コロナ禍でリモートワークが推奨され、自宅でのびのび仕事ができるようになったという人がいる一方、実は苦しみを背負ってしまったという人もいます。 

基本はリモートワークという職場に、派遣社員として入社した女性に話を聞きました。こういった事態はみなさんの身近にも起こるかもしれません……。

派遣社員の妙子さん(35歳)は、東京・世田谷区で一人暮らしをしています。今の会社に入ったのは2020年の夏ごろ。その前は別の派遣先に3年勤め、2019年末に契約期間満了を迎え退職しました。新型コロナウイルスのニュースが報じられ始める1か月ほど前のことでした。

ずっと残業続きの仕事だったから少しのんびりしよう…と思っていました。年末から知人のお店のサイトリニューアルを手伝い、春から次の契約先で働きたいと考えていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、新しい仕事がなかなか決まらない状況に陥ったのです。

収入が激減し、「さすがにやばい…」と本気で仕事を探しましたが、それでも派遣先は見つかりません。サイトリニューアルの仕事は自宅でやっていましたが、ワンルームの部屋では気分転換もままならず、家で過ごすうちに孤独感を抱くようになりました。そうこうしているうちに季節は夏を迎えようとしていました。

うつうつとステイホームを続ける日々が続きました。そんなときに派遣会社に紹介されたのがいまの職場でした。ウェブ関係の職種で、経験者を探していたとのことで職場見学(面接)もすんなり終わり、7月から働き始めることができました。

その際、妙子さんには心配なことがありました。それは「出社してもいいか」ということです。

それまでの生活ですでに自宅で過ごす時間に煮詰まっていた妙子さん。気持ちが沈みがちで、疲れがとれず気力がまったくわかない日もあり、仮にわいても動きが鈍いような感覚の日々が続いていました。少々リモートうつ気味だったのです。それに、自分の性格を考えると、オンラインで必要な事項を聞くだけではなく、実際に会ってムダ話などから上司や同僚のことを理解するほうが向いていると考えていたからです。

上司も妙子さんが参加するプロジェクトでは対面でのミーティングを行いたいということで、週2で出社できることになりました。週の半分ですが、それでもフルリモートより気持ち的にずいぶん楽だと感じました。

家で仕事をするときは好きな音楽をかけたりできて快適という人もいますが、妙子さんは音がすると集中できないタイプで、自宅で仕事をしているときは基本的に無音。それも孤独感を高めていたのかも知れません。

よいことばかりではなかったリモートワーク

リモートワークのことを「家で仕事できていいなー」と言ってくる人には複雑な感情が芽生えます。たしかにいい点もあるけれど、よくない面もたくさんあるのです。ましてや実家の両親は「リモートワーク=家にいる=休みみたいなもの」と思っているようで、それももやもやします。

7月からの新たな派遣先。緊張していましたが周りの人はみんなフランクで、週に1、2度会えることもあり、思っていたよりも早く打ち解けることができました。困ったことがあれば、チャットで話しかけるとすぐに相談に乗ってくれますし、会ったほうがよいと判断すれば都合を合わせて出社し、対面でじっくりと教えてくれました。コロナ禍での派遣先としてはいいところだった、ありがたい、と妙子さんは感謝でいっぱいでした。だんだん元気を取り戻して、モリモリ仕事できる自分を取り戻していったのです。

それから約半年 、順調に働いていたところに意外な落とし穴が。それは春の訪れとともにやってきたのでした。

朝から晩までなんだかザワザワ! どうしてそんなに元気なの!?

