トヨタの新型GR86とマツダの現行ロードスター(写真:トヨタ自動車/マツダ)

正式発表が間近に迫ったトヨタの新型スポーツモデル「GR86」。軽量な車体にFR(フロントエンジン・後輪駆動)レイアウトを採用した4人乗り2ドアクーペで、2012年発売の初代モデル以来、国産スポーツカー市場を牽引してきた立役者だ。その新型は、2021年秋に正式発売されることがアナウンスされており、現行型オーナーをはじめ、多くのスポーツカー愛好家が登場を待ち望んでいる。


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一方、軽量級の国産スポーツカーには、2015年にデビューしたマツダ「ロードスター」も挙げられる。1989年に登場した初代モデル以来、30年以上にわたり世界中にファンを持つ2シーターのオープンスポーツカーだ。FRレイアウトに軽量ボディ、かつて圧倒的な人気を誇った歴代モデルのコンセプトを継承する俊敏な走りなど、新型GR86との共通点も多いモデルで、2車は実質的なライバル関係にあるといえる。

ここでは、競合するこれら2モデルを比較することで、各車の魅力や商品性の違い、主にどのようなユーザーが楽しめるモデルなのかなどを検証する。

発売目前GR86の生い立ちの基本スペック


スバルとの共同開発で生まれたGR86。兄弟車となるBRZも2代目となり、すでに販売を開始している(写真:トヨタ自動車)

GR86の初代モデルは、前述のとおり、2012年に登場。スバルと共同開発した軽量スポーツモデルで、兄弟車の「BRZ」も同年に発売された。開発コンセプトはドライバーが自在に操る楽しさを体感できるという意味の「直感ハンドリングFR」。同モデルの登場は、縮小を続ける国産スポーツカー市場へ一石を投じることとなり、多くのクルマ好きから支持を受けた。


86の先祖にあたるAE86型「スプリンタートレノ」。写真は最終モデルの特別仕様車か「ブラックリミテッド」(写真:トヨタ自動車)

なお、車名の86は、1983年にトヨタが発売したクーペモデル「カローラレビン」と兄弟車「スプリンタートレノ」の型式名「AE86」が由来だ。当時絶大な人気を誇った2モデルは、多くのファンから「ハチロク」の愛称で親しまれた名車たちだ。86は、その名を受け継ぐことで、昔からのスポーツカー愛好家をはじめ、幅広い層に受け入れられた。

新型となる2代目は、トヨタ傘下のスポーツカー部門「トヨタ・ガズー・レーシング(TOYOTA GAZOO Racing)」が、2017年から展開するブランド「GR」からの販売が決定したため、車名がGR86となっている。高級スポーツカーの「GRスープラ」、コンパクトカー「ヤリス」のチューニング仕様「GRヤリス」に次ぐ同ブランドのグローバルモデル第3弾として、海外での販売も決定している。


新型GR86のフロントフェイス(写真:トヨタ自動車)

外観は、先代モデルのフォルムを継承しつつも、フロントフェイスにGRブランドの象徴でもある「ファンクショナル・マトリックス・グリル(FUNCTIONAL MATRIX GRILL)」を採用。空力や冷却効果などの機能性を持たせつつ、よりアグレッシブな顔つきに変貌した。


先代モデルとなる初代86のスタイリング(写真:トヨタ自動車)

従来型と同様に水平対向4気筒エンジンを採用するが、排気は2.0Lから2.4Lへ増大させることで出力を向上した。最高出力は200〜207psから235ps/7000rpmへ、最大トルクも20.9〜21.6kgf-mから25.5kgf-m/3700rpmとなっている。0-100km/hの加速タイムを従来型の7.4秒から6.3秒に短縮し、アクセルを踏んだ際のレスポンス向上や、高回転域までストレスなく伸びるフィーリングなどを手に入れた。ちなみにGR86の詳細データは未発表で、エンジン出力や以後に言及する車体サイズなどは、すべて開発目標値を参考までに紹介している。

オープンスポーツ「ロードスター」の歴史とスペック


現行ロードスターのスタイリング(写真:マツダ)

ロードスターの初代モデルは、前述のとおり、1989年に登場した。「人馬一体の楽しさ」(車を自在に操れるという意味)を追究した、コンパクトなオープンスポーツカーだ。1.6LエンジンをFRレイアウトで搭載し、軽量な車体が生み出す俊敏な走りが大きな魅力だった。


1989年にデビューした初代ロードスター(写真:マツダ)

ちなみに初代モデルは、当時のマツダ販売チャンネル「ユーノス」の名前が入った「ユーノス・ロードスター」という車名で販売された。一方、海外では「MX-5」や「ミアータ」という名前で発売され、世界中で大ヒットする。

