水害対策として注目されている“田んぼダム”の能力を最大限に発揮させようと、全国各地で実証が進んでいる。水田の排水栓をスマートフォンなどにより遠隔操作で開閉できる機器を導入し、豪雨前の落水や、豪雨中の貯留などを公的機関が一斉に管理。雨水流出量のピークをカットし、河川や水路の水位の急上昇を防ぐのが狙いだ。農水省の「スマート田んぼダム実証事業」の一環。現場では、排水栓を開け閉めする基準の設定や機器導入が始まろうとしている。

機器導入や基地局整備 豪雨時スマホで貯留・落水


 田んぼダムは、水田の排水口に雨水の流出を抑えるせき板や装置を設置して、水田から河川や水路への急な流出を防ぐ取り組み。下流域の水害リスクを低減できる。近年の豪雨被害の増加を受けて注目されている。スマート田んぼダムは、自動給配水栓や水位計、通信基地局を設置。スマホなどで操作できる。

8県内に設置


 2021年度に始まった同事業では、自動給排水栓などの整備を支援。豪雨前に落水して水田の雨水貯留量を増やしたり、水路の水位が高い場合は貯水したりするなど、遠隔操作で水田の給排水を管理する。遠隔操作で、一斉に確実に複数の水田の給排水を管理できるのが利点だ。豪雨時でも現場に行かずに安全に操作できる。

 実証面積は全国約200ヘクタール。秋田と宮城、栃木、新潟、富山、福井、兵庫、熊本の8県が採択された。豪雨時に一斉操作できるような地域内の体制整備や調整も支援する。

 新潟県では新潟市内の水田8カ所、約14ヘクタールで実証する。自動給排水栓は、このうち4ヘクタールで計26カ所に設置。従来型の田んぼダム設備を使う水田や、田んぼダムの設備を導入しない対象水田も設け、雨水の流出量を比べる。

 5月中には機器の設置が完了する見込み。地元の土地改良区などと協議し、豪雨前に排水を判断する予報雨量の基準などを決める。

 田んぼダム用設備の導入面積は約6000ヘクタールと、市内の水田面積の2割に上る。排水路から河川に流す排水機場の数も多い。同市農村整備・水産課は「市内の3割が海抜0メートル地帯で、もともと内水氾濫など水害に悩まされてきた。排水機場の能力に合うような治水管理をしたい」と期待する。

被災地で検証


 昨年7月の豪雨で甚大な被害があった熊本県では5月末から、球磨川流域の湯前町で実証をスタートさせる。水田40筆、約10ヘクタールで、約80カ所に自動給排水栓を設置する予定だ。4月末から工事に着手、5月末からの運用を目指す。

 県農村計画課は「実験によりスマート田んぼダムの効果を検証するとともに、スマート農業の普及にも役立てたい」と話した。事業は農業競争力強化農地整備事業の一環で行う。