投資信託や保険も積極的に販売している銀行。中には、金融リテラシーの低い高齢者に対して高リスク商品を売りつけるような悪質なケースもある。ファイナンシャルプランナー・藤原未来さんは「客は、基本的な金融商品の知識だけでなく要注意な銀行員の傾向も知るべき」という。銀行員が発する典型的なキラーフレーズへの10個の切り返し方を紹介しよう--。
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■客をカモろうとしている銀行員、善良な銀行員の見分け方

--前回は先生に「投資してはいけない人の特徴」を12項目に分けて教えて頂きました(過去記事参照:「退職金1500万円分の投信が半減」銀行に買わされた50代独身女性の人生転落は自業自得か)。今回も “お金の素人が陥りがちな罠”についてのお話を伺います。

前回も触れましたが、以前、私の老母が、ある大銀行の行員に騙されたも同然の苦い経験をしました。勧めにのって高リスクの投資信託をまんまと買ってしまい、しかも、そのような売買を繰り返したので、かなりの額を損してしまった。これが尾を引いて、今でも銀行は少し怖くて……。トラブルの原因は、母にも私にも金融の知識がなさすぎた、ということもあるかもしれませんが、銀行の人に「こちらはお薦めです」と言われると、つい「あ、そうですか」となってしまう。もし、銀行の人とお付き合いするとしたら、何に気を付ければいいのでしょうか?

【藤原未来(ファイナンシャルプランナー)】善良であるはずの銀行員が「まさかそんなことを!」と思う方も多いと思いますが、実際にはお母様のような事案も少なくありません。そこで、今回は「真に顧客本位の銀行員か否かのチェックポイント」を挙げてみましょう。

--「顧客本位」……。昨年、はやったドラマの「半沢直樹」に出てきた北大路欣也さん扮する銀行の中野渡頭取が掲げていたスローガンも「顧客第一主義」でした。銀行にとってやはり大事なことなんでしょうか。

【藤原】はい、中野渡頭取が言っていた通り、とても大事なことですよ。金融庁も「真に顧客本位であるべし」と金融機関への指導を強めています。

本来であれば、金融機関の人間は真にお客様のことを考えて、あらゆる商品の中から最適なものをご提示する使命があると思うんです。しかし、残念ながら、今現在の銀行をはじめとする金融機関の多くは“手数料稼ぎ”とも揶揄(やゆ)されるほど、「商品販売」で販売手数料を稼がないと収益が得られない厳しい状態に追い込まれている状況です。なぜ、そのような状況になったかわかりますか?

--うーん……。昔は銀行と言えばお金を預けるところというイメージしかなかったんですが、いつのまにか投資信託や保険も売るようになりましたよね。

【藤原】そうですよね。世の中はどんどん変わっているのです。昔の銀行業務はもっぱら預金をたくさん集めて、集めた資金で企業に融資したり、個人に住宅ローンなどを貸したりして、主にそれで商売をしていました。

預金者につける預金金利よりも高い金利で企業や個人に貸し付けすれば、その差額が利益になるわけです。いわゆる「利ザヤ」を稼ぐってヤツですね。それが、バブル崩壊とともに金利も低下し続け、今のような「ゼロ金利」状態だと以前のような「利ザヤ」は期待できなくなってしまったのです。つまり、他の新たな収益源をみつけないと銀行経営自体が維持できなくなる状況に追い込まれていったのです。

■「国債を買いに行ったのに、言葉巧みに自行商品に誘導された」

--なるほど。その新たな収益源というのが、投資信託や保険商品の販売手数料ということなんですね? 銀行の生き残りのためには、商品をバンバン売らないといけないということですか?

【藤原】そうなんですよ。そして多くの場合、銀行の担当者や窓口の人たちは、高い販売ノルマを課せられているのです。それを達成しないと銀行自体の利益が出せず、リストラにつながって最終的には自分たちの生活が脅かされることになるわけなのです。

--売らなきゃ食べていかれないビジネスモデルになってしまったほどに、銀行の商売方法が大きく変わったっていう話ですか。でも、だからと言って、何も知らない私たち、特にお年寄りをそれに巻き込んで、無理に買わせているのだとしたら、それは許されることではないですよね。

【藤原】本当にそうですよね。ただ、支店の窓口担当者も組織に雇われている身ですから、厳しい販売ノルマを達成するためにはなるべく手数料の高い商品を売って利益を出さなければなりません。「しかたなく」または「知らず知らずに」顧客よりも銀行の利益を優先して販売してしまっているというケースも少なくないのは事実でしょうね。

--読者が寄せて下さった体験談の中にも、そのようなお話がありました。「国債を買いに行ったのに、言葉巧みに自行商品に誘導された」という内容でした。

【藤原】きちんと商品の内容を理解した上での契約ならば問題ないのですが、「国債よりも利回りが良い」「(メガバンクである)当行が潰れない限り大丈夫」「過去の利回りは一度もこの水準から落ちていない」というように、資料を見せられながら、畳み込まれがちです。結果、自分の思惑とは違う商品を購入してしまったと悩むケースもあるでしょうね。

--その資料もたいていは字が小さくて細かい。老眼にはきつかったりしますものね。結局、誰を信用すればいいんだって話になりそうですが、信用できる銀行員さんの目安ってあるんですか?

