中国による新疆ウイグル自治区の少数民族をめぐる人権問題が、日本企業にも影響を及ぼし始めた。

欧米各国では新疆で生産される綿花などの原材料や加工品を使用する企業への批判が高まる一方、中国はこうした動きに反発。中国を批判し、取引停止などを表明した企業には、中国内で不買運動も起こっている。板挟みとなる企業は苦しい立場に追い込まれている。

フランスで「ユニクロ」がやり玉に...

中国はウイグル族を多数、収容施設に隔離し、強制労働などを強いていると伝えられており、欧米を中心とした国際社会で批判が高まっている。

フランスの非政府組織(NGO)などは2021年4月初旬、新疆での人権問題に絡み、強制労働や人道に対する罪の隠匿などの疑いで、衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングのフランス法人をはじめ、計4社をフランス当局に告発したと発表した。

また、人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」などは4月8日、強制労働に絡む取引があるとされる企業について、「大規模強制収容と一体化した強制労働に無意識に加担しているリスクが高いと考える」と言及。「強制労働の事実が明確に否定できない限り、即時に取引関係を断ち切るべきだ」と呼びかけた。

こうした動きを受け、スウェーデンのH&Mや米ナイキ、独アディダスなどが強制労働への懸念を公表。日本企業でも、最近ではカゴメが、ソース類などトマトの加工品の原料に新疆産のトマトペーストを使うのを2021年中に止めると表明している。

中国は人権弾圧を否定し、こうした動きに神経をとがらせている。H&Mは、中国共産党系の団体が激しく批判したのをきっかけに不買運動がおこり、中国国内ではネットでの検索もできなくなった。批判はナイキやアディダスなどの他のブランドにも広がっている。

日本企業は人権問題に「後ろ向き」

欧米企業の対応に比べて、日本企業はやや弱腰の姿勢に見えることで、海外から厳しい目が向けられているのも事実だ。フランスでやり玉にあがったファーストリテイリングは、もちろん強制労働を支持しているはずもなく、取引先の企業を調査したとして、問題があれば取引を停止していると表明している。

しかし、柳井正会長兼社長が4月8日の決算発表の記者会見で、「政治的に中立な立場でやっていきたい」とし、新疆問題に関してノーコメントを貫き、明確な批判を避けたことが一部から不信感を呼んでいる。

生活雑貨の「無印良品」を展開する良品計画も4月14日、新疆綿を使った商品を扱っていることについてプレスリリースを公表。新疆に第三者機関を派遣して監査を実施したと説明した。そのうえで「法令や良品計画の行動規範に対する重大な違反は確認していない」とし、新疆の綿製品の販売を継続するとした。ただ、これについても「人権問題に後ろ向き」との声が上がっている。

多くの日本企業が中国を明快に批判しないのは、中国が重要な市場であるからに他ならない。良品計画にとって中国は最重要市場で、2021年2月中間決算で、中国での売上高が403億円と、全体の18%を占める。ファーストリテイリングも、2月末時点の店舗数が国内807店に対して中国800店と肩を並べる水準。流通関係者は「無印もユニクロも、成長の柱である中国市場で締め出されたら影響は計り知れない」と、同情を隠さない。

バイデン米大統領と管義偉首相による4月16日の日米首脳会談でも、協力して中国に対抗していく方針を強く打ち出した。日本企業にとっては地理的にも経済的にもつながりが強い中国との付き合いが、さまざまな形で重大なリスクを抱えているのは確かだ。(ジャーナリスト 済田経夫)