1997年公開の『時計じかけの摩天楼』から数えて24作目。劇場版『名探偵コナン』(以下、劇場版『コナン』)シリーズの最新作『緋色の弾丸』が公開を迎える。

劇場版『コナン』といえば、アクションに重点を置いたスリリングな展開と、安室透や怪盗キッドなど人気キャラクターにフォーカスしたストーリーが、ここ数年の大きな特徴。シリーズは7年連続で最高興行収入を記録更新中と、快進撃を続けている。

こうした躍進のキーパーソンのひとりこそ、本作で脚本を手がけている櫻井武晴だろう。

櫻井は『相棒』や『科捜研の女』など、実写ドラマシリーズを数多く手がけている、いわば事件モノのプロフェッショナル。劇場版『コナン』では2013年の『絶海の探偵(プライベート・アイ)』から参加し、『業火の向日葵』、『純黒の悪夢(ナイトメア)』、『ゼロの執行人』で脚本を担当。最先端の科学技術を駆使した上質なトリックと、キャラクターの魅力を融合させた小気味よいシナリオ運びで、もはや同シリーズに欠かせない存在だ。

今回、そんな櫻井に課せられたミッションは、本人にも「最高難度」と言わしめた「赤井一家(ファミリー)」。アンタッチャブルで謎多き一族に対して、櫻井はどう挑んだのか?

取材・文/岡本大介
※インタビューは2020年3月に行われました。昨年の新型コロナウイルス感染症の流行による劇場版公開延期を受け、記事の内容を一部調整しております。

事件の濃淡が激しいのが『名探偵コナン』の魅力

櫻井さんは2013年公開の『絶海の探偵(プライベート・アイ)』から劇場版『コナン(以下、コナン)』に参加されていますが、どういった経緯で参加することになったんですか?
諏訪道彦さん(元プロデューサー)から直接電話がかかってきて、「やりませんか?」と誘われたのが最初だったと思います。

それまでアニメ作品に関わったことがなかったので、言われたときは「なんで僕なの?」と驚きましたが、考えてみれば僕の仕事の9割方は「事件モノ」。ですから、おそらくはその流れで誘っていただいたのだと思います。
話を聞いて、すぐに引き受けることにしたんですか?
即答でした(笑)。というのも、実写では到底できそうもないとあきらめていたネタのストックがたくさんあったので。アニメならそういったスケールの大きな話もできるかもしれないと思ったんです。
実際に『絶海の探偵(プライベート・アイ)』はイージス艦を舞台にした、スケールの大きなお話でした。
『名探偵コナン』は子ども向けのコンテンツですから、さすがにイージス艦は厳しいかなとも思っていたら、青山(剛昌)先生が「いいよ」と。『名探偵コナン』という世界はそんなこともできるのかと嬉しくなりましたし、とても面白いチームだなと思いましたね。
『名探偵コナン』という作品については、当時どの程度までご存知でしたか?
原作漫画を読んだことはなかったんですが、TVアニメはよく観ていました。ただしキャラクターの魅力やその関係性という視点では観ていなくて、完全に一話完結型の「事件モノ」として楽しんでいました。
「事件モノ」として観た場合、『名探偵コナン』という作品はどんなところが特徴的だと感じますか?
事件の「濃淡」とでも言うのか、じつにバリエーションが豊かで、いつもそこに驚いていました。

明らかに子どもに向けたものもあれば、逆に大人に向けたものまで、事件ごとにがらりとテイストが違う。その振り幅やバランス感がスゴいんですよね。とくに昔のエピソードは犯行の手口がけっこう生々しいものも多くて、すごく攻めているなと感じていました。
TVシリーズの執筆陣には、事件モノの実写作品を手がけていらっしゃる方もかなり多いですよね。
そうそうたる顔ぶれですよね。あとで知って「なるほど、だからか」と合点がいきましたから。

