貴様、練習着写真集では、なかったのか…!!

僕は大変な思い違いをしておりました。本日我が家に届いたお楽しみのブツ、『羽生結弦写真集 The Real ――美しき練習着の勇姿』について、まったく違うことを考えておりました。もちろん詫びるつもりはありません。ハッキリと、大きく、「美しき練習着の勇姿」と書いてある。僕は告知を素直に受け止めるタイプですので、これは当然「練習着写真集」であろうと。そう思って当然であろうと。


羽生結弦写真集 The Real 美しき練習着の勇姿
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コチラとしては全集中練習着の呼吸ですよ。「練習着の呼吸、壱ノ型!ハァハァ!」「弐ノ型!ブホォォォォォ!!」「参ノ型!ヒャァァァァァァン!!」「肆ノ型!フシュルゥゥゥゥフシュルゥゥゥゥ!」「終ノ型!ユジュルルルルルルル!!」という連続攻撃を夜明けまで繰り出す覚悟でそれを開いたのです。何と言っても「練習着写真集」ですからね。練習着=一切の飾りなく動きやすい格好ですからね。しかも「The Real」ですからね。Realってありのままってことですからね。

たとえば、吉岡里帆さんが新しい写真集「The Real」を出します、となったら「脱いだか…?」と思うじゃないですか。それもただ脱いだんじゃなくて、何か不機嫌そうな顔でモノクロページとか挟みながら脱いでる感じの芸術的なヤツを想像するじゃないですか。「下町てくてく旅」とかのタイトルであれば脱いでるとは全然想像もしませんが(※そんな露出癖が絶対にないとは断言できないが)、「The Real」はそういう匂わせを感じるじゃないですか。ありのままの姿見せて、少しも寒くなさそうなヤツを。

もちろん羽生氏が脱ぐとは思っていないですよ。ただ、練習着縛りということですので、これはかなり癖を攻めた感じになるであろうと。公的な空間のために仕立てられた衣装を脱ぎ、ありのままの動きやすい姿をさらけ出す。それが結果的に呼吸を高めることはあると思うのです。これはかつてない「お宝」写真集に違いない。表紙も出ないうちから無意識に買っていた僕ではありますが、結果的にそれが「お宝」だったとあとから判明した。いいぞ山と渓谷社。鑑賞を終えた僕が「何たる写真集!」「けしからん!」「警告社だなチミは!」と机をバンバンする姿はハッキリ見えていました。

しかし――

思ってたんとは、違った――

悪い意味ではなく、そもそも違った――

「これは練習着写真集ではないでないかッ!!」と僕は震えていました。もちろん憤りからではありません。かつてマリリンこと本橋麻里さんが「初めての水着姿を収録」という触れ込みのDVDを発売したときに、ウェットスーツ姿のマリリンが出てきたときには怒りの投書をしたためはじめた僕ですが、この写真集はそういう意味の誤認ではありませんでした。

そこにおさめられているのは少年・羽生結弦が成長し、大人になり、世界へと羽ばたいていく成長記録でした。ドキュメンタリーでした。サンサーラでした。確かに全体の8割から9割は練習着姿の写真ですので、「練習着写真集」と言われればその通りではあるのですが、その写真がとらえているものは光り輝く羽生結弦氏がその光を生み出すために積み重ねている重たい日々そのものでした。

そして、そうした日々を過ごす羽生氏は「いつも大体練習着姿」だった、それだけのことでした。いつも練習をしていた少年が、そのまま青年になり大人になっていく、真っ直ぐにつづく道が写っていた。歪んでいたのは僕のほうだった。その恥ずかしさが、僕に「違うじゃないですかッ!!」「こんな真面目な感じだなんて聞いてないです!!」「不真面目だと言ったつもりもないんでしょうけどッ!!」と叫ばせたのでしょう……。

↓せやな……どう考えてもこの面々がワシらの呼吸を乱す感じで撮ってるわけがなかった……!

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2008年頃からおおむね時系列に沿って収録されている写真は、そのすべてが、一番幼い少年の頃からして、紛うことなき「羽生結弦」です。スケートを好み、練習に励み、集中したいときはイヤホンで音楽を聴き、カメラを向けられるとイケちらかす。選ぶ言葉は「努力」「感謝」「頑張る」でそれを有言実行し、心を許した人の前では悪戯っぽく笑う。俗に「黒い子」と呼ばれる練習着の佇まいも何も変わりません。「ここからここの間、家庭環境に何かあった?」と不安になる期間もありません。「あぁ、羽生結弦だ」と思います。もしこの少年のことだけを鮮烈に覚えている人がいたら、きっとテレビで「あの子だ」と気づくような、そんな真っ直ぐな成長を遂げる少年の写真たちです。

