35回お見合いをして、1年1カ月で離婚した38歳男性の胸の内とは?(写真:horiphoto/PIXTA)

3組に1組が、離婚をする時代だと言われている。仲人をしている経験から言えば、離婚経験者ほど次の結婚を望むし、お相手を探すのも早い。失敗をしても、「結婚は、もうこりごりだ」とならないのは、離婚した相手とは相性が合わなかっただけで、結婚自体はいいものだったと考えている人が、多いからではないだろうか。

仲人として、婚活現場に関わる筆者が、婚活者に焦点を当てて、苦労や成功体験をリアルな声とともにお届けしていく連載。今回は、38歳男性の離婚までのいきさつを追いながら、再婚について考えてみたい。

恋愛経験がなく、相談所に入って結婚した男性

会計事務所に勤めている智明(仮名、38歳)が、入会面談にやってきた。166センチと小柄だが、スリムな体型で、目鼻立ちの整ったハンサムだった。

「実は半年前に、離婚をしました。前の妻とも結婚相談所で出会ったんです。1年1カ月の結婚生活でした。僕は前の相談所に入るまで、恋愛らしい恋愛をしたことがなかったんです。女性と2人きりで食事をしたり出かけたりするのは、相談所に入ってからのこと。35回お見合いをして、35人目に会ったのが元妻でした」


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そして、前の結婚について、語り出した。

相談所に入ったのは、36歳になる直前だったという。成婚が決まったのは、38歳になる直前のこと。1年間に35人と会ったのだから、それまで恋愛経験0だった空白の時間を、短時間で一気に埋めたことになる。もしも普通に生活していたら、38歳になるまでに結婚を考えている女性と35人も巡り会うことはできないだろう。

「彼女とは、4月にお見合いをして、1カ月半のうちに9回ほど会い、プロポーズをしました」

1カ月半で結婚を決めるのは、早すぎると思う人がいるかもしれない。しかし、結婚相談所では、珍しいことではない。

結婚相談所での結婚は、まずはプロフィールで相手選びをする。年齢、学歴、年収、住んでいる場所、どんな仕事をしているのか、家族構成、初婚か再婚かなど、自然の出会いならば時間をかけて知っていく相手の情報を、会う前に知ることができる。なので、お見合いを申し込んだり、受けたりするのは、自分が結婚をしてもいいと思う条件の相手だ。お見合いしてお付き合いに入ったら、人柄に触れながらフィーリングを確かめ、生活をしていくうえでの価値観が一緒かどうかを見ていけばいい。

私の相談所の最短記録は、2週間だ。そのカップルは、1年後には女の子を授かり、今も幸せに暮らしている。生活圏内で出会い、5年6年付き合って結婚しても、すぐに離婚をしてしまうカップルもいる。結婚相手を決めるのに大事なのは、どのくらい付き合ったか、その時間ではない。

一緒の生活が始まったときに、どのくらい相手を思いやれるか。何か問題が起きたときにそれを2人で話し合い、乗り越えることができるか。相手の欠点を見逃し、許すことができるかではないだろうか。

実際何年も付き合っていたカップルが結婚し、その後、モラハラやDVが発覚することもある。

実家の遺産トラブルから、人が変わった元妻

智明の場合は、どうだったのか。

「結婚生活は、最初からすれ違いの日々でした。当時、今とは違う会計事務所で働いていたのですが、365日のうち300日出勤という過酷労働を強いられていました。帰宅は毎日10時過ぎ、遅いときは11時を回っていました。元妻は医療機関に勤めていたので朝が早く、帰宅したときには、すでに就寝していることもしばしばでした」

