韓国の芸能界やスポーツ界を揺るがしている学暴(学校暴力=いじめ)論争が、なかなか収まらない。ドミノのように広がっている学暴スキャンダルの出発点だった女子バレーボール選手のイ・ジェヨン、イ・ダヨン双子姉妹が告訴を予告しており、中学時代の学暴が暴露されて主演ドラマから降板させられた俳優のジスは30億ウォンに上る損害賠償訴訟に巻き込まれた。

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 4月5日、ケーブル放送の『チャンネルA』によると、イ・ジェヨン、イ・ダヨン両氏は、所属球団の興国生命の関係者と会い、学暴をめぐる法的対応の意思を明らかにした。姉妹らは暴露内容について、過ちを認めて反省しているとしながらも、「実際にしていないことも内容に含まれていて、これによる被害が大きいため、誤解を正そうと訴訟を準備している」そうだ。


発端となった韓国バレー「美人姉妹」、イ・ジェヨン選手(左)とイ・ダヨン選手 ©共同通信社

 その後、姉妹はスポーツ紙の『スポーツ東亜』のインタビューで、告訴の対象は過去のいじめを最初に暴露した被害者ではなく、ネット上で広がっているフェイク・ニュースの作成者や、事実の可否が確認されていない書き込みを広めた人、そして悪質な書き込みを繰り返し残した人だと明らかにした。これまで関連資料を収集し続け、約1万件の事例が集まったという。すなわち、インターネットユーザーを対象とする告訴と思われる。

巨額の損害賠償訴訟にも発展

 姉妹の告訴計画がメディアを通じて知られた後、ある市民団体は呉漢南(オ・ハンナム)韓国バレーボール協会会長を警察に告発した。団体は告発状で、「(双子の姉妹の学暴について)一部のマスコミの報道だけを根拠に、独自の真相調査も行わずに国家代表剥奪措置を下した」「双子の姉妹がプロのバレーボール選手としてこれ以上活動できないようにしたことは、“威力による業務妨害”であり、真実かどうかがあきらかにされていないまま国家代表の資格を剥奪したことは、選手に対する“名誉毀損”だけでなく、国民とバレーボールファンが立派な試合を見る機会を失う“権利行使妨害”に該当する」と主張した。

 別の市民団体『体育市民連帯』は、「一部の事実関係を正すという趣旨で告訴をする(双子の姉妹の)行為は、被害者を脅し、第2次、第3次加害行為を行う行為だ」という声明を発表するなど、イ・ジェヨン、ダヨン姉妹の学暴スキャンダルをめぐる社会的論議は、まだ収まる気配がない。

 一方、芸能界では学暴をめぐって巨額の訴訟が始まった。2020年、釜山国際映画祭で「今年の俳優賞」を受賞するなど、ライジングスターに浮上した俳優のジス(28)は、3月初め、中学時代の同級生から過去のいじめを暴露され、主演を務めたドラマ『月が昇る川』から電撃降板した。ところが、ドラマの制作会社であるビクトリーコンテンツ側が、ジスの所属事務所であるキーイーストを相手取り、30億ウォン(約2億9000万円)台の損害賠償訴訟を起こしたのだ。

「途方もない損害が今も続いている」

 ジスが主演を務めたドラマは全20話の時代劇で、制作費だけで200億ウォンかかったと言われている。ところが、ジスが学暴スキャンダルによって6話でドラマから降りたため、主演俳優を交代してから再撮影するしかなかった。制作会社はこれに関してジスの所属事務所であるキーイーストに損害賠償訴訟を起こしたのだ。

 制作会社のビクトリーコンテンツ側は報道資料を通じて、「当社は再撮影によるスタッフ費用、場所及び装備使用料、出演料、美術費などの直接損害を被り、他にも視聴率低下、海外顧客のクレーム提起、期待売上減少、会社イメージ損傷など相当期間将来まで影響を及ぼしかねない途方もない損害が今も続いている」と主張し、「キーイースト側の非協力により賠償協議が円満に進まず、訴訟を起こすことになった」と述べた。

