トランプ前米大統領は、世界を震撼させた弾劾裁判、退任直前のワクチン接種など、政権移行後も話題に事欠かない。就任期間の4年間で、長年にわたり歴代の大統領が築き上げた「世界のリーダー」「民主主義大国」という米国のイメージを覆し、社会的、国際的にさまざまな影響を与えた人物だけに、容易に現役引退というわけにはいかないようだ。

2024年の米大統領選挙出馬の可能性を含め、新たなトランプワールドの幕開けを垣間見てみよう。

■弾劾裁判無罪、政界復帰の可能性は?

2021年1月6日、連邦議会議事堂で起きたトランプ氏の支持派による暴動は、民主主義の崩壊を世界に知らしめる衝撃的な出来事だった。さらに波紋を広げたのは、少なくとも警察官50人が負傷し、4人が死亡するという悲惨な結末を迎えた暴動の扇動者が、当時の大統領という異常事態だった。2月に行われた暴動を扇動した責任を問う裁判では、トランプ氏に無罪判決が下ったものの、現在も同氏を批判する声は鎮まらない。

これまでの経過や世界の反応を考慮すると、暴動の扇動者あるいは陰謀者のレッテルを貼られたトランプ氏が、2024年の米大統領選挙に出馬する可能性について、「あり得ない」という意見が圧倒的に多い。

興味深いのは、著名歴史学者によるトランプ氏の敗北予想だ。1984年の米大統領選以来 、百発百中の選挙結果予想的中率を誇るアメリカン大学アラン・リクトマン教授は、「トランプ氏は再出馬しても当選しない」と、自らの予想をマイアミ・ヘラルド紙に語った。トランプ氏が「法的、財政的問題にどっぷりはまり込んでいる」ことを理由に挙げている。

■「3度目の勝利」発言に秘められた宣戦布告

しかし、当の本人は世間の逆風もどこ吹く風と、弾劾裁判で無罪を勝ちとって以降、精力的に活動を再開している。2月下旬にオーランドで開催された保守政治活動協議会(CPAC)での演説内容は、バイデン政権と民主党の「大失敗」への批判が大半だったと独国営メディア、ドイチェ・ヴェレ(DW)は報じた。さらに「共和党が2022年に議会を引き継ぐ」「共和党の大統領が勝利を収めて、ホワイトハウスに戻るだろう」などと好戦的な態度を崩さなかったという。

注目すべきは、新政党設立の噂については否定したものの、「2024年の大統領選では3度目の勝利を収めるかもしれない」とコメントした点だ。本来ならば、2016年の選挙に続き「2度目」となるはずだが、2020年の敗北を未だに容認しておらず、次期大統領選で決着をつけるという宣戦布告にも受け取れる。

一方、FOXのトークショーに出演した際には、共和党の未来を担う次世代候補として、フロリダ州知事ロン・デサンティス氏、上院議員テッド・クルーズ氏など若手の共和党員を挙げ、次世代に託すニュアンスも仄めかした。

■独自のSNS設立でインフルエンサーとしての復帰狙う?

ここでカギを握っているのが、独自のSNSプラットフォームの設立だ。トランプの上級顧問であるジェイソン・ミラー氏がFOXニュースに出演した際に明らかにしたもので、5〜6月の運営開始が予定されている。ミラー氏いわく「SNSで最もホットなチケットになる」「SNSを完全に再定義するだろう」とのことだが、3月24日現在、詳細は明らかになっていない。今回の動きを「トランプ帝国拡大を狙うビジネス戦略」と見なす声もあるが、実際はインフルエンサーとしての地位を奪還し、共産党の勢力拡大に一役買う意図があるのではないかと推測される。

連邦議会議事堂での暴動後、トランプ氏はFacebookやTwitterなどの主要SNSから、実質上「追放」された。大統領就任前から複数のSNSを駆使して、政策や外交、批判など広範囲な領域にわたるインフルエンサーとしての地位を確立していた同氏にとって、SNSは必須ツールである。

米メディア、Buzzfeed Newsの2月の報道によると、同氏は代替手段として、米新興SNS、Parler(パーラー)と交渉を進めていたが合意には至らなかったという。このような背景から、「既存のSNSを利用できないのであれば、自分で自由にルールを決められる代替サービスを始めよう」という考えに至ったものと推測される。

FacebookとTwitterのアカウント凍結時、同氏のフォロワー数は約9,000万に達していた。大統領という肩書を失った今、どれほどのフォロワーがつくのかは定かではない。しかし、トランプ氏に対する批判が止まない反面、熱狂的な支持派が存在することも事実である。大統領時代のような国家代表の権力は発揮できなくとも、SNSのインフルエンサーとして復帰することで、社会や政界に何らかの影響を与え続けることは可能だろう。

■大統領任期満了後、初めてワクチン接種を推奨

再び騒がしくなり始めたトランプ氏の周囲で、もう一つ大きな話題となっているのが夫妻のコロナワクチン接種である。夫妻は任期終了直前に少なくとも1回目のワクチンを接種していたが公にせず、前述のCPACで初めてワクチン接種を国民に推奨した。

ワクチンの安全性を国民にアピールするために、TV中継で接種を受けたバイデン大統領やカマラ・ハリス副大統領、マイク・ペンス前副大統領(いずれも政権交代前の2020年12月)とは対照的なアプローチに、ここでも批判の声が上がっている。

トランプ夫妻が2020年10月に、新型コロナに感染したことは記憶に新しい。「勇敢にコロナと戦って打ち勝った姿」を強調していた同氏だが、実際は「肺浸潤が見られるなど、症状は公表されていたよりはるかに深刻なものだった」と、後に関係者が英ガーディアンに明かしている。「コロナはただの風邪」と発言しマスク着用を拒否するなど、強硬姿勢を貫いていた同氏だが、重篤な病を自ら経験して初めてコロナの恐ろしさを実感したのだろうか。

■トランプワールドはまだまだ続く?

トランプ氏に対する評価や予想はさまざまだが、「まだまだ世界を騒がす人物」という意見はおおむね一致している。2月にCNNのTV番組で、弾劾裁判の無罪判決について質問されたバイデン大統領は、「過去4年間、ニュースはトランプ氏の話題で埋め尽くされていた」「彼の話はうんざりだ。もう彼について話したくない」と語った。バイデン大統領の望みが叶う日は、まだまだ先のことかも知れない。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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