《現在フィギュアスケート界ではジャッジング(採点法)についての議論が盛んに行われている。近年フィギュアスケートは高難度化が著しく進んでおり、そのために審判員がわずか1秒以内に行われるジャンプを正確に判断することは至難となってきている。また、ジャンプの評価基準は明記されているものの曖昧な部分が多く、その試合の審判員の裁量に委ねられている部分が大きい》

フィギュアスケート界の現状の採点制度について疑義を綴ったのは羽生結弦(26)。昨年、早稲田大学の人間科学部通信教育課程を卒業した羽生だが、この文章は卒業論文として執筆したものを、同学部発行の学術誌へ特別寄稿するにあたり加筆・修正したものだ。

今回、本誌はその学術誌を独占入手。そこには約8千字にわたって羽生の赤裸々な“悲痛の叫び”が綴られていた――。

羽生にとってかつてない激動のシーズンが終幕した。3月下旬の世界選手権ではショートプログラム(SP)で首位に立つが、フリープログラム(FP)ではミスが続きまさかの3位という結末。

4月15日から大阪で行われた国別対抗選手権では、FPで今シーズン自己ベストである193.76点を記録するも、宿敵ネイサン・チェン(21)にまたしても敗れ、男子個人では2位に。国別の順位でも3位という結果で今シーズン最終戦を終えた。16日のFP後、羽生は今シーズンをこう振り返った。

「悔しい気持ちはあるが世界選手権を終えてから隔離期間もあって普通の生活ではなかった中で“よくやった”と言ってあげたいような内容だったと思う」

コロナ禍による無観客試合や、拠点であるカナダを離れ日本で練習するなど、異例ずくめとなった今シーズン。選手としてだけでなく、“研究者”としても羽生は一つの節目を迎えていた。

’13年に早稲田大学へ入学した羽生。選手として活動するかたわら、在学中に取り組んだ研究が、“フィギュアとデジタル”の融合だ。

「羽生さんは体や指先に多数のセンサーを装着し、動きを3Dで記録・分析するモーションキャプチャと呼ばれる技術を活用。自ら体にセンサーをつけ、ジャンプなどの動きをデジタルデータ化したそうです」(大学関係者)

羽生が所属したゼミの指導教員で卒論も見守った同大学人間科学部人間情報科学科の西村昭治教授は、羽生の尋常ならざる研究への熱意について本誌にこう語っていた。

《これはなかなか1人で設定するのは大変で。でも、『仙台まで行って手伝おうか?』と私が言っても、『いやいや、なんとか自分でやります』と。彼はすぐに機械の使い方を理解して、使いこなせるようになっていましたね》(’20年12月1日・8日号)

■羽生が綴った採点への怒り「審判員の裁量に完全に委ねられている」

そして7年にわたる研究生活の集大成として書き上げられたものが、「無線・慣性センサー式モーションキャプチャシステムのフィギュアスケートでの利活用に関するフィージビリティスタディ」と題された冒頭の論文だ。

羽生は研究で目指す“最終目標”について同大学の広報誌ではこう語っている。

《将来的には、選手の技術向上やAIによる自動採点など、フィギュアスケート界の発展に役立てたいです》(『CAMPUS NOW』’20年10月号)

デジタルによる採点制度の改革を志向する羽生。この動機には“秘めた真意”があった。冒頭に続く形で羽生はこう綴っている。

《全ての選手の全ての要素に対して、ガイドラインに沿った評価ができるのだろうか。(中略)特にジャンプの離氷時の評価は非常に曖昧で、審判員の裁量に完全に委ねられているように感じる。実際に、インタビュー等で審判員の判断に苦言を呈している選手もいる》

公の場でめったに不満を漏らすことのない羽生が論文で露わにした採点制度への不信感――。フィギュアスケート評論家の佐野稔さんはその現状をこう語る。

「試合をテレビで見る際、画面上部に緑や赤色で点滅するものがありますが、あれはテクニカルパネルと呼ばれる技術審判の3人が回転が足りているかなどを入念にチェックして出しています。とはいえ、ただの人間の目です。

疑わしいものは、後から技術審判がビデオで確認して、審判員に伝えて最終的な点数がつけられていきます。ビデオは何度でも繰り返し見られるのですが、カメラの方向によっては判断できない部分もあります」

’84年のサラエボ冬季五輪に出場し、現在は日本スケート連盟のナショナル審判員も務める元フィギュアスケート選手の小川勝さんも言う。

「審判員も一定のルール、基準があって選ばれていますが、個々で採点基準が違います。日本人だから不利ということではなく、どの国でも自国の審判は多少なりともいい点を出したりするものです」

実際、3月の世界選手権での“疑惑の判定”を指摘する声も。

「SPの羽生選手の4回転サルコウの出来栄え点が低いという指摘が海外の識者からは相次ぎました。女子の紀平梨花選手(18)や坂本花織選手(21)への判定が厳しすぎるという声もありました」(スポーツ紙記者)

「女性自身」2021年5月4日号 掲載