何よりTVシリーズはもう20年以上放送されているので、『名探偵コナン』を観て育った世代が自然と大人向けの作品にも入ってきてくれている。そういう意味でも『名探偵コナン』はすごく重要な役割を果たしていると思います。まさに日本特有の文化だと感じています。
事件モノのミステリーを取り巻く文化は、日本と海外とで違いますか?
違うと思います。海外の方と仕事をすると、そもそも一般の視聴者に事件モノの素地がないので、よく「わかりにくい」と指摘されるんですよ。海外だと、このミステリー作品は犯人探しなのか、トリック探しなのか、動機探しなのか、あるいは人間ドラマなのかを最初にきちんと提示しないと成立しない。

でも、日本の場合は『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』のような作品がベースにあるので、そこの説明が必要ないんです。開始5分ほどで「なるほど、こういうタイプね」と、視聴者が自分でジャンルを振り分けてくれるんです。日本人は子どもの頃からそういうスキルが育まれているので、自然と『相棒』や『科捜研の女』を読み解くことができるのだと感じます。

「赤井一家(ファミリー)を全員出す」は青山先生の要望

『緋色の弾丸』は、櫻井さんが劇場版『名探偵コナン』に関わって以来、5作目となる作品です。企画がスタートしたのはいつ頃でしょうか?
打ち合わせが始まったのが2019年の初頭で、脱稿したのが5月か6月です。だいたい例年と同様のスケジュール感で、とくに長いとか短いとかはなかったと思います。
毎年、さまざまなテーマで描かれる劇場版『名探偵コナン』ですが、いつもどうやって脚本を作られているのでしょう?
チームで骨格を作っていくスタイルですね。毎回、打ち合わせには青山先生や永岡(智佳)監督も参加します。

今回の場合、最初にキーワードとして挙がったのは、「2020年なのでオリンピック絡みにしよう」ということでした。ただ、オリンピックっていろいろな著作権が絡むため使いづらく、ちょっと難しいかと、一度はポシャったんです。
ゲストに「赤井一家(ファミリー)」を迎える点についてはいかがでしょう?
そのあとにゲストキャラを誰にするかを話し合いました。「内ゲストか外ゲストか(作品にすでにいるキャラか否か)。内ゲストなら誰にするか」という流れから、まずは赤井秀一で行こうと決まりました。

劇場版『名探偵コナン』で赤井さんを出すとなると、ライフルでの狙撃が演出的にマストになる。これまでにやっていない面白い狙撃って何だろうと考える中で、時速1,000kmで走る架空のリニアモーターカーを登場させることになったんです。
劇中では「オリンピック」を想起させる架空の「WSG-ワールド・スポーツ・ゲームス-」という要素も入っていますね。
当初はリニアモーターカー周りの設定で、赤井さんとFBIチームを軸としたシナリオができていたのですが、青山先生から「赤井だけじゃなく、(世良)真純やメアリーを登場させたい」と注文が入りまして(笑)。

それだけなら変える必要はなかったんですが、「事件を眺めているのではなくて、事件に絡んでくる存在にしたい」となったため、リニアモーターカーの事件だけでは足りなくなる。そこで一度はポシャった「オリンピック」要素をもう1回持ってくることにしました。

世界的なスポーツの祭典であれば、イギリスからも要人が来日するわけで、それならメアリーや真純とも絡ませることができる。これでようやく整ったと思ったら、今度は羽田秀𠮷を加えた「赤井一家(ファミリー)全員を出そう」となって、再び「うわー」ってなりました(笑)。
そういった注文の一つひとつに答えていくのが劇場版『名探偵コナン』の脚本作業なんですね。
青山先生の中には、ストーリー以前に「赤井を出すならこれをやりたい」とか「このセリフを言わせたい」とか、そういう明確なビジョンがあるんですよね。

一方で、監督をはじめアニメスタッフ側にも「こんなアクションがやりたい」といったビジュアルや演出へのこだわりがあります。僕はいつもそれらが成立できる舞台を整えることだけを考えていました。

