山の向こうから巨大な猫が出現!鉄道を叩き落とし、家をなぎ倒し…今度は線路内でうたたねを始めた…! そんな怪獣映画のような写真や動画がSNSで話題になっている。実は超リアルな鉄道ジオラマが売り物の食堂が投稿しており、保護した猫の親子が遊ぶ様子を発信しているという。思わぬ反響の大きさで、コロナ禍のため窮地に陥った食堂の経営危機も救ったという。

【写真】“民家の屋根”を枕代わりにしてリラックスする猫ちゃん

始まりは小さな命との出会い

JR環状線「寺田町」駅から歩いて5分。ビルの1階に一風変わった食堂がある。「ジオラマ食堂てつどうかん」という名の通り、中へ入ると壁沿いに見えるのは、精巧につくられた鉄道ジオラマだ。

店のオーナーである寺岡直樹さんは、嵯峨野観光鉄道のジオラマを手がけたこともある鉄道ジオラマ製作のプロである。店内にあるのは1/150の縮尺でつくられたフルスクラッチ(部品から製作する完全手づくり)で、木々や街並み、ホームに立つ人の姿などが精巧につくりこまれている。この風景は、日本が高度成長を続けていた1970年代に、どこかにありそうな地方都市をイメージしたという。

そして、このジオラマに、ミスマッチを通り越して絶妙な存在感を放っているのが、店内で飼われている4匹の親子猫だ。

鉄道ジオラマと猫。たいへん珍しい組み合わせだが、寺岡さんはまったく意図していなかったという。

「昨年(2020)の6月11日、隣にある保育園の前に、手のひらに乗るくらいの小さな動物が、意識がなく横たわっていたんです。よく見ると生まれて間もない猫でした。死んでいると思われたんですが、一縷の望みをかけて、保育士さんが1日じゅう体をさすってあげたら蘇生したんですよ。それをこの食堂へ連れてきて『社長、この子どないしましょ?』と。自宅にいる長女に電話して状況を伝えたら『在宅勤務でうちにおるから飼うわ』となって、自宅で飼うことになりました」

子猫は元気を取り戻して、今も寺岡さんのお宅で暮らしているそうだ。

その翌日、目を吊り上げて店内を睨みつけている、1匹の猫が店の前にいた。保育園の前で保護した子猫の母猫と思われた。

「息を吹き返したときミャーミャー鳴いていましたから、その声が聞こえたんでしょうね。ガリガリに痩せていたので、ごはんに味噌汁をかけて与えてみたら、貪るように食べました」

梅雨で長雨が続いていたある日、店の前に停めていた車の下に、その猫が雨を避けている姿があった。子猫を3匹連れていた。そのままでは冷えるだろうと、寺岡さんは、付き合いの長いダスキンのスタッフから古いマットを譲ってもらって敷いてあげた。

そのまま2〜3週間、車を動かさずに見守っていたとき、猫の保護活動をやっているという人物が店を訪ねてきた。

この親子猫を保護して里親を探しましょうという話をもってきたのだが、いまさら親子を引き離すのは忍びないと、寺岡さんは4匹一緒に引き取ることにした。店のスタッフも「私たちも一緒に守ります」といってくれた。

店で飼うために、レイアウトの一部を改装したりケージを入れたりして準備を整えた。そして猫たちにも名前を付けた。母猫は「さら」、3匹の中で唯一のオスは「れお」、キジトラのメスは「なら」と「らいあ」だ。

「以上が店に猫がいる経緯なんですけど、母猫のさらが警戒心むき出しで、とくに凶暴でした。危険なので、落ち着くまで4カ月はケージから出せませんでした」

コロナの影響で経営危機に陥っていた店を猫たちに救われた

寺岡さんは1階で食堂、2階で児童施設を経営している。昨年の春、児童施設でトラブルがあり精神的に疲れ、資金繰りにも奔走する毎日。

保育園で子猫を1匹保護し、そのあとすぐ親子4匹を保護したのは、ちょうどそんなときだった。

猫たちに避妊手術を施して、営業時間が終わったあとで店内を自由に歩かせた。子猫たちも野良育ちなので警戒心が強く、人を見ると「シャーッ」と威嚇するため、まだまだお客さんと触れあえる状況ではなかったのだ。

店内に放された猫たちは、ジオラマにヒョイと上がって、線路の上を歩き始めた。

「初めは『何をしてくれてんねん』って思いましたよ。電車を前足ではたき落したり、線路の上で寝たり(笑)」

だが、そんな様子を動画に撮ってSNSで発信したところ予想外の反響があった。「いいね」の数が増え続け、ネットニュース、テレビ、新聞などメディアからの取材依頼が相次いだ。放送されたり記事掲載されたりすると、滞っていた客足もしだいに伸び始めた。

今では4匹とも人に慣れて、営業中も店内で自由に遊ばせているという。もっとも人のほうから寄っていくと距離を取ろうとするから、猫のほうから寄ってきてくれるまで待たないといけない。

7月オープン予定で保護猫ステーションをつくる

寺岡さんは今、猫のための施設をつくる準備を進めている。

「児童施設がコロナの影響で生徒の数が減ったので、規模を縮小して、空いたスペースに保護猫ステーションをつくります」

保護猫ステーションと呼んでいるが、ペットホテルも併設する計画で、7月のオープンを目指している。

「在宅時間が増えたせいで、ペットを飼う人が大幅に増えました。コロナが収束した後、また外へ働きに出るようになったら、預け先が必要になります」

この保護猫ステーションではVR(Virtual Reality)の技術を使って、猫を観察できるシステムを導入するという。保護猫の里親になりたい人は、実際に会う前にVRで猫の様子を見ることができるようになる。

「これは、天命だと思っているんです。まさかこんなに深く猫にかかわるとは思っていませんでした。この先どうなるんだろうと思っていたときに猫たちと出会って、気が付いたら今の状況がある。店の経営が立ち行かなくなったとき、付き合いの古い仲間だけが残った。それでも困っているときは助けてくれる人が現れて、人は嘘さえつかなければなんとかなると思うようになったのです」

「ジオラマ食堂てつどうかん」の猫ちゃんたちの様子は、YouTubeで配信されている。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)