日々の夫婦の会話をする時間がほとんどないままに、新婚生活3カ月が過ぎた。

「その頃から、何か元妻の様子がおかしくなったんです。だんだんと笑顔が消えていったし、誰に電話しているかわからなかったけれど、いつもお金の話をしていた」

元妻は、遺産相続争いに巻き込まれていた。元妻の父はすでに亡くなっていたのだが、祖父母が相次いで亡くなり、その遺産を元妻と元妻の妹と叔母が相続することになった。祖父母が残した土地を売りたくない叔母。土地は処分してお金に換え、それを相続人で分けて、スッキリとさせたかった元妻と妹。そこに妹の夫が出てきて、「知り合いの弁護士を立てる」と言ったことから、遺産相続が泥沼化していった。

その話をあるとき智明は元妻から聞かされたのだが、智明には関係のないことだったので、口は出さずに静観していたという。

そんな最中、元妻が、「賃貸で毎月家賃を払っているなら、マンションを買ったほうがいいんじゃない?」という話を持ちかけてきた。家を買えば、そこが終の住処になり、結婚への意識も変わる。智明は、「これは、ギクシャクした関係を修復するには、いいチャンスだ」と思った。

「頭金いくら出せるの?と聞かれて、『2500万円くらいは出せるかな。それで、5000万円くらいのマンションを買って35年でローンを組めば、修繕費を入れても返済額が今の家賃よりも安くなるよ』と言ったんです」

会計事務所に勤めていた智明は、そうしたお金の計算は得意で、これを言えば元妻が喜んでくれるんじゃないかと思った。ところが、一気に元妻の表情が曇った。そして、険しい顔で問い詰めてきた。

「何で2500万円も頭金が出せるの? 結婚するときに、私が『貯金はいくらあるの?』と聞いたら、『1500万円くらいかな』って言ったよね!」

実は、智明の祖父が資産家で莫大な遺産を残し、21歳のときに父が他界したので、その遺産の一部を相続していたのだ。

「1500万円というのは、僕が働くようになって自分で貯めた貯金だったんです。相続したお金があることは、彼女には伝えていなかった。貯金額が少なくなるのは嫌だろうけど、実はもっと持っていたと増える分には、問題がないと思っていたから」

ところが、実家の遺産相続問題でお金に過敏になっていた元妻は、喜ぶどころか、ほかにも何か隠し事があるのではないかと、智明に対して疑心暗鬼になっていった。

「そこから、関係がますます悪化していきました」

ハワイ旅行で、関係修復を試みたものの

智明は、関係を修復する方向に持っていきたかった。そこで、ゴールデンウィークに、先延ばしになっていた新婚旅行に行くことを提案した。

「そうしたら彼女は、『ハワイに行きたい』と言うんです。義父さんが生きていた頃に、家族でよく南の島に海外旅行を楽しんでいたって。義父の仕事の関係で、子どもの頃は、海外に数年間暮らしていた経験もあったようで。僕は海外には行ったことがなかったんだけれど、海外慣れしている元妻に乗っかれば、楽しい旅行ができるだろうと思って、ハワイ旅行に行くことを決めたんです」

すると、その新婚旅行に彼女の母親もついてくることになった。

「最初は驚きましたよ。『何で?』って聞いたら、『お父さんが死んでから、海外旅行にも行っていないし、いい機会だから一緒に行きたい』って。それを拒否したら、さらに仲が気まずくなるだろうと思ったし、ホテルも違う所を取るというのだから、向こうでは別行動で、お義母さんはお義母さんでハワイを楽しむのかなと思っていたんです」

着いた日は3人で夕食を取り、お互いが宿泊するホテルへ帰ったのだが、翌日は朝9時に近くのショッピングモールで母と娘は待ち合わせをする約束をしていた。そこから1日中3人で行動をし、夜に解散。それが、旅行滞在期間中、毎日続いた。

「元妻とお義母さんさんがやりたいプランが毎日スケジューリングされていて、自分はそこについていくだけ。食事も昼夜一緒だから、結局関係修復の話し合いもできないし、何のための新婚旅行なのかと。さすがに僕もヘソを曲げて、帰りの飛行機の中では、僕と元妻との間に冷たい空気が流れていました」