脚本作業は超難解なジグソーパズルのよう

今回の脚本作業でもっとも苦労した部分はどんなところですか?
今回に限った話ではないんですが、『名探偵コナン』の脚本って、確認作業が尋常じゃないんですよ。

たとえば僕が関わっている『相棒』や『科捜研の女』など、実写の長寿作品でも多くのキャラクターが登場しますが、それはまだ各ライターがキャラクターの相関をちゃんと共有できるレベルなんです。

でも、『名探偵コナン』は比べものにならないほどたくさんのキャラクターが登場しますし、さらに恐ろしいことに、それぞれが何を隠して何を公開しているか、それを視聴者がどこまで知っているのか、が複雑に絡み合っている。この確認作業がいちばん苦労するところなんです。
今回クローズアップされている赤井一家(ファミリー)はその最たる例ですよね。
そうなんですよ。赤井秀一だけならまだそこまで難しくはないけど、赤井一家(ファミリー)となると指数関数的に難易度がぐんと跳ね上がります。

赤井一家(ファミリー)を描く場合、先ほど言った情報公開レベルの問題とは別に、それが家族間でどのように認識されているかという別のフィルターもある。さらに、その関係性や隠している情報をコナンがどこまで知っているのか? あるいは灰原(哀)がどこまで知っているのか? 視聴者はどこまで知っていて、映画の公開時期までにそこに進展や変化は生まれるのか?

…そういった無数にあるミッションをくぐり抜けなくてはならないんです。
想像するだけでパニックになりそうです。
僕も発狂しそうでした(笑)。赤井一家(ファミリー)については、『名探偵コナン』に長く関わっているスタッフさんでもこんがらがる部分なので、セリフの一つひとつ、行動の一つひとつを青山先生に確認していただきつつ、1ページずつ慎重に脚本を進めていきました。
確認事項が多すぎて、全体を一気に進めることができないんですね。
コナンと赤井、赤井と真純など、キャラクター同士がお互いをどう認識しているのか、そもそもこの場所に居合わせていいのか、など、ちょっとした言動が全体の命取りになりかねない。気分的にはずっと地雷原を歩いているみたいです(苦笑)。

そんな危険地帯をくぐり抜けながらパーツを拾って組み上げていく作業は、まるで難解なジグソーパズルのようです。1万ピースのパズルが3種類くらいあって、グチャグチャに混ざった状態から完成させるくらいの難易度なんですよ。

「僕の恋人は…この国さ!」セリフの発案者は青山先生

櫻井さんは2018年の『ゼロの執行人』で安室透を描かれましたが、今回の赤井一家(ファミリー)と比べると、どちらがより難しかったですか?
断然、赤井一家(ファミリー)です。

安室の場合、黒ずくめの組織における“バーボン”や、探偵としての“安室透”のエピソードはかなり描かれているものの、公安警察の“降谷零”の顔はそこまで描かれていなかった。だから劇場版は、そこを丸々まかせてもらえたぶん、やりやすかったんです。それこそ、『純黒の悪夢(ナイトメア)』で風見裕也という新キャラクターも作らせてもらったくらいですから。

でも、赤井一家(ファミリー)は文字どおり家族の話ですので、そうもいかなくて。関係性がより複雑で、しかも自分で決められることが少ないぶん、苦労しました。
たとえば『ゼロの執行人』は、安室の「僕の恋人は…この国さ!」という決めゼリフが話題になりました。こういったエモーショナルなセリフも櫻井さんの発案ですか?
そういう飛び抜けたワードは、だいたい青山先生の発案です(笑)。僕は「こんな状況でこんなキザなこと言うのかな?」って躊躇しちゃうけど、それこそが劇場版『名探偵コナン』の魅力でもある。そういう意味で、毎回、青山先生のアイデアには助けられています。
そのほかにも、アフレコ収録の段階でキャストさんたちとの意見交換からセリフを修正することもありますし、『名探偵コナン』のことをよくわかっていらっしゃる方々が、みんなで考え抜いて作り上げています。僕もすごく正しいやり方だなと思います。
本作の予告編ではコナンと赤井の「万一のときが、来てしまったみたいだ」「了解した」のやり取りが印象的ですよね。ふたりの絶妙な信頼関係が感じられるセリフでした。
赤井とコナンの掛け合いについても、基本的な骨格は僕が作っているんですが、そこにセメントを流し込んで固めているのは青山先生です。細かいニュアンスも含めてたくさん修正が入っているし、それがあるからこそ、コアなファンにも届くクオリティになっているんだと思いますね。

