中国政府の人権問題に対して、欧米による制裁が本格化してきた。しかし、日本は必ずしも歩調を合わせているわけではない。対中貿易が経済の支えになっていることが最大の理由だが、それは単にカネの問題だけではない。これまでも政治的に対立する中国に対し、有効な対抗策が打てずに弱腰外交を引きずってきた日本の現状について、『週刊ポスト』(4月16日発売号)が分析している。そこでも取材に答えた中国進出する日本の飲食関連ビジネスを手がける「ゼロイチフードラボ」の藤岡久士・総経理に、中国政府の手口を詳しく聞いた。

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 過去に起きた「日本不買運動」について、藤岡氏はこう振り返る。

「2005年に起きた不買運動の影響は当然ありました。日本人の経営する店には行かないお客様もいたので、『いらっしゃいませ』という日本語の呼びかけもやめたくらいです。日本らしいからと始めた膝つき接客も批判されました。日本人が中国人をひざまずかせるとはなにごとだ、というわけです。ウチの店舗ではありませんが、日本料理店が放火されたり、石を投げられたりして異様な雰囲気でしたね」

 そうした一般市民の暴挙も、中国政府の扇動によって起きる。そもそも中国では、飲食店に限らず企業や店舗への規制はご都合主義でいくらでも恣意的に適用できるから、いったん政府ににらまれれば、どんなに正直に商売をしていても摘発されるのだという。

「