余計に2人の関係を悪化させた新婚旅行になってしまった。

そして、結婚8カ月目に入り、ある光景を見て、離婚は避けられないと悟った。

「結婚するまで僕は実家暮らしでしたが、元妻は1人暮らし。家電や家具がそろっていたので、使えるものは新婚生活で使っていたんです。シングルベッドも買ったばかりだというので、同じメーカーのシングルベッドをもう1つ買って、くっつけてダブルにして使っていた。ところが、ある日仕事から帰宅したら、くっついていたはずのベッドが、離されていた。その光景を見て、海がパカッと割れたモーセの海割りを思い出しましたよ。一緒のベッドには寝たくないという彼女の無言の主張でした。それを見たときに、これはもう無理だなと思いました」

ひたすら関係修復の話し合いの機会を持とうとしていたが、そこからは、具体的な離婚に向けての話になっていった。

一度裏返った女性の気持ちは戻ってこない

離婚に向けての話し合いが進んでいく中で、智明はあるとき聞いた。

「どうして僕と結婚したの?」

すると、元妻は平然といった。

「親に、『一度くらい結婚はしておかないと、世間からヘンな目で見られるわよ』と言われて、結婚相談所に入ったの。結婚してみたけど、本当は1人が楽でよかった」

智明は、離婚になったことはとても残念なことだと思っていたのに、元妻は、むしろスッキリしたような顔をしていた。何とかもう一度話し合えないかと、一縷(いちる)の望みを抱いていたのだが、「女性は、一度決めてしまうと、もう気持ちは裏返らないものなのだ」と、そのとき悟った。

さらに元妻は言った。

「ガスも水道も電気も、私が止める連絡を入れておくから、私がいないときに、自分の荷物を全部運び出してね。何日にやるかメールで教えてくれれば、私はその日、家にいないようにするから」

9月の半ばに智明は、自分の荷物をすべて実家に運んだ。その後、離婚届を提出して、1年1カ月の結婚生活は、幕を閉じた。

智明は私に言った。

「すごく美人だったので、“結婚相談所にもこんな人が登録しているんだ”って、思ったんですよ。だから、結婚が決まったときは、有頂天でした。でも、生活が始まったときから、生活する時間のサイクルがズレていて、気持ちを通わせることができなかった。早い段階で、ゆっくり話し合う時間を設ければよかったのだけれど、その時間も取れなくて、彼女の気持ちがどんどん離れてしまった」

そこに、彼女側に相続問題が持ち上がり精神的に参っているときに、智明が祖父から莫大な遺産を受け継いでいたことを知った。智明は、悪気があって隠していたわけではないのだが、遺産のことでもめていた元妻は、智明に対する猜疑心を膨らませてしまった。

「次の相手を早く見つけて、幸せになりたい」

 智明は、続けた。

「ただ僕は、結婚自体はいいものだと思っているし、失敗して学んだことを次の結婚で生かしていければいいなと思ってます。できることなら子どもを授かって、家族という形を作って、その中で歳を取っていきたい。今は転職もして、繁忙期でなければ定時に上がれるし、土日の休みも確保できているので、次の相手を早く見つけて、幸せになりたいです」

今は、結婚をするかしないかは、個人が選択する時代だ。「結婚はいいものだ」「結婚してみたい」と思っている人は、結婚を経験してみるといい。

また再婚者は、失敗を糧にして、智明のように次の結婚に臨めばいい。

私は、智明に言った。

「一度結婚経験がある人のほうが、結婚がどういうものかをわかっているし、出会ってから結婚に至るまでのステップを踏んでいるので、お相手が見つかったら、何をどうしたらいいか、道順をつけていくやり方を知っている。だから、次の結婚はしやすい。今度こそ幸せになれるお相手を探しましょう。応援しますよ」

智明の婚活が、これからリスタートする。