静野監督の職人根性には、尊敬しかない

櫻井さんは永岡監督と初タッグだと思います。これまで一緒に劇場版『名探偵コナン』を作ってきた静野(孔文)監督や立川(譲)監督と比べて、どんな監督だと感じましたか?
今回が初めてのお仕事なので、永岡監督のすべてを知っているわけではもちろんないんですが、僕が組んだ3人の監督さんの中では、いちばん「普通」さを持った人だと思います。
普通、ですか?
いつでもフラットで、視聴者や読者にもっとも近い感性を持っていると思いますし、『名探偵コナン』の制作経験が豊富にも関わらず、ヘンに小慣れた感じがない。これまでのふたりとは違う、まったく新しいクリエイター像を体現している、という印象です。

静野さんや立川さんは、タイプこそ違うもののどちらもクリエイター然とした天才肌なので、そう考えると、じつはいちばんスゴいのは永岡さんなのではと、僕はひそかに疑っています。
ちなみに静野監督と立川監督は、どのようにタイプが異なるのでしょうか?
う〜ん、静野さんは「スゴ腕の職人」、立川さんは「エネルギッシュな活動家」でしょうか。どちらもスゴい人なんですけど、とくに静野さんは僕が初めてご一緒した監督ですし、付き合いが長いこともあって、特別に尊敬の念を持っていますね。
近年の劇場版『名探偵コナン』の興行的な成功は、静野監督の手腕によるところも大きいですよね。
そうですね。僕は当初、『名探偵コナン』はミステリーだと思ってチームに参加したんですが、劇場版に限っては、みんながアクションを望んでいるという空気もあったんですね。

その空気感を正確にピックアップして興行成績につなげたのが静野さんです。古参のファンから非難されることも半ば覚悟したうえで、より多くのお客さんに間口を広げていった。その姿勢は見習うべき点が多く、エンタメ界における職人そのものだと思います。
静野監督とはこれまで3作品でタッグを組まれていますが、とくに印象深い作品はありますか?
2015年の『業火の向日葵』です。じつはこのとき、大人の事情があって、脚本のほとんどのミステリー要素が使えないという事態が起きてしまったんですね。

当然、制作スタッフは大パニックになったんですけど、それでも静野さんは投げ出さず、アクションでつないで映画を完成させた。しかも前作を上回る好成績で。

普通の監督だったら絶対に「もうできない!」って投げ出すと思いますよ。それくらいの非常事態が起こったんですから。その一部始終から、静野さんの職人根性をまざまざと見せつけられました。あとになって静野さんは僕のところに謝りに来たけど、「あなたはプロの監督としてスゴい。僕には真似できません」と思いました。

僕は「当初の話と違うのでもうできません」と自ら作品を降りたことがあります。だからこそ、その一件で見せた監督のプロ意識を今でも尊敬しています。

皆さんがどんな反応をするのか、劇場で観察したい

劇場版『名探偵コナン』の興行成績が右肩上がりであることについて、プレッシャーを感じますか?
よく聞かれるんですけど、作品を成立させることに手一杯で、プレッシャーを感じる余裕はまったくありません(笑)。きっとプレッシャーを感じることができる人って、じつはまだ心に余裕があるんじゃないかと思いますね。僕の場合は本当に1ミリも余裕がないので、興収への重圧で筆が止まったという経験は一度もないんです。
では、自分の手を離れた執筆後はいかがですか?
前作と比べてどうかなとか、そういう山っ気が出てくるのは公開したあとで、お客さんの反応や数字がチラホラと出てくる頃かもしれません。

