世帯年収約500万円の親子3人。36歳の夫は用途別に3つの財布を使うなどせっせと節約に励む一方で、支払いが年104万ともなる高額保険に入っていた。妻が家計の窮屈さを訴え、相談したファイナンシャルプランナーが下した家計改善のジャッジとは――。
写真=iStock.com/santima.studio
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■節約マニアの36歳夫が3つの財布を使い回す理由

「もう少し貯金が増やせる家計にしたい」

そう家計相談に来たのは、会社員のSさん(36)と共働きで会社員の妻(32)です。3歳の息子を連れています。手取りの世帯月収は43万5000円で、現時点の貯金額は約540万円。投資はしていません。

Sさんはお金を「現金で」貯めることにこだわっており、貯金(預貯金)に熱心です。そのために、早い段階からスマートフォンは格安スマホ、節水シャワーヘッドの利用やLED電球への切り替えなど、節約行動を積極的にしています。

家計管理に関する書籍やマネー誌の特集なども読み込み、「上手なやりくりには支出のメリハリが大切」「予算を決めれば支出のコントロールをしやすい」といった家計管理ノウハウをSさんはしっかり学んできたそうです。

口座引き落とし以外の家計は基本的に妻に任せているのですが、Sさんは、お金を3つのサイフに分け節約のためにしっかり予算管理すれば、豊かな生活を送りながら貯金を増やせるのではないかと考え、実行していました。

1つ目は「食費用」。食費、日用品代を管理していきます。予算は週1万2000円。

2つ目は「雑費用」。医療費や交通費、被服費、交際費など。予算は月2万円。

3つ目は「娯楽用」。娯楽費、理美容費、新聞代など。予算は月3万8000円。

■妻に「他をやりくりして予算内に収めろ」と命令

ユニークな家計管理ですが、Sさんは「財布内のお金は流動的に使えるし、予算も守れ、手間も少ない、非常に効率の良い家計管理方法だ」と自信たっぷり。ですが、この家計管理法を妻はあまりよく思っていないようです。

妻の話を聞くと、例えば、高熱の子どもをタクシーで病院に連れていき、予算をオーバーしてしまえば「他をやりくりして予算内に収めろ」と言われ、子どもの体調不良で保育園とやり取りするなどでスマホの利用料がいつもより高くなると、「無料通話を活用しろ」などと言われ、困ることが多いとのこと。とにかく生活上必要な支出をするというよりも「予算を守る」ことが優先で、必要なことにお金をかけにくいのだそうです。

■夫が独断で加入した「年104万円も支払う保険」はアリか

また、生命保険についても、夫が一人で決めてしまったことに不満を持っています。医療保障もついていますが基本的に貯蓄性の保険で、ドル建ての保険も多く含まれています。保険の担当者は「お得で人気の商品です」と説明していたけれど、妻は信じがたく契約したくなかったけれど、夫は押し切ったそうです。

互いに考え方も違うので、家計の相談を機に、無理をしながらガンガンお金を貯めるというよりは、もう少し気持ちにゆとりが持て、必要なことにお金を使える家計にしたいということが、妻の希望でした。

確かに、妻が契約したくなかったという生命保険料は高額だと思えます。保険料は月8万7000円で年間104万円を超えます。加入している複数の保険の内容をみると、お金をしっかりと貯める、という目的でみると、決してベターとはいえませんでした。「他にも適している方法があるように思います」。そういったことをお伝えすると、Sさんは信じられないというような表情をしていました。

保険は保険、貯蓄は貯蓄と分けたほうがいいのではないかとのこちらのアドバイスを聞き入れ、最終的には理解し、保険を見直すこととしました(月3万4000円に減額)。加入期間がまだ1年と短いので損失は小さくすみ、その損失分を他の方法に回したいとSさんが判断し、解約することとなりました。

■財布を3つから4つに増やした

財布の管理については、「予備用財布」をもう一つ設けることにしました。3つのサイフはSさんが懸命に考えたものですし、支出のスピードもつかみやすいものですからS家の家計の特徴として残すことで妻も納得しました。ただし、予算オーバーが妻のストレスにならないように月に1万5000円ほどを別途、予備費として持っておくことにしたのです。

また、妻のスマホのプランに、話し放題のプランをつけることにしました。明細を見てみると、月に1度は保育園と電話のやり取り、保護者同士の電話やり取りがあり、月の通話料は1500円を超えていたからです。契約したプランは月に1000円弱かかりますが、1回10分までの通話を月に何回しても通話料は無料。料金が一定となりますから、急に高額になったと夫から文句を言われることもなくなります。

他にサブスクを見直したり、美容室を価格の安いところに変更したり。コロナによる外出自粛の時期だったこともあって外出回数が減り、交際費や交通費も減りました。結果的に、無理なく5万5000円の支出を削減することができました。この削減額を貯金していくのですが、Sさんは自分たちの老後に向け、iDeCoなどの積立投資を始めることを検討し始めたようです。

節約も、支出を収入の中に収める努力も、大切なことです。お金が好きなことも、貯めたいという思いも大切です。ですが、貯めるために支出をガチガチに締めすぎると、当然にやりにくくなってしまいます。ある程度ののりしろを持ってお金を使い、豊かに感じられる暮らしをしながらお金を貯める。それができるような工夫をしていただきたいと思ったケースでした。

■家計コストカット額ランキング

1位 −5万3000円 生命保険料
ドル建てを含む貯蓄性の保険を解約した
2位 −6000円 娯楽費
コロナ自粛により自然減
3位 ―3000円 交通費
コロナ自粛により自然減
4位 −1000円 通信費
話し放題のプランを追加した
●増加費目 +6000円 その他
サブスクや美容室の見直しで9000円削減できたが、増やした予算1万5000円が加わった

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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万3000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は60万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を代表作とし、著作は143冊、累計330万部となる。オンラインサロン「横山光昭のFPコンサル研究所」を主宰。
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(家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表 横山 光昭)