1998年のフルモデルチェンジで2代目が登場、初代と同様にグローバル市場で大きな支持を受ける。2000年5月には、「2人乗り小型オープンスポーツカー」の生産累計世界一(53万1890台)を記録し、「ギネス」にも認定を受けた。その後も、2005年の3代目、2015年に登場した現行の4代目と正常進化を続け、2016年4月には累計生産100万台も達成。まさにマツダを代表するロングセラーモデルだ。

現行モデルの外観は、短く低いフロントオーバーハングと、人を中心に配置したコンパクトなキャビンによる流麗なフォルムが特徴的だ。また、路面に張りつくような安定感と敏捷さをイメージさせる、低くワイドな台形フォルムを採用する。コクピット後部に収納可能で、開閉が容易にできるリヤウインドウ付きソフトトップ(幌)を装備するなど、高い実用性も備える。


電動格納式ルーフを採用したリトラクタブルハードトップモデル「マツダ ロードスター RF」(写真:マツダ)

加えて、2016年11月には、電動格納式のリトラクタブルハードトップを装備した「ロードスターRF」も登場。スタンダードのオープン仕様のフォルムを継承しながらも、ルーフから車両後端まで、なだらかに傾斜するスポーツカー特有のボディライン「ファストバック」スタイルを持つ仕様を追加した。


ロードスターRFに搭載されるSKYACTIV-G 2.0エンジン(写真:マツダ)

ロードスターのパワートレインは、まずオープンカー仕様には、直噴1.5L・4気筒ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」をフロントミッドシップに搭載する。最高出力は132ps/7000rpm、最大トルクは15.5kgf-m/4500rpmを発揮する。一方、電動格納式ハードトップ仕様のRFには、2.0L・4気筒の「SKYACTIV-G 2.0」を採用。最高出力は184ps/7000rpm、最大トルク20.9kgf-m/4000rpmだ。

なお、GR86とロードスターには、いずれも6速AT(オートマチック・トランスミッション)車のほかに、6速MT(マニュアル・トランスミッション)車も用意する。スポーツ愛好家には、アクセル、ブレーキ、クラッチの3ペダルと、マニュアルシフトを駆使して自らがクルマを操る感覚を味わうことを好むユーザーも多い。両車には、そういった「スポーツカー好き」特有のニーズに対応したラインアップを設定している。

GR86とロードスターのボディサイズを比較


GR86のサイドシルエット(写真:トヨタ自動車)

エンジン出力では、排気量が大きいGR86のほうが圧倒的にパワフルだが、ロードスターには別の魅力がある。それは、軽くてコンパクトな車体だ。

車体サイズは、GR86が全長4265mm×全幅1775mm×全高1310mm(全高はルーフアンテナを含む数値。ルーフ高1280mm)。ホイールベースは2575mm。対するロードスターは、オープンカー仕様が全長3915mm×全幅1735mm×全高1235mmで、ホイールベース2310mm。ハードトップ仕様のRFは全高のみ1245mmで、ほかは同じだ。


ロードスターのサイドシルエット(写真:マツダ)

ロードスターの車体はGR86より一回り小さく、ホイールベースも短い。そのため、最小回転半径もロードスターは4.7m。GR86のデータは公開されていないが、兄弟車の新型「BRZ」が5.4mだから、ほぼ同じだろう。おそらくロードスターのほうが、かなり小回りが利くことは想像にかたくない。

スポーツカーは、車体が軽いこともメリットとなる。制動距離を短くできるし、旋回性能も上がるからだ。その点でいえば、GR86の車両重量も1270kgと軽いが、ロードスターのオープンカー仕様はさらに軽量だ。ベースグレードの「S」は1トンを切る990kgを実現するし、最も重いグレードでも1020kgだ。また、電動格納式のハードトップが重量物となるRFでも、車両重量は1100〜1130kgと、こちらもGR86より軽い。つまり、単純にパワーだけの差で、両モデルが持つ走行性能の魅力は語れないということだ。GR86より非力であっても、半径がかなり小さいタイトなコーナーなど、小柄で軽いロードスターのほうが機敏に走れる場所も多いだろう。


GR86のリヤビュー(写真:トヨタ自動車)

ちなみにGR86の車体は、「軽量コンパクトかつ低重心なエンジン」という従来型の特徴を継承しつつ、全高ならびにヒップポイントを低く抑えることで、更なる低重心化と回頭性の向上を実現している。また、ねじり剛性を従来型比約50%向上することで、操縦安定性能を高めるなどの改善がなされている。


ロードスターのリヤビュー(写真:マツダ)

対するロードスターでは、アルミや高張力鋼板、超高張力鋼板の使用比率を3代目モデルの58%から71%に高めるなどで、100kg以上の軽量化に寄与している。また、前後重量配分をスポーツカーで最適とされる「50:50」にすることで、軽快なハンドリングも実現する。