【藤原】では、先に「こんな銀行員には要注意」をリストアップしてみましょうか。その方がわかりやすいかもしれません。

■「要注意な銀行員、安心していい銀行員」の典型的言動10

《こんな銀行員には要注意!10》

1 客の話を聞かずにずっとしゃべり続ける
2 まずはキャンペーンを紹介する
3 必要以上に客の不安をあおる
4 客が投資に前のめりになっていたらこれ幸いと投資商品を勧める
5 客の投資についての理解度はどうでもよい
6 他社商品の欠点を強調する
7 客の投資の目的や理由を知らない
8 客の投資可能額を把握していない
9 手数料については軽くしか触れない
10 今が買うタイミングだと言って決断を急がせる

こういう銀行員に当たったら、要注意だと警戒したほうがいいですよ。こういうタイプは「真に顧客本位」とは言えませんから。良い銀行員というのは、この反対のタイプです。

1 自分はあまりしゃべらず客の話をよく聞く
2 キャンペーン商品を案内する前に要望や心配事をしっかり理解する
3 客に合った商品がなければそのように伝えて何も売らない
4 客が投資に前のめりになっていてもそこに乗らない
5 投資についての理解度が不十分な客にはリスク性商品はやめたほうが良いと言う
6 自社商品、他社商品にかかわらず「メリット」と「デメリット」を客観的に伝える
7 投資を始めたいという客にはその目的や理由をしっかり聞く
8 客の投資可能額を把握した上で、その範囲内で投資を勧める
9 手数料について明確に説明し、そのうち自行が受け取る部分も明示する
10 買うタイミングについて聞かれても正直に「わからない」と答える
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--あ〜、母の担当だった銀行員さんも、そういえば饒舌でしたね。母のことを「さすがお目が高くていらっしゃる!」と盛んにおだてていたのを目にしたことがあります。誰が見たって「投資のリテラシーが低い客」なのに、フタを開けてみたら「リスク性商品」のみを買わせていましたから……。でも、このようにリテラシーが低い客が、銀行の窓口で「投資の誘い」を受けたときはどのように対処すればいいのでしょうか?

【藤原】そうですね。勧誘されたときに、絶対に商品を買ってはいけないということはないのですが、まずは慎重に対応すべきですね。銀行員が発する「キラーフレーズ」があるので、それを言われたら、こう返してみると、その返答の仕方で顧客のことを本当に大切に思っているのかの判断がある程度つきやすくなるでしょう。例えば、こんな感じです。

■腹黒銀行員のセールスには「あなたもその商品買ってますか?」と言え

《キラーフレーズが来たらこのフレーズで切り返せ》

1 今の低金利では預金では増やせないですよね
➡そうですね。あなた自身は預金以外にどんな投資しているのですか?

2 預金よりは利回りの良い商品がありますよ
➡あなた自身もその商品を買っていますか?

3 今人気の商品で皆さん買っていますよ
➡「人気がある商品」=「私の状況に合った商品」ということですか?

4 お得な特別キャンペーンの商品がありますのでご紹介します
➡そんなにお得なら身内の方にも紹介して買ってもらっていますか?

5 最近は○○(例:AIファンド)が注目されています
➡最近注目されているかどうかが判断基準なのですか?

6 リスクはありますがそれ以上に利回りが出ています
➡100万円預けたら最大いくらぐらい元本割れするリスクがありますか?

7 将来値下がりし始めたら乗り換えれば大丈夫ですよ
➡乗り換える時にはまた手数料がかかりますよね?

8 この良いタイミングを逃すともったいないと思います
➡タイミングが良いかどうかは後になって初めてわかるのではないでしょうか?

9 このまま持っていてもなかなか戻らないので良いものに変えましょう
➡なぜ戻らないとわかるのですか? なかなか戻らない要因を教えてください。

10 著名な投資専門家も将来性があると強く勧めていましたよ
➡その方の予測は今まで必ず当たっていますか?

写真=iStock.com/Makhbubakhon Ismatova
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--なるほど。銀行員さんと対等にディスカッションができないといけないんですね。よくわらないままに窓口に出向くと、“雰囲気”で買ってしまい、あちらの思う壺にハマる危険がありますね。

【藤原】そうです。やはり大切な財産ですので、金融商品は自分でよく理解した上で選ばないといけないものです。

--何となく信用できそうという理由で「何となく売買する」が一番、マズいということですね。

次回は、今回の学習を活かして「銀行の窓口では提案されるな、自分から提案しろ!」という“銀行窓口攻略法”をケーススタディで学びたいと思います。

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鳥居 りんこ(とりい・りんこ)
作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。
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藤原 未来(ふじわら・みき)
独立系FP 株式会社SMILELIFE project代表取締役
1級ファイナンシャルプランニング技能士・ファイナンシャルプランニング技能士会代表幹事、一般社団法人 信託制度保障協会理事。1989年慶應義塾大学経済学部卒業。三井生命保険相互会社(現大樹生命保険株式会社)など経て、2017年、株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けのトータルライフプランニングサービスである「ライフブック」サービスをスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
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(作家 鳥居 りんこ、独立系FP 株式会社SMILELIFE project代表取締役 藤原 未来)