これは『名探偵コナン』だけでなく、僕が関わった劇場作品すべてで行っていることですが、公開中に3回は劇場に足を運ぶんですよ。まずは初日に近いところで行って、次にちょうど中間、最後は千秋楽に近いタイミングで行きます。
それはお客さんの生の反応をチェックするため?
そうです。いちばん後ろの席に座って、どのシーンでどんな反応をするのかを観察するんです。

狙ったところでウケてもウケなくても、自由に楽しんでいただければいいのであまり気にしないんですが、映画全体を通してお客さんの圧が一気に上がるところがどこだったのかを知りたい。それが時期によっても違うこともあるので、3回は観に行くことにしているんです。
その反応を今後の脚本に生かしているんですね。
映画はお客さんの生の反応を得られる数少ない媒体ですから、すごく勉強になります。専業の脚本家になって20年くらい経ちますけど、自分自身の脚本への手応えと作品の完成度はまた違いますし、さらにお客さんの反応もまた違ってきます。

それが面白いところでもあるんですけど、やっぱりお客さんがどこで湧くのかわかっておきたいので、ついつい劇場に足を運んじゃいますね。
本作を観たお客さんの反応も楽しみですね。
正直、今回は新型コロナウイルスの影響がありますから、公開や動員がどうなるのか、僕にはまったく見当もつきません。

早く劇場で映画を楽しめる世の中が戻ってきてほしいと願うばかりです。
【ネタバレ注意】ここからは『名探偵コナン 緋色の弾丸』の核心に関わるシーンの話が含まれています。これから鑑賞される予定の方はご注意ください。

「銀の弾丸(シルバー・ブレット)」は取材から生まれたアイデア

櫻井さんは実写作品の事件モノを多く手がけられていることもあって、最先端の科学技術を利用した仕掛けが多い印象を受けます。本作でも「超伝導磁石」などの技術が登場しますが、これはどこから着想されているのでしょうか?
赤井のライフル狙撃を生かすための装置として思いつきました。狙撃による演出は、やっぱり長距離であればあるほどワクワクするものなので、これまでにない超長距離の狙撃ができないかと考えたときに、超伝導磁石が使えないかと思いついたんです。

そうなると、舞台は技術的につながりの深い架空のリニアモーターカーだろうとなり、劇場版『名探偵コナン』のお約束でもある爆発シーンを火薬ではないものにしようと、数珠つなぎでストーリーの骨格ができていきました。

こうしたアイデアは、やはりこれまでの経験の蓄積から生まれてくることが多いですね。
そうしたアイデアを実際にシナリオに組み込むために、改めて詳細を調べていくんですか?
もちろんです。実現の可能性を探るために自分でも勉強しますし、専門家に取材もします。たとえば狙撃に「銀の弾丸」を使用することになったのは、取材をした結果、生まれたものですね。
どういうことでしょう?
専門家の方に「超伝導磁石を利用した狙撃をしたい」とうかがったら、「通常の鉄の弾丸では磁力の干渉を受けるので難しい」と。それで、干渉を受けない素材候補のひとつが銀だったんです。

赤井、あるいは赤井とコナンのコンビは黒ずくめの組織から「銀の弾丸(シルバー・ブレット)」と呼ばれていることもあり、これはピッタリだと思って採用しました。
そういう偶然もあるんですね。
取材先で作品の世界観を見つけることって、じつは意外と多いんですよ。それが取材の醍醐味で、いいところですね。

アクションシーンは青山先生からのお題

劇場版『名探偵コナン』といえばアクションも見どころですが、櫻井さんの脚本はストーリーを進行しつつ、自然な形で派手なアクションが組み込まれているのが印象的です。
いや、自然に組み込むのは無理ですよ(笑)。毎回、試行錯誤しながら、なんとかお題をクリアしていくだけです。
今回も赤井の狙撃をはじめ、カーチェイスや格闘戦など盛りだくさんでした。
それも試行錯誤の結果ですね。たとえばもともとのプロットには赤井、正確にはこのときは沖矢昴ですが、彼と真純の格闘戦は入っていなかったんです。