かつてスポーツカーは、速いクルマを作ろうとすればするほど、ドライバーにとっては扱いにくさや一定の技量を要求された。一方で、両車のこうしたクルマ作りは、方法論こそ違うが、誰が乗っても「楽しめる」スポーツカーを目指している点では同じだ。そうした同様のコンセプトが、これら2モデルに多くの根強いファン層がいることへ繫がっている。

モータースポーツからのフィードバック


GR86のリヤビュー

GR86の外装は、モータースポーツからフィードバックされた、数々の空力アイテムも注目だ。例えば、車体側面を流れる空気を整流する「サイドシルスポイラー」。内側に流れ込む空気を排出することで乱流を防ぐフロントフェンダーなどの「エアアウトレット」。トランクフードには、整流した空気の流れで車を路面に押しつける「ダックテール」も装備する。

また、オプションには、エアロや大径ブレーキキット、サスペンションやマフラーなど、さまざまな機能向上パーツも用意されている。GR86のティザーサイトを見ると、有名アフターパーツメーカーが手掛けた商品が目白押しだ。トヨタ傘下のTRDをはじめ、HKS、クスコ、サード、トムス、トラスト、ブリッツといった各社が手掛けるパーツ群は、いずれもモータースポーツでのノウハウが注入され、性能アップに大きく貢献することで知られている。

しかも、こういったパーツ群は、ハンドリングや走行安定性などに貢献するだけではない。先代モデルからスタートさせたワンメイク競技、「86/BRZレース」に参戦するレーシングマシンを彷彿とさせる。スポーツカーは、近年、オーナーの年齢層が高いといわれる。だが、従来型86の場合は、特にサーキットのスポーツ走行などに参加するユーザーには、20代などの若い層も多く見られた。86は意外にもユーザーの年齢層が幅広いのだ。加えて、モータースポーツをイメージし、愛車をスポーティにカスタマイズする層も多い。GR86は、「サーキットを走る姿が思い浮ぶ」ような外装やオプションパーツを用意することで、そうしたスポーツカー愛好家の心を揺さぶる演出も施している。


ロードスターパーティーレースの様子(写真:マツダ)

一方のロードスターの外装は、スポーツカーらしい低くて流れるようなラインを持つが、GR86ほど「わかりやすく」モータースポーツをイメージさせる装備はない。もちろん、例えば、オープンカー仕様で最もスポーティなグレード「RS」には、ドイツのビルシュタイン社製ダンパーや、車体剛性を上げるフロントサスタワーバーといったサーキット走行も考慮した装備を持つ。また、オプションには、多くのレース参加車両に採用されることで有名なイタリアのブレンボ社製大径ブレーキも用意する。

だが、いずれも機能パーツばかりで、外装については、さほど押し出しが強いアイテムはない。GR86に比べれば、かなり「シンプル」だともいえる。そのぶん、オープンカーならではのシックで上質な雰囲気は満点だ。わかりやすくいえば、ちょっと「ヤンチャな」GR86に対し、ロードスターは内なる情熱を秘めた「大人のスポーツカー」。まさに、この点が両車のキャラクターの大きな違いではないだろうか。

2モデルの内装を比較する


GR86のインテリア(写真:トヨタ自動車)

GR86の内装は、スポーティさとドライビングのための機能性を両立させた装備を持つ。まず、水平に構成されたインパネとスイッチなどの操作系を最適配置し、運転に集中できる空間を実現する。メーターには、視認性に優れる7インチTFTディスプレイを採用。パワーボタンを押した際にメーターに映し出されるオープニングアニメーションは、水平対向エンジンのピストンが動く様をモチーフにしたもので、ドライバーに走行前の高揚感を提供する。

シートなどの情報はまだないが、兄弟車の新型BRZには、ホールド感が高いバケットタイプを採用、表皮にはファブリックのほかに、レッドステッチをあしらったウルトラスエードと本革のコンビシートも設定されている。また、従来モデルにも、本革と高級合皮のアルカンターラのコンビシート仕様もあった。いずれも、スポーティさと高級感を両立しているのが特徴だ。新型でも、同様かそれ以上の仕様が期待できる。


ロードスターのインテリア(写真:マツダ)

対するロードスターの内装は、スポーツカーらしい機能性を持たせながらも、上質感と快適性を重視した作り込みだ。特にシート表皮には、グレードにもよるが、ブラックレザー、ナッパレザー、アルカンターラとナッパレザーのコンビシートなど、さまざまな高級素材を用いている。柔らかさと耐久性に優れる上質な革で知られるナッパレザーのシートには、オープンカー仕様にホワイト、ハードトップのRFにはレッドを用意し、スポーティかつラグジュアリーな雰囲気を醸し出す。ここにも、先述した「大人のスポーツカー」らしい演出が施されているといえよう。

