シトロエンの新たなフラッグシップとなる「C5 X」(写真:STELLANTIS)

4月12日にフランスの自動車ブランド、シトロエンが発表した新しいフラッグシップ、「C5 X」がフランス車ファンを中心とした車好きの間で話題になっている。わが国にも少なくない熱心なシトロエンファンの中でも好評だ。

現在、所有している「GS」まで、6台のシトロエンを所有してきた筆者も同じ気持ちを抱いている。理由はいくつかあるが、最大のポイントは1970年代から80年代にかけて、このブランドのフラッグシップを務めた「CX」を思わせるスタイリングだろう。

そういえば昨年、シトロエンが発表した新型「C4」も、やはり1970〜80年代にかけて親しまれた大衆車GSを思わせるスタイリングをしている。


現在、筆者が所有している「GS」(筆者撮影)

新型C4のニュースリリースには、この年が誕生50周年だったGSに代表される「一連の大胆なコンパクトカーの流れを継承した」とあり、オフィシャルムービーには新型C4の走行シーンに一瞬、GSをフラッシュバックさせるシーンもあり、作り手がかつての傑作大衆車を意識していることがしっかり伝わってきた。

今回、デビューしたC5 Xのオフィシャルムービーにそういった演出はないものの、ニュースリリースには「シトロエンのトップレンジの歴史を彩ってきたさまざまなクルマを彷彿とさせる」という記述がある。

コンセプトカー「CXperience Concept」

さらにこのクルマのデザインが、2016年のパリモーターショーで発表されたコンセプトカー「CXperience Concept」にインスパイアされたものであることにも触れている。「CX」の2文字を大文字にしていることからも、このコンセプトカーがCXに影響を受けていることは明らかだろう。


「CXperience Concept」のエクステリア(写真:STELLANTIS)

CXperience Conceptは、シトロエン“Be different, feel good(より独創的に、もっと楽しく)”の精神をパワフルに体現するコンセプトカーとして作られ、ロー&ワイドなスタイリングや、コンテンポラリーな建築や装飾にインスパイアされたというホリゾンタル(水平)なインテリアが特徴だった。

ちなみにGSやCXのフォルムを描いたのは、当時のシトロエンのチーフデザイナーだったロベール・オプロンという人物だ。彼は「2CV」や「DS」を生み出したフラミニオ・ベルトーニのもとで働きはじめ、ベルトーニの没後はチーフデザイナーとしてグランドツアラーの「SM」やGS、CXを生み出した。

1974年にシトロエンがプジョーと合併してPSAを結成すると、ルノーに移籍。こちらでは、SMよりひと回り小柄なパーソナルクーペ「フエゴ」などを手がけた。さらにその後フィアットに移籍し、前衛的なスタイリングで衝撃を与えたアルファ・ロメオ「SZ」に関わった。

残念ながらオプロンは今年3月29日、新型コロナウイルス感染症でこの世を去ってしまったが、GSに続いてCXの精神を受け継ぐ新型車がシトロエンから登場したことを、特別な感慨とともに天国で見つめているのではないだろうか。

XMに近いパッケージング

C5 Xに話を戻すと、スタイリングはセダンとステーションワゴンの融合とのことで、エアロダイナミクスに特に配慮した点などはCXと共通する。


かつて筆者も所有していた「CX」(筆者撮影)

ただし、CXのセダンはハッチバックではなく独立したトランクを持つ構造で、別に垂直に近いリアゲートを持つワゴンボディが用意されていた。そのため、パッケージングでは、ハッチバックを取り入れた次のフラッグシップ「XM」に近いと言える。

ボディサイズは全長4805mm×全幅1865mm×全高1485mmで、日本では2015年に販売を終了した先代C5とほぼ同じだ。ホイールベースは2785mmとなっている。

ちなみに現在、日本市場でC5を名乗る車種としては「C5エアクロスSUV」があるが、こちらは4500mm×1850mm×1710mmとかなり短く、逆に背は高い。


「C5」の名を持つSUVモデル「C5エアクロスSUV」(写真:STELLANTIS)

ボディサイドで気づくのは、シトロエンが2014年発表の「C4カクタス」で導入し、新型C4にも採用した「エアバンプ」と呼ばれるプロテクションパネルが消滅していることだ。シトロエンのフラッグシップという車格、CXを思わせる流麗なシルエットにはそぐわないという判断なのだろう。

造形そのものも、新型C4に比べてキャラクターラインが整理されていて、フォルムの美しさで魅せるかつてのCXに近いものになっている。一方で最低地上高に余裕を持たせ、大径タイヤを組み合わせたところはCXと明らかに異なり、クロスオーバーSUV風である。


独特なプロポーションを持つ「C5 X」のサイドビュー(写真:STELLANTIS)

車名の最後の「X」はそれを意味しているのかもしれない。Xのつかない新型C5が登場すれば、さらにCXに近い雰囲気になりそうだ。

フロントマスクは、中央のダブルシェブロンのエンブレムから続くモールが左右に伸び、上下に薄いランプにつながっているという近年のシトロエンに共通する手法で、C5 Xでは左右の端がV字に広がっている。

この造形はCXperience Conceptで初めて提案されたもので、新型C4のほか、コンパクトカーの「C3」にもマイナーチェンジで導入された。今後、しばらくはこれがシトロエンの顔になりそうだ。さらにC5 XではC4に続き、リアコンビランプも外側に向けて開くV字型になっている。

開放感あるインテリアはCXのよう

インテリアは水平基調のインパネにセンターの12インチタッチスクリーン、高めのセンターコンソール、スライドスイッチを使ったATセレクターなどが特徴で、エクステリアと比べると個性は控えめだ。

しかし、スマートフォンのワイヤレスチャージャーや音声認識機能などモダンな装備を入れつつ、それらをことさら主張せずシンプルにまとめたところにシトロエンらしさを感じる。


水平貴重のインストルメントパネル(写真:STELLANTIS)

シートは、C3やC5エアクロスも採用しているアドバンストコンフォートシートを採用。厚みのある高密度フォームを使うことで、ブランドイメージにふさわしい安楽な座り心地をもたらす。

余裕のあるボディサイズを生かした後席の広さも魅力のひとつで、CXを思わせる広いガラスエリアが開放感をさらに高めてくれそうだ。

荷室はフラットなフロアとサイド、幅広く低い開口部など、ステーションワゴンの空間づくりを導入。定員乗車時でも545リッター、後席を畳むと最大で1640リッターの容積が確保してある。それ以外に収納スペースもあり、電動テールゲートにはハンズフリー機能も備わる。

メカニズムについても触れておくと、パワーユニットはガソリン仕様とプラグインハイブリッド仕様(PHV)が用意される。PHVは最高出力225psで、モーターのみで50km以上の走行が可能だ。

おそらく同じグループPSAのプジョー「3008」やDS「DS7クロスバック」に用意されるPHVの前輪駆動版であり、ガソリンエンジンもC5エアクロスなどに積まれる1.6リッターターボだろう。


「C5 X」PHEVモデルの充電イメージ(写真:STELLANTIS)

シトロエンのアピールポイントのひとつであるサスペンションには、「シトロエン・アドバンスト・コンフォート・アクティブ・サスペンション」が世界で初めて採用された。

これはC5エアクロスSUVに装備されている「プログレッシブ・ハイドロリック・クッション」を電子制御化したもので、3つのモードが選べるという。

プログレッシブ・ハイドロリック・クッションとは、ダンパーの中にもう1つのダンパーを組み込むことで、安定性を保持しながら極上の快適性を生み出すメカニズムだ。GSやCXなどに装備されていたハイドロニューマチックを思わせる、浮遊感あふれる乗り心地だと高い評価を受けている。

これの電子制御化というと、CXの後継車であるXMに初採用され、C5やC6にも搭載されたハイドラクティブ・サスペンションを思い出す。魔法の絨毯で旅をしているかのような感覚をさらに高めたという、シトロエンの新たな伝統芸に期待したい。

日本への上陸は早くて2022年か?

先進運転支援システムはレベル2で、アダプティブクルーズコントロールとストップ&ゴーを組み合わせた「ハイウェイドライバーアシスト」や「レーンキーピングアシスト」が用意される。こちらも現在のPSA各車に搭載されているものだ。

C5 Xの欧州での発売は2021年後半とあるので、日本へは2022年以降の上陸になるだろう。かつてのシトロエンが備えていたエレガントなプロポーションと、ハイドロニューマチックやハイドラクティブの精神を受け継ぐテクノロジーの融合は、シトロエンらしさを極めた1台として、多くのクルマ好きから歓迎されるに違いない。