でも、青山先生から入れてほしいとリクエストがあって、それで作ったんです。「急いで拉致犯を追わなくてはならない状況下で、なぜふたりが戦わなくてはいけないんだろう?」と思いつつ、それが成立する段取りを考えて、どうにか作り上げました(笑)。
截拳道を駆使した格闘シーンについては、脚本上で細かい動きなども書かれているんですか?
いえ、アクションシーンの動きや演出はアニメスタッフの手腕におまかせで、僕はただ「截拳道で激しく戦うふたり」などと記しているだけですね。アニメーターさんは本当に大変だと思います。

「対立のない共闘」は盛り上がらない

コナン&赤井コンビの関係性や距離感についてはいかがでしたか?
コナンと赤井については、ふたりのあいだに信頼関係があるぶんだけ、描くのが難しいんです。信頼があるからといってズブズブの関係に書いてしまうのは違うので、「ふたりを分かつ一線はどこにあるのか?」を探っていく作業が必要でした。
お互いに信頼はしているけど、馴れ合うまではいかないという微妙な間柄ですよね。
作家視点で考えると、コナンと安室は「対立しながらの共闘」なので、ドラマとしても盛り上げやすいんです。

逆に「対立のない共闘」は、とてもドラマにしにくい。たとえばコナンと赤井が最初から二人三脚で事件解決に向けて動いていたとしたら、いったいどこで盛り上がればいいのか、とてもわかりにくくなるんです。

だからこそ、コナンと赤井の決定的な違いを探して描き出す必要があったんです。
ふたりの信念の違いが明確になったのが、赤井の超長距離狙撃シーンでした。
赤井はその場を制圧するためなら犯人を殺すことも辞さない。でも、コナンはそれを回避したいと思っている。あのシーンでは、ふたりは協力しながらもじつはバチバチに戦っているんです。そこを発見できたことで、初めてこのふたりの関係性をちゃんと描けたなと思いました。
そうだったんですね。ちなみに赤井を除くファミリーでは誰がいちばん苦労しましたか?
世良真純です。普段のTVシリーズで活躍する真純って、截拳道を操る女子高生探偵じゃないですか。ただ、それはあくまで「表の顔」ですよね。これまでに「裏の顔」はメアリーと一緒にいる姿くらいしか描かれていない。

でも、今回の真純はずっと「裏の顔」で行動していて、そこは本作で初めて明らかになる一面です。そうなると僕にはまったく想像が付かず、そこは青山先生に逐一確認しながら進めていきました。
櫻井武晴(さくらい・たけはる)
1970年11月25日生まれ。東京都出身。O型。東宝映画でプロデューサーを勤めたのち、脚本家に転身。実写ドラマ、実写映画の脚本家として、『相棒』シリーズや『科捜研の女』シリーズなど数多くの事件モノ、ミステリー作品に携わる。『相棒 Season 9』の第8話「ボーダーライン」では貧困ジャーナリズム大賞2011を受賞。劇場版『名探偵コナン』シリーズには2013年の『絶海の探偵』から参加。今回の『緋色の弾丸』で通算5作目となる。

    作品情報

    劇場版『名探偵コナン 緋色の弾丸』
    4月16日(金)より全国ロードショー
    原作:青山剛昌『名探偵コナン』(小学館『週刊少年サンデー』連載中)
    監督:永岡智佳 脚本:櫻井武晴 音楽:大野克夫
    主題歌:東京事変『永遠の不在証明』
    声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、池田秀一、ほか
    スペシャルゲスト:浜辺美波
    製作:小学館/読売テレビ/日本テレビ/ShoPro/東宝/トムス・エンタテインメント 配給:東宝
    劇場版『名探偵コナン』公式
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    Twitter(@conan_movie)
    https://twitter.com/conan_movie


    ©2020 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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