2021年12月をもって生産終了がアナウンスされたトヨタの5ナンバーミニバン「エスクァイア」(写真:トヨタ自動車

トヨタの5ナンバーミニバンである「エスクァイア」が今年の12月で生産を終了する。同車は、「ノア」「ヴォクシー」の兄弟車として2014年に発売を開始したが、現行モデルの1代をもって姿を消すことになる。

直近の販売状況をみると、9月の新車販売台数は、ヴォクシーが3000台で、ノアが2060台であるのに対し、エスクァイアは491台にとどまる。

5ナンバーミニバン「エスクァイア」の立ち位置


ノア/ヴィクシー/エスクァイア3兄弟のスタイリング(写真:トヨタ自動車)

エスクァイアは、5ナンバーミニバンといっても上級志向の車種に位置づけられ、廉価車種は設けず、トヨタ販売網の中でトヨペット店やトヨタ店での扱い車種だった。しかし今日では、カローラ店やネッツ店系列でも販売されるようになり、トヨタの販売店であればどこでも手に入れられるようになっていた。新車販売価格の差は、わずかとはいえ、たとえばヴォクシーと比べてエントリー車種のガソリンエンジン車で15万円弱エスクァイアのほうが高い。ただし、ハイブリッド車(HV)では3万円ほどの差だ。


エスクァイアの特別仕様車「Gi“Premium Package・Black-Tailored”」のインテリア

内装の装備にそれほど差はないが、室内の雰囲気は明らかに異なる。エスクァイアが気品を覚えさせる色合いや素材であるのに対し、ヴォクシーはより鮮やかな彩で、ノアは身近さを覚えさせる。三者三様で、うまく棲みわけができており、さすがというほかはない。5ナンバーミニバンとして、より上級さを求めたエスクァイアは、一定の成果をあげたということかもしれない。

2020年の年間新車販売統計をみると、5ナンバーミニバンでもっとも売り上げがよかったのは、ヴォクシーで6万9517台、順位は10位だ。続いて11位に日産セレナが6万1648台と僅差で続く。しかし、これにノアの4万5434台と、エスクァイアの2万6368台を加えると、ヴォクシー/ノア/エスクァイアの3兄弟で、セレナの2.3倍も売ってきたのである。そのうちの2割弱をエスクァイアが占めていたので、エスクァイアの存在のあるなしは、それなりに台数に影響したはずだ。


エスクァイアのリアスタイリング(写真:トヨタ自動車)

とはいえここにきて、月販台数が3桁に落ち込む月が出はじめ、基本構成部品には共通性があっても、座席など比較的大きな部品で差別化を図ってきたエスクァイアが、存続の判断を迫られたのは仕方のないことだろう。


1996年に発売された初代ステップワゴン(写真:ホンダ技研工業)

5ナンバーミニバンは、1996年にホンダ「ステップワゴン」が発売され、急速に人気を高めた。これに対し、トヨタはキャブオーバーと呼ばれるワンボックス型の「ライトエース」の次のモデルとして「ライトエースノア」を1996年にモデルチェンジで投入した。だが、セミキャブオーバーと呼ばれる機構で、ワンボックスとミニバンの中間的な位置づけにとどまった。ノアがステップワゴンと同じ前輪駆動(FWD)のミニバンになったのは2001年のことで、この間に5ナンバーミニバン市場はステップワゴンに席巻された。

日産も「バネットセレナ」として1991年に「バネットコーチ」の後継車を発売したが、当時はまだキャブオーバーのワンボックス型だった。モデルの途中で、バネットの名称がはずれ「セレナ」として売られたが、ステップワゴンと同じFWDのミニバンとしてフルモデルチェンジをするのは1999年になってのことだ。

2001年にノアの兄弟車としてヴォクシー誕生


2001年にノアの兄弟車としてデビューしたヴォクシー(写真:トヨタ自動車)

ホンダを追うトヨタと日産のうち、トヨタは2001年にノアの兄弟車としてヴォクシーを誕生させた。販売店系列の違いもあるが、ノアが家族向けの特徴であるのに対し、ヴォクシーはより運転を楽しみたい若い夫や若い男性を取り込むことを目論むように、外観に精悍さが与えられた。


2014年のデビューした3代目ヴォクシー(写真:トヨタ自動車)

2014年に登場した3代目では、「ヴェルファイア」に通じるような2段式ヘッドライトの造形など採り入れ、ノアとの外観上の差別化を進めている。また、ノア/ヴォクシーともにHVを車種構成に加えた。

エスクァイアの登場も同じ2014年だが、ノア/ヴォクシーが年初に導入されたのに対し、10月になっての発売であった。開発は同時進行であったようだが、すでにノア/ヴォクシーで5ナンバーミニバンでの地位を築いたといえるところへ、新たな価値を提案したことに驚かされたものだった。


2014年10月29日、ノア/ヴォクシーよりも遅れて登場したエスクァイア(写真:トヨタ自動車)


エスクァイアのフロントフェイス(写真:トヨタ自動車)

大型ミニバンでは、アルファード/ヴェルファイアの販売が堅調で、今日ではベスト5位以内に入るほどの人気だ。背景にあるのは、後席の快適性を含めた新しい高級車の姿という価値の提供だ。フロントグリルの存在感の強さは、軽自動車から大型ミニバンまで販売を左右するほどの影響力を持つに至り、5ナンバーミニバンの定番となったノア/ヴォクシーにも、アルファード/ヴェルファイアに通じる顔つきを求める声があったのではないか。それがエスクァイア発売と同時に起きた人気ぶりに示されている。

しかし、現行ヴォクシーの顔つきをみれば、趣こそ違うが、フロントグリルの存在感の強さはエスクァイアとそれほど差がないといえなくもなく、嗜好の違いによってどちらを選ぶかといった程度に差は縮まっているのではないか。

また現在、トヨタの販売店網が統一され、国内すべてのトヨタ販売店で同じ車種を購入できることとなり、そこにノア/ヴォクシー/エスクァイアと3つの選択肢を持つことの無駄も起きただろう。

上級志向の5ナンバーミニバンの価値、今後の行方

当初の販売店系列だったトヨペット店やトヨタ店は、もとより上級車種を扱ってきた販売店であり、顧客層もほかの販売店と違った様相であるはずだ。トヨペット店やトヨタ店の顧客は、クラウンやアルファードを筆頭に、単に上級というだけでなく多彩な志向を持つ顧客像でもあり、エスクァイアを残す意味が薄れたのかもしれない。


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いずれにしても、5ナンバーミニバンに上級さという新たな価値観を提案したエスクァイアの意味はあったはずだ。それを待ち望んだ顧客もいただろう。しかし、ノア/ヴォクシーほど購買層が広がらなかったのも事実であり、一旦ここで終焉を迎えたということではないか。

しかし今後、5ナンバーミニバンの上級車志向がなくなるとは思えない。アクアで示されたように、トヨタのHVがモーター走行領域を増やすことで上質な小型ハッチバック車という価値が生まれた。電動化の進化や、電気自動車化が進むことによって、上質で扱いやすい5ナンバーミニバンでの快適性の追求が進むのではないか。そのとき、エスクァイアで得た知見の役立つ日が、再び訪れるだろう。