 一方、キーイースト側は、「俳優交代による追加撮影本費用について責任を負う意向は十分ある」としながらも、「ビクトリーコンテンツ側が提示した制作費推定金額で最終合意をするには具体的な根拠が足りないため、実際に精算内訳を提供してくれるよう丁重に要請している」とし、「非協力的な態度で臨んだ」という制作会社側の主張を否定している。

 この訴訟について、ある芸能専門記者は次のように説明する。

「キーイーストは、『冬のソナタ』で日本でもヨン様ブームを巻き起こした元祖韓流俳優のペ・ヨンジュン氏が設立したエンターテインメント社で、2018年に少女時代などを率いるKPOP代表企業のSMに買収された。芸能人マネジメントだけでなくドラマ制作にも力を注ぎ、日本での事業も活発に展開している韓流ビジネス系の大企業だ。キーイーストとしては、具体的な根拠や交渉過程の透明化なしに制作会社と合意を結ぶことで、ややもすれば経営陣背任などの問題が持ち上がる恐れがあると見ている。これまで以上に、法的な手続きを踏んで合意事実を透明化して管理しようという意図もあるとみられる」。

「行き過ぎだ」との声もあるが……

 今回の訴訟の結果を受け、韓国芸能界では巨額の訴訟戦に火がつくものと見られる。すでに制作が完了した『ディア・エム』は、主演女優のパク・ヘスの学暴問題で放映が無期限に中断されており、最近放映が始まったドラマ『模範タクシー』は、人気ガールズグループのAprilのメンバーのイ・ナウンの学暴スキャンダルによって60%以上終了していた撮影分をご破算にして新しい女優を投入して再撮影を行っている。

「Stray Kids」のヒョンジンをはじめ、「(G)I-DLE」のスジン、ドラマ『梨泰院クラス』の若手俳優のキム・ドンヒらは、学暴疑惑でモデルを務めた広告が停止された。もし、彼らの学暴疑惑が事実であることが明らかになれば、制作会社や企業側から所属事務所へ金銭的な賠償を要求する訴訟が後を絶たないだろう。

 ただ、芸能界では「10年以上も過ぎた過去の学暴問題について、所属事務所に責任を問うのは行き過ぎだ」という主張もある。

一大混乱に陥った韓流ビジネス界

「芸能界で学暴スキャンダルが起こったのは今回が初めてではない。過去にも新人がデビューすると、学暴問題が浮上する場合が結構あったので、企画会社はこれまでも新人を選ぶ際に注意を傾けてきた。練習生を選抜する際には、必ず本人に学暴の有無を確認する。本人から学生時代の学生簿を提出してもらって学暴に関する記録を確認する。それでも検査の網から漏れてしまい、デビュー後に過去の学暴が発覚する場合は、それまで育成に費やした費用を諦めて該当芸能人を契約解除するしかない。これに加えて、巨額の賠償金まで背負うべきだということになれば、エンターテインメント業界から大きな反発が出てくるだろう」(前出の芸能専門記者)

 最近、韓国のエンターテインメント業界の4団体は「過去の芸能人学校暴力問題」に関して立場を表明する文書を発表した。 ここでは、「最近の事態は、過去の過ちが明らかになった芸能人個人だけの問題に留まらず、大衆文化芸術産業の構造上、さらなる被害をもたらしている」「事実についての厳正な調査が行われていない状況で、大衆文化芸術産業を萎縮させ、善良な芸能人に致命的な打撃となってはならないという点を訴えたい」と、学暴問題に対する韓国芸能界の憂慮を訴えた。

 韓国社会を揺るがしている学暴問題で、現在絶頂期を迎えている韓流ビジネス界が、まさに一大混乱に陥っているのだ。

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 金敬哲氏による「韓国『#学暴MeToo』の無限地獄」は「文藝春秋」5月号および「文藝春秋digital」に掲載されています。

(金 敬哲/文藝春秋 2021年5月号)