2021年夏に発売される新型「BRZ」と秋に発売される新型「GR86」

 9年ぶりにフルモデルチェンジし、2021年に登場するトヨタ新型「GR86」とスバル新型「BRZ」。

 新型モデルは、初代モデルに対してFRスポーツとしての進化を感じると同時に、「GR86らしさ」「BRZらしさ」を明確に感じました。

2021年秋頃発売される予定のトヨタ新型「GR86」

【画像】兄弟車だけど結構違う!? トヨタ新型「GR86」とスバル新型「BRZ」を見比べる(32枚)

 両車を語るうえで、「なぜ新型GR86は新型BRZよりも発売時期が遅れるのか」というこの話題に触れないわけにはいきません。

 新型BRZは2021年7月29日より予約受注を開始して夏に発売、新型GR86は少し遅れて同年秋頃に発売される予定となっています。

 新型GR86のほうが後から発売される理由は、「これで開発完了」というタイミングで大幅な仕様変更をおこなったためです。

 振り返ること10数年前、トヨタとスバルの資本提携をキッカケに、初代86/BRZの共同開発がスタートしました。

「2社で1台を創る」をコンセプトに、走りの部分に関しては当初は共通スペックで開発が進められていましたが、開発の終盤、味付けの段階で、両社の走りに対するこだわりの違いから独自の仕様に分けることにしました。

 その違いを簡単に説明すると、86はトヨタとしては5年ぶりのスポーツカー復活ということで「後輪駆動らしさ」、BRZはスポーツカーとはいえスバルの安心・安全はマストということで「0:100のAWD」を重視したセットアップです。違いは僅かながら、メーカーの想像以上に話題となりました。

 この2台はデビュー後も「スポーツカーは育てる必要がある」と毎年進化・熟成をおこなっていきましたが、それに伴い両車の走りは徐々に近づいてきました。

 それが顕著にわかったのは、2016年の大幅改良(E型)時です。どちらもFRスポーツとしての純度が高められたのを実感すると同時に、86に「大人らしさ」、BRZに「FRらしさ」がプラスされていました。

 実際に走るステージによって初期モデルのときとは逆の印象に感じたことも多々あったほどです。そこでわかったのは、結局、「目指すべき“頂”はトヨタもスバルも一緒」ということです。

土壇場の仕様変更に開発陣はびっくり!

 2代目は2017年くらいから開発がスタートしたと聞いています。当然、両社の想いは「いっしょにいいクルマつくろう」ですが、ビジネスの観点で見ると、お互いの役割や開発するうえでのルール、そしてどれだけ差別化するのかなど、さまざまな契約を結んでから実務がスタートしました。

 そのなかで走りの味付けに関しては、「仕様は分けるが初代の経験から変更項目は最小限でおこなう」という結論になったのですが、具体的には「EPS制御」と「ダンパー」での差別化するという方針でした。

トヨタ新型「GR86」とスバル新型「BRZ」

 これは初代の進化の方向性が似ていたこと、さらにスポーツカーでも無視できない収益性などから判断したそうです。

 開発陣は「初代のバランスが非常に良いので、そのバランスを崩さずに進化させるのは非常に難しかった」と語っていますが、それ以上に難航したのはGR86の味付けだったと予想しています。

 その理由は2代目の基本構造にあります。

 プラットフォームは初代から継承されていますが、インナーフレーム構造やスタビライザー車体直止めなど、新型モデルは随所にスバルグローバルプラットフォーム(SGP)の技術が盛り込まれています。

 そのため、自然とスバルらしさが強くなってしまい、逆にGRらしさを出すのは難しかったはずです。

 とはいえ、開発陣は悩みながらも与えられた素材のなかで最大限の努力をおこない、独自のセットアップを作り上げました。

 しかし、その悩みをマスタードライバーの豊田章男社長がテストカーから感じ取り、仕様変更を指示したといいます。

 恐らく豊田社長は、「GRは“味”を大事にするブランドである以上、その味に妥協は許されない」、「トヨタ 86からGR86への進化」という強い想いからなどから判断をしたとのでしょう。

 なぜ開発終了間際に仕様変更が可能になったのかというと、契約内容の最後に「何があったときに」というために盛り込まれていた、「契約事項の変更は両社の合意があればOK」という一文によるものでした。

 とはいえ、実際のところは豊田社長自らスバルの中村社長に直接連絡し、トップ同士の「魂の会話」をおこなって了承を得たといいます。

 ただ、驚いたのはスバルの開発メンバーでした。土壇場の仕様変更はまさに寝耳に水状態だったそうですが、スバルの開発トップである藤貫哲郎氏は「開発が進むにつれてBRZ寄りになっていたのも事実で、『GR86は〇〇を変えたほうがいいだろうな』と思う部分もありました」と語っています。

 それはGR開発陣の悩みをよく知っていたこと、そして「スバルに任せると中途半端になってしまう」といわれたくないプライドもあったのでしょう。

 ただ、仕様変更の決定後は、「納得するまで」、「何とか間に合わせる」とスバル側も協力を惜しまなかったといいます。

 とはいえ、耐久性や信頼性の担保、さらに認証などの問題などもあり、正式発表に時間差が生じてしまったというわけです。

 GR86用に変更された部分はフットワーク部分が中心です。フロントスプリング(GR86:28Nm/mm、BRZ:30Nm/mm)、リアスプリング(GR86:39Nm/mm、BRZ:35Nm/mm)の変更、ショックアブソーバーの減衰特性もスプリングに合わせて当初のセットアップから変更されています。

 さらにフロントハウジング(GR86:鋳鉄、BRZ:アルミ)、フロントスタビライザー(GR86:中実 直径18mm、BRZ:中空 直径18.3mm)変更されました。

 どちらも重量が増す方向の選択となりますが、GR86らしさのためには必要なアイテムだったといいます。

 そして、リアスタビライザーは径の違い(GR86:直径15mm、BRZ:直径14mm)やリアトレーリングアームブッシュだけに留まらず、何と取付構造まで異なります(GR86:リアサブフレームブラケット取付、BRZ:ボディ直付)。

 じつはこれらの変更項目の多くは初代で使われていたアイテムが活用されています。もし初代が存在していなかったら、新型においても今回のような大胆な仕様変更は不可能でした。

 では、GRらしさとは何なのでしょうか。そのキーワードのひとつが「モータースポーツを軸としたクルマの開発」です。

 ただ、勘違いしてほしくないのは「モータースポーツを軸=サーキットスペック」ではないということです。

 言葉で説明するのは難しいですが、限界付近の走行だけでなく交差点ひとつ曲がるときでも「私はスポーツカーに乗っているんだ」と感じられるクルマの動きやフィードバック、そして運転中にどこかワクワクするような高揚感を色濃く感じることなのではないでしょうか。

 それらを踏まえると、「ドライバーが中心」や「クルマとの対話性の高さ」だと考えています。

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 気になるのは、両車の走りの味の違いですが、実際に乗り比べてみると、GR86は「GRスープラ」や「GRヤリス」と同じ「野性味」を感じ、BRZは「レヴォーグ」や「WRX S4」と同じ「洗練/安心」を感じました。

 どちらもトヨタとスバルが目指したFRスポーツカーとしてそれぞれが目指したコンセプトやキャラクター、走行性能をどちらもキチンと実現しています。

 そしてどちらを買っても笑顔になれるクルマであるということは、間違いないといえるでしょう。