに対し、同国の保健当局は危機感を示している。

■文大統領、自画自賛の防疫策に批判殺到

どの国にも「感染の波」はあるが、韓国の場合は文在寅大統領が自国のコロナ防疫を「世界最高水準」と自画自賛した直後だけに、さぞかし体裁が悪いだろう。文大統領は11月2日に開催された韓国放送公社(KBS)のイベントで、「韓国は他国よりコロナを模範的に克服できると確信する」と述べるなど、大統領としての自身の指導力を国民にアピールした。

しかし、国民間では自国の防疫策に対する不安が広がっており、行動規制緩和を取りやめるよう求める声も上がっているという。かつては日本の感染拡大を嘲笑したり、あるいは感染者の減少を「日本政府による数字改竄」と反発したりするなど、日本に対する敵対心を剝き出しにしていた韓国メディアは、一斉に政府を批判し始めた。

行動規制緩和に踏み切った背景には、来年3月に迫った大統領選への影響や「偉大なるリーダー」として任期を完了したいという文大統領の野望が垣間見える。このまま感染拡大の阻止に失敗すれば、「野望」が「失策」に代わるだろう。

■年末年始も気を緩めずに

日本は今のところ感染拡大を抑え込んでいるが、12月23日の時点でオミクロン感染者の累計は約300人。油断が大敵であることは、韓国の例を見るまでもない。コロナ禍2年目の年末年始は、交通機関や繁華街などが通常以上に混雑すると予想されている。国民一人ひとりが気を緩めず、ソーシャルディスタンスや手洗い、マスクの着用といった基本的な防疫対策を心掛けることが、第6波の防止につながるのではないだろうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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