時系列に沿ってたくさんの出来事が通り過ぎていきます。阿部奈々美コーチと世界へ飛び立った頃のこと。刑事、龍樹、結弦の同級生組の青春フォト。早くもマイクに取り囲まれていく青年。10歳ほど若いブライアン・オーサー。ANAの広告とジャージ。クリケットクラブ。盟友ハビエル・フェルナンデス。今につながる人やものが写し出されていくなかで、歴史を作った試合のことは驚くほどアッサリと流されていきます。きっと「そこじゃない」のでしょう、この写真たちを一冊にまとめた意味は。光の部分はほかの機会にたくさん見ることがあるでしょうが、「そこじゃない」ものを見せたかったし、「そこじゃない」ところにある見るべきものをまとめたかったのでしょう。この機会に。

もしかしたら、この本は時計なのかなと思います。

時計のようにしてページをめくったときに、何かを感じられる本なのかなと思います。

大きく重たい手応えと、積み重ねられていく練習の日々。笑顔は思い出したように少しあって、栄光は一瞬に過ぎ去って、そしてまた重たい練習の日々がつづいていく。ちょうど今、羽生氏は「光」をとらえた本や映像では一瞬のうちに流れていく側の時間を過ごしているはずですが、その時間を、この重みと、このページ繰りの動きのなかで、僕らも実感として垣間見ることができるように思います。練習、練習、練習、練習、練習……とつづいていくページこそが、本当に羽生氏が過ごしている時間のペースなのだと。

だからこの時計はときおり不規則に進むのでしょう。「初心忘るべからず」と色紙に書いた23ページから、本書でもとりわけ異色なピンク色の背景のなかで笑顔のピースサインを見せている24ページの間。105ページから106ページの間。137ページから138ページの間。そこには収録されなかった、収録できなかった時間があります。「その期間の練習着姿の写真がなかった」と言えばそうかもしれないし、スケートよりも大きな何かと向き合っていたと言えばそうかもしれない。

ページとページの間にある時間に思いを馳せながら、この先もつづくだろうこの記録には、「練習着」がずっとおさまるようだといいなと思います。いつも練習着姿の青年が、昨日も、今日も、明日も、毎日練習着で変わり映えしないねと言われるような時間が刻まれていくといいなと思います。このページ数や重さでも、本当の「Real」には到底及ばないのでしょうが、少しだけ「Real」の時間に思いを馳せることができて、しばしの待ちの時間の寂しさも紛れるような気持ちです。光を待って時計が速く進むのを期待するのはもったいない。今はRealが記録されている大切な時間。「The Real II 収録中……」と思いながら、じっくりと愛でたい一冊でした。制作、出版、お疲れ様でした。いい買い物をしたと思います!

「それはそれとしてだ…」
「一番最後に綴じ込んである」
「この四つ折りポスターな…」
「四つ折りはアカンで…」
「四つ折りはすぐ破れるから…」
「十分にノドと開きに余裕がないと」
「開かれへんやないかい…」
「表紙も割と固めだし…」
「ん?」
「何?」
「ミシン目を打っておいたから?」
「切り離してから開いてください?」
「いやーーーー切らんよ!」
「切らんよ、こういうの!」
「投げ込みで挟んであるなら」
「ポスターだけ取り出すけど」
「つながってるのは切らない!」
「切らずにそっと開いて見る!」
「で、そっと開こうとしたら」
「内側の面がイケちらかしてる中学生」
「中学生ポスターかーーー!」
「DC(男子中学生)ポスターかー!」
「見たい!貼りたい!でも心配!」
「これ貼ってる部屋に」
「両親が急に来たら心配!」
「貼りたい!でも心配!」
「よし、コロナだから拒否しよう」
「会わない勇気とか言い張ろう」
「万一訪ねてきても絶対に入れない」
「数々のアレコレがある我が家だが」
「これはさすがに説明困難」
「DCポスターと手形とありがたい言葉」
「壁に貼ってるセレクションが」
「こだわりが強くて心配!」
「抱き枕よりアカンと思う」
「まぁそういう意味では」
「綴じ込みの四つ折りでよかった」
「これならば他人は覗かないし」
「僕も取り外して部屋には貼らない」
「最悪、両親は親だからいいとして」
「羽生氏が家を訪ねてきた場合」
「これ貼ってたらどう思うか」
「うわー、嬉しい!(笑顔)の可能性と」
「ありがとうございます(真顔)の可能性と」
「どっちに転ぶかわからんから」
「綴じ込みの四つ折りでよかった…」

↓ポスターはときどき慎重に開いて見ることにします!


2冊買ってポスターを切り離すのもアリですが、部屋に貼るときは1枚にしましょうね!

たくさん買って、壁面埋め尽くさないように!

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練習着とANAジャスで「黒本」「白本」2冊構成で第二弾を出すのもよさそう!