なお、ロードスターのメーターは、オーソドックスな3連タイプだ。中央に回転計、右側が速度計、左側には多様な情報を映し出す4.6インチのTFT液晶マルチインフォメーションディスプレイを装備する。また、インパネ上方には7インチのセンターディスプレイを装備し、ナビゲーションのほか、「アップルカープレイ」や「アンドロイドオート」にも対応。スマートフォンとの連携で通話やメッセージの送受信、音楽や天気など多様なサービスを享受できる。

価格は両車とも300万円前後だが多少86のほうが高い


GR86のスタイリング(写真:トヨタ自動車)

ロードスターの価格(税込)は、オープンカー仕様が260万1500〜333万4100円、電動格納式ハードトップ仕様のRFは343万9700〜390万600円だ。対するGR86の価格は、まだ公式な発表はない。兄弟車の新型BRZが308万〜343万2000円と発表されているため、ほぼ同様の価格になることが考えられる。

SNSなどの情報によれば、GR86の価格は2021年8月末に各ディーラーへ発表されているようだ。受注についても9月初旬から主に先代86に乗るユーザーを中心に案内されており、すでに注文を入れたユーザーもいるという。ラインアップには、エントリーモデルの「RC」、中級グレードの「SZ」、最上級グレードの「RZ」があり、それぞれ6速MTと6速ATを設定(RCは6速MTのみ)。価格(税込)は、最も安いRCの6速MTは300万円を切り、最も高いRZの6速ATが350万円台だという。また、9月上旬の注文で、2022年1月頃の納車予定のようだ。

そう考えると、両車は価格帯的にも非常に近い。まさにガチンコのライバルだと言えるだろう。ただし、GR86の場合は、前述のとおり、カスタマイズを好むユーザーも多く、注文時にさまざまなオプションパーツを選択する例もあるようだ。やはり、SNSからの情報だが、最も安価なRCを選んでも、サスペンションやエアロパーツ、大径ブレーキキットなどの高性能なオプションパーツも選択すると、総額は450万円近くになるらしい。そこで、結局は最初から装備が充実したRZを選ぶユーザーも多いようだ。


ロードスターのスタイリング(写真:マツダ)

もちろん、ロードスターにも内外装に多様なオプションパーツが設定されている。ラインアップには、マツダのスポーツブランド「マツダスピード」製のエアロなどもあるが、インパネやドアトリムへのアルカンターラ素材など、どちらかといえば上質感を向上させるものも多い。GR86が「サーキット走行も考えた」機能パーツを数多く用意するのとは対象的だ。これらの点にも、先述した両車のキャラクターである「レーシーでアクティブなGR86」、「落ち着いた大人のスポーツカーであるロードスター」といった違いが現れている。

ただし、ロードスターの場合も、「ロードスターカップ」といったワンメイクレースなどに向けて、モータースポーツ用ベースグレード「NR-A」を用意している。車高調整機能付きのビルシュタイン社製ダンパー、フロントサスタワーバー、大径ブレーキローターなどを装備し、価格(税込)は275万5500円。よりリーズナブルにサーキット走行を楽しみたいユーザーに向けた車両だ。

【10月14日13時5分:事実関係に一部誤りがあり修正しました】

スポーツカーとして珍しい福祉車両があるロードスター


ロードスターRFの手動運転装置付車(乗降用補助シート・旋回ノブ)(写真:マツダ)

さらに同モデルには、オープンカー仕様とハードトップ仕様の両方に、福祉車両も設定している点が興味深い。足が不自由なユーザーなどに向けた「手動運転装置付き車」で、センターコンソール横に「コントロールグリップ」を配置する。これはアクセルペダルとブレーキペダルの代わりとなるもので、引くと加速、押すと減速する仕組みだ。

価格(税込)は、車両代に加え装備品代が33万9400円〜36万5900円となる。スポーツカーに福祉車両を設定する例はあまりない。だが、障がい者でも、走りを存分に楽しみたいというニーズは一定数あることは事実だ。そこには、ロングセラーのロードスターを、より幅広いユーザーに楽しんでほしいというマツダの意志が感じられる。

このように両車は、同じスポーツモデルでありながら、主なターゲット層には違いもある。GR86は、サーキットも含め、よりピュアに走りを楽しみたい層へ向けたクルマ作りが特徴だ。一方のロードスターは、やはりオープンカーだからこそ感じられる爽快で上質な走りが魅力だ。特に一般道のワインディングなどで、軽快かつ快適な走りを求める層には最適だろう。いずれにしろ、両車は、こうした「しっかりとした個性」があるからこそ、長年多くのファンに支持を受けていることは間違いない。