オリンピックとは何なのか。本当に平和の祭典なのか。なぜ商業主義が肥大化したのか。こうした疑問にこたえる五輪本の出版が続いている。五輪の内幕を暴露し、コロナ禍で混迷する東京五輪を予見していたかのようなものが多い。

反対運動に焦点

特に外国人の研究者による著作は手厳しい。

『オリンピック 反対する側の論理 東京・パリ・ロスをつなぐ世界の反対運動』(作品社、21年4月刊)は、今や五輪の付き物になった各地の反対運動を振り返り、五輪の変容をまとめている。

著者のジュールズ・ボイコフ氏は1970年生まれ。パシフィック大学政治学教授。元プロサッカー選手。バルセロナ五輪の米国代表。五輪研究の第一人者だという。

平昌、リオ、ロンドン、そして東京、ロス、パリの開催地・予定地での調査・取材をもとに、世界に広がる五輪反対の動きと論理、社会的背景を分析している。

「今日のオリンピックは『資本主義の化け物』」だという。膨大な費用、環境破壊、弱者を追い詰める開催地の都市開発、選手を使い捨てする過度な商業化......。

ボイコフ氏は3年前、『オリンピック秘史 120年の覇権と利権』(早川書房)も出版している。スポーツジャーナリストの二宮清純氏が解説を書いている。

今年3月には『オリンピックという名の虚構――政治・教育・ジェンダーの視点から』(晃洋書房)も出た。歓喜や希望の水面下にうごめく政治的、経済的思惑を暴き、若者の教育やジェンダー、アスリートの権利などについて人権的な視点から切り込んでいる。

著者のヘレン・ジェファーソン・レンスキー氏はトロント大学名誉教授。スポーツとセクシュアリティをテーマに、スポーツ・メガイベントの社会への負の影響について研究を続けている。

「オリンピックはその輝かしい名声に本当に応えているのか」と問いかけている。

搾取される国民

日本人の著作では、『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』 (文春新書、20年刊)が刺激的だ。著者の後藤逸郎氏はジャーナリスト。元毎日新聞記者。丹念な取材で「IOCを巡る不透明なカネの流れ」「高騰する放送権料のからくり」「二〇二〇年東京オリンピックの真実」などに踏み込んでいる。「利権の闇が広がり、ツケは国民に回される」と手厳しい。

『五輪スタジアム 「祭りの後」に何が残るのか』 (集英社新書、20年刊)は、1972ミュンヘンから2016リオデジャネイロまで、夏季五輪開催地の「今」を徹底調査。各大会のメインスタジアムの「五輪後」の稼働状況、運営形態、維持費の実態を明らかにしている。新国立競技場と東京の「ポスト五輪」を示唆する内容だ。著者の岡田功氏は大阪成蹊大学経営学部スポーツマネジメント学科教授。元毎日新聞記者。

オリンピックのボランティアに焦点を合わせたものでは『ブラックボランティア』(角川新書、18年刊)がある。著者の本間龍氏は元博報堂社員。広告代理店と政治やメディアとの関係に詳しい。17年に出した『電通巨大利権〜東京五輪で搾取される国民』(サイゾー)では、五輪と電通の関係に迫っている。

世界最大級のスポーツ・ビジネス

五輪は長くアマチュアリズムに支えられてきた。1964年の東京大会もその延長線上にあった。しかし、1980年代から商業化が進み、「2020東京五輪」は、1964年の東京五輪とは大きく様変わりしている。有力選手は企業のサポートを受け、IOC(国際オリンピック委員会)はスポンサー企業の広告料や、テレビ放映権料で潤う。今や五輪は、世界最大級のスポーツ・ビジネスと化し、コロナ禍でもやめられないということが各種メディアで報じられている。

加えてIOCの首脳部は長年、西欧の貴族らが牛耳り、特権階級化していることなども報じられている。

多数の五輪本は、肥大化した商業主義が制御の効かないレベルに達していることを改めて指摘している。東京五輪の混乱を予告していたといえる。東京五輪後は、さらに何冊かの内幕本が出ることになるかもしれない。