適度な飲酒は心身をリラックスさせ、気分の切り替えに役に立つ。一日の締めくくりや、一週間の終わりに楽しくお酒を飲むことで、また頑張ろうと気分を新たにするサイクルで生活していた人も多いだろう。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって飲食店の営業時間短縮が続いたことで出現した「飲酒難民」、路上飲みを始めるなどして東京都から注意喚起されるばかりか、生活サイクルまで乱れてしまう例が相次いでいるらしい。ライターの森鷹久氏がレポートする。

【写真】喫煙所で酒盛りする人も

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 新型コロナウイルスの感染再拡大により、東京都や大阪府などに「蔓延防止措置」が適用され、また飲食店へ午後8時までの時短営業協力要請が出された。二度目の緊急事態宣言が解除されたことで居酒屋などには一時的に客足が戻っていたが、「これでまた振り出しだ」という飲食店経営者のため息も聞こえてくる。

 そんな中、浮き彫りになっているのは「飲酒難民」と呼べるような、どうしても「飲みたい人々」の存在だ。

「居酒屋が集まる繁華街の公園や駅前、コンビニ前と、ありとあらゆるところで缶ビールや缶チューハイを飲む人が増え、報じました。それが悪いことかどうか、正直わかりません」

 自身も飲酒が大好きだという民放情報番組ディレクター・佐藤晃一さん(仮名・30代)は、コロナ禍における市民の「路上飲み」の実態を取材。居酒屋などが時短営業に応じ、飲む場所を失った難民のごとき飲兵衛たちが、街の至る所で飲みまくる様子を特集して放送した。

 そんな路上飲みが報じられると「そこまでして飲みたいか」「モラルがない」などの批判が殺到。「以降、路上飲みをする人は減った気がします」と佐藤さんは言うが、彼らが大人しく家に帰り、自室で飲酒を楽しんでいるかといえば、そうではない。

「帰りの電車の飲酒率が格段に上がりました。最初は酒臭いとか恥ずかしいとか思っていましたが、私もついに……」

 都内の通信会社勤務・原田陽子さん(仮名・40代)は、通勤に特急電車を利用している。彼女が、帰宅電車の車中で飲酒率の高さに気がついたのは、昨年の冬以降。特急券を購入し指定席に確実に座れる特急やグリーン車内で酒を飲む人は以前からいたが、週末の夜などはもはや「宴会状態」になっていることもあるという。

「おつまみのさきイカの匂いがする、くらいなら普通。焼き鳥を持ち込んだり、ロックアイスを買ってきてウイスキーの水割りを作る人もいます。最初は嫌だな、と感じていましたが、私も飲みに行けないストレスがあり試しに缶ビールを飲んでみたところ、これが思った以上に良い。乗車している一時間でパッと切り上げられるし、流れる車窓を見ながらボーッと酔える。横に友人でも乗っていたら、私も大騒ぎしちゃいそうです」(原田さん)

 居酒屋を追われ、公園や路上からも追い出された飲兵衛たちは、あらゆるタイミングで「飲酒の機会」を狙っているのかもしれない。都内の巨大商業ビル内で清掃作業員として働く畑島高貴さん(仮名・30代)も、こうした傾向を肌で感じている。

「以前はあり得なかったんですが、コロナになって、ビル内の喫煙所で酒を飲んでいる人を多く見かけるようになりました。別に禁止されているわけではないし、仕事終わりなら問題もないのかも知れませんが……」(畑島さん)

 飲む側も、当初は缶をコンビニのレジ袋に包むなどして隠して飲んでいたというが、飲む人がどんどん増えてくると、隠し飲みする人は減っていった。そして、やはり喫煙所で「宴会」を楽しむ人も出現しているという。さらに……。

「喫煙所で飲んでいる人たちはある種、開き直っているのでいいですが、開き直れない人もいるようで。多目的トイレのゴミ箱に空き缶やおつまみのゴミが入っていたり、真っ暗な非常階段に座り込んで酒を飲んでいる若いサラリーマンがいたり。家に帰って飲めばいいのにと思いますが、なんなんでしょうね」(畑島さん)

 酒を飲まない人、適度に楽しむ人にしてみれば、このような「疑問」を抱くのも当然の事かも知れない。一方、当の飲兵衛側からもこうした風潮を歓迎しない、との声が聞こえてくる。

「以前は週4で飲みに行っていたくらいですから、今の状況は地獄。時短営業店で飲んでも、一番調子が上がってくる時間に店を追い出される。本当は一人で酒を飲みたいなんて気持ちはなく、家でもほとんど飲まなかったのに、コロナで一人飲みせざるを得なくなってからは、酒の量まで増えてしまいました」

 埼玉県在住の大手商社社員・三井雄喜さん(仮名・30代)は、昨年の緊急事態宣言以降、飲酒量が倍以上になり、翌朝起きられなくなるまで深酒をする機会が増えたと項垂れる。

「一人飲みだから早く酔えて適量しか飲まない、と思われていますが違いますよ。私も帰宅時の電車で酒を飲んでいましたが、それがどんどん広がり移動の際には帰宅時でなくても酒を飲むようになってしまいました。タクシーやバスでも、酒がないと落ち着かない。休日、子供たちと動物園や美術館に行く時も、こっそり水筒にレモン酎ハイを入れていく」(三井さん)

 酒は好きだが、酒に飲まれたことはないと自負していた三井さん。コロナ禍による「飲酒の自粛」とも言える社会の風潮に抗うまでの気持ちはないようだが、禁止されたり、飲むべきではないと言われると、余計に飲みたくなってしまい、飲む時と飲まない時の境目がなくなってしまった。そして、酒量も以前より増えたのだ。

「在宅勤務が増えた社内にも同じような人間はいて、リモートワーク中に酒を飲むなんて普通のことになっちゃいましたね。たまに出社してるなと思うと酒臭い社員がいるし、社屋ビル内のコンビニの酒も以前より売れているらしい。ガランとしたオフィスで、真っ昼間からスーツ姿で酒を飲む、という背徳感が良いという同僚もいます」(三井さん)

 飲酒の場で感染が広がっている、というのは事実だろうし、居酒屋などへの時短営業要請も理解はできる。飲み控えしよう、感染したくないから我慢しようという人がいる一方で、行政や世間からの抑圧を感じ、以前にも増して飲酒の機会が増えたという人々がいる。ここまでくると、適度な飲酒でバランスがとられていたメンタルの崩れを心配したほうが良さそうにも思えてくるが、コロナに振り回される生活にならなければ、こんな問題も浮上しなかったことだろう。

 コロナに気をつけていても、過度な飲酒で体を壊してしまう、なんてことになれば元も子もない。