4月のはじめ、妙子さんが自宅でオンラインミーティングをしていると、窓の外から騒がしい声が聞こえてきました。「外の音が聞こえちゃうかな」と妙子さんはPCを抱えて部屋の隅へ移動。しかし、ミーティングが終わってしばらくしても外のざわつきはやみませんでした。嫌な予感がしました。

翌日は出社日だったので家を留守にしていました。その次の日の朝、自宅で業務を開始すると、また外からザワザワ音が。妙子さんは窓から道路を見ました。そして頭を抱えました。

ついに恐れていたことが……。その正体とは……。

朝と午後いっぱい、ざわつき続ける理由とは

妙子さんの部屋があるマンションは、大学の通学路に面していました。引っ越す前に内見しましたが、学生が春休みの時期だったので周辺は閑散としていて、静かで緑の多い環境が気に入って引っ越してきました。6年ほど住んでいましたが、基本的には平日は仕事で留守にしていたので、大学生の存在を気にすることはほぼありませんでした。

昨年は自宅でリモートワークをしていましたが、大学はオンラインで授業が行われていたため静かでした。付属の小学校・中学校・高校も近くにあり、最初の緊急事態宣言時は休校でしたが、それ以外は通常通り授業が行われているようでした。子どもたちの声は若干気になるときもありましたが、それでもまだ可愛いものでした。

マンションは駅と大学の真ん中にあります。「〇〇大学こちら→」の看板が立ち、ほとんどの学生が妙子さんのマンション前を通過していきます。妙子さんの家は直接道路には面していないのですが、大人数で話していれば、どうしても聞こえてきます。

中にはマナーのよくない学生もいて、通学路の要所、要所に警備員さんが立って 「うるさくしないように」「広がらないように」と注意を促してくれていますが、ほとんど効果はないようでした。

ある日、学生たちのあまりの騒ぎっぷりに耐えかねた妙子さんは、一度思い切って大学に苦情を申し入れたことがありました。しかし、丁重に謝られたのみで特に改善はされませんでした。「こちらがクレーマー扱いされてしまったかも……」という後味の悪さのみが残ることを知り、もう苦情は言えないと思いました。

ワンルームでの鬱屈したリモート生活だけではなく、こうした騒音問題もあって妙子さんはできれば出社したかったのです。しかし、今年になって2回目の緊急事態宣言が発令されると、会社からは厳しく出社を見合わせるよう通告されました。さすがに上司も「あんまり来ないで」という雰囲気です。それでも困っている妙子さん、実は週1でこっそり出勤しています。いつ注意されるかはわかりません。

大学生が3時限目を終えて帰るとき、中高生が下校する時間、続いて小学生の下校、最後に大学生の4時限目終わり……。なんやかんや午後はずっとワイワイしていて、なるべく窓から離れて会議に参加するなどしています。オンライン会議で相手の家から犬や鳥の鳴き声が聞こえてくると、その音のボリュームにうらやましくなるほどです。

それ以外にも、戸建てが多い妙子さんの家の界隈は、朝からラジオを大音量で流して庭の手入れをするお宅や、かなりの頻度で高圧洗浄機でグォーーと掃除をするお宅もあって、もうご近所全体カオス状態なのです。おかげでゴールデンウィークも早朝から目が覚めました……。

朝から晩まで続く騒音で集中できない…!

学生さんも近所の人も、みなそれぞれの人生がありますし、自分も心に余裕を持ちたいと思う妙子さんです。

人口密度の高い東京。リモートワークをしている日、外に出ると地元の商店街は人、人、人。出社すると都心のオフィス街は割と閑散としていて、こっちのほうが安全なんじゃないかと感じることもあります。

先日、各省や都が7月19日〜9月5日の期間を「テレワーク・デイズ2021」と定めたというニュースがありました。この期間、学校は夏休みに入るので静かになりそうですが、妙子さんの住んでいるところは、とあるオリ・パラ競技の会場への通り道でもあり、もしかしたら思うように人が減らない可能性があります。もちろん妙子さん自身が夏休みをとることもできますが、この期間ずっと休むわけにはいきません。

もう引っ越しするしかないのかな……。派遣だから何の補助もないけど。

ザワつく街の空気の中、最近は引っ越し情報サイトばかりを見ている妙子さん。リモートワークが推奨され歓迎される中で、彼女のような状況に陥っている人も案外多いのかもしれません。次の引っ越しは昼間も家にいる前提で物件を探そう、と妙子さんは強く心に決めているそうです。

文/越野スミレ