音楽ユニットのYOASOBIと、放送作家の鈴木おさむさん。彼らが今考えることとは?(写真:今井康一)

2020年、『夜に駆ける』が大ヒットし、NHK紅白歌合戦にも出場を果たした2人組音楽ユニット・YOASOBI。小説投稿サイトに投稿された作品を原作とし、楽曲を発表するプロジェクトとしてスタートし、今年に入ってからも勢いを増している。

放送作家として、長年テレビ・ラジオを牽引してきた鈴木おさむ氏は、YOASOBIとのラジオ共演をきっかけにコラボレーションを実施。去年12月リリースの楽曲『ハルカ』のもととなったのが鈴木氏の著書『月の王子』だった。そんな鈴木氏に、前々回記事、前回記事に続き、YOASOBIがエンタメ業界にもたらした変化や、年齢を重ねても若いクリエイターと仕事を続けるコツを聞いた。

前々回記事:まだYouTubeを軽く見る人が知らない地殻変動

前回記事:「動画の主戦場」YouTube熱狂の横にある光と影

メディアミックスがもたらしたもの

昨年秋に出版された、YOASOBIの楽曲のもとになった作品をまとめた小説集『夜に駆ける YOASOBI小説集』は、10万部を突破。ロングセラーとなっている。鈴木氏は、YOASOBIは出版業界と音楽業界のブリッジ役となり、音楽の価値を高めている存在だと絶賛する。

「これまでも、ドラマやアニメの主題歌など、物語やキャラクターを基に音楽を作ることはたくさんありましたよね。けど、スーパーアナログなテキスト小説から着想して楽曲を作り込んでいくのが斬新でした。

サブスクリプションサービスが台頭し、歌詞カードを開きながら音楽をじっくりと聴く機会がなくなってきた若い世代が、YOASOBIをきっかけに、『音楽を聴いて、物語を聴いて、また歌詞を噛み締めて音楽をじっくり聴く』という行動をするようになった。これは、すごいことですよ」

もともと、YOASOBIのコンポーザーであるAyase氏は、ボカロPとして人気を博した人物。2018年からボーカロイドを用いた楽曲動画の投稿を開始し、翌年にはニコニコ動画で殿堂入りも果たしている。YOASOBIを組んだことによって、新たなキャリアを切り開いた。


鈴木おさむ●1972年生まれ。千葉県千倉町出身。高校時代に放送作家を志し、19歳で放送作家デビュー。バラエティーを中心に多くのヒット番組の構成を担当。映画・ドラマの脚本や舞台の作演出、小説の執筆等さまざまなジャンルで活躍。2002年10月には、交際期間0日で森三中の大島美幸さんと結婚。「『いい夫婦の日』パートナー・オブ・ザ・イヤー 2009」受賞、第9回ペアレンティングアワード カップル部門 受賞

「いい曲を連続リリースできるのは、いきなり出てきたわけじゃなくて、才能とアイデア貯金があるからこそ。YOASOBIが売れたことによって、ボカロPの人たちの結界を破ったと思います。

アニソンが日本の音楽のセンターになったような現象が、今後ボカロ界隈にも起こるでしょう。ネットで自由に音楽を作って発表してきた人が、どんどん見つかってマネタイズされていくはず。これまでは、ボカロはどんなにヒットしても『異色のもの』として扱われていましたが、米津玄師さんも国民的ヒットを連発しましたし、これからもっと増えてくるでしょう。一過性のブームではなく、ひとつの時代になりそうです」(鈴木氏)

なぜ絵本なのか

鈴木氏は2021年2月、絵本『ハルカと月の王子さま』を上梓した。物語の主人公は、10代の女性・遥が雑貨屋で購入した、マグカップだ。遥の初恋から受験、そして結婚出産や悲しい出来事を、マグカップの視点から描いている。


「YOASOBIの楽曲になるならば、男女の友情を描きたかったんです。人と人だと普通だから、モノ(マグカップ)を主人公にしようと思って、そこから物語を作りました。絵本にしては文字数も多いし、『絵本』というだけで手に取らない人が増えてしまうのはもったいないと考え、イラスト小説というパッケージにしたんです。10代のYOASOBIファンが、お母さんにプレゼントするような作品になったらいいなと思って」(鈴木氏)

楽曲制作過程において、物語についてYOASOBIの2人と話すことはなかったという。

「僕が小説を書いて、それを読んだAyaseさんが曲を作るという企画なので、完成するまでほとんどやりとりはしていなかったです。ただ、『素晴らしかったです、泣きました』と連絡があったので、作りがいがありましたね。楽曲の構成が小説に似ていたので、本当にすごいなと」(鈴木氏)

物語の中では、マグカップが幼いころからずっと一緒に生活してきた遥が大人になり、そこで流産というつらい経験をすることも描かれている。イラスト小説ながら、これだけ重いテーマを扱ったのはなぜなのだろうか。

「キャッチコピーは『お母さんだって、傷ついたことがある』にしました。僕たち夫婦も赤ちゃんが残念なことになるを経験していますが、本当にこれまでの人生で最も悲しい出来事だった。人の人生を描くときに、自分ごととして悲しいエピソードを盛り込みたかったんです。流産って、意外と確率も高いし『まさか自分が』と、誰しもが思うことだと思って」(鈴木氏)

若い売れっ子クリエイターと仕事を続けるために、普段から気をつけていることも聞いてみた。

「プライベートでも、20代の人と積極的に飲むようにしています。年下に対しては『おもしろいおっさんでいよう』と思ってます。

気をつけているのは、『仕事の話は会議中にする』ということ。飲みに行くときも、仕事相手と連れ立っていかない。テレビ関係者と仕事の流れで飲みに行くと、仕事の話の繰り返しになってしまうんですよ。プライベートの話だけ、と決めると、相手も自分も新鮮な気持ちでコミュニケーションをとることができます。お互い、普段の生活で知った面白いものを教わったり教えたりできるし、素直に尊敬できる」

同世代とつるまない理由

仕事以外のつながりを大切にし、とにかく若い世代の人と会うことで新たな知識を取り入れているのだという。

「僕はTikTokで何が流行っているかとか、自分で調べたことはないんですよ。人に聞いて教えてもらったほうが、スッと頭に入る。普段から、「人と会うときに『これ面白い!』って言えるようにしよう」という視点で生活すると、意識的に興味関心を広げることもできます」

鈴木氏が同世代とつるまないのは、ある理由があった。

「同世代と飲んでいて嫌なのが、『おっさんになった』って、自虐する人が多いこと。そりゃ、僕も老眼だし、腰も痛いけど、『そんな話ばっかりしてもしょうがないだろ』って、すごく腹が立つんですよ(笑)。僕は、『面白い』でつながる交友関係を大切にしたいんです」

確かに、年齢で自分自身を封じ込めても、いいことはあまりないのかもしれない。エネルギッシュに野望を語り続ける鈴木氏自身が、年齢と自分の限界には関係がないことを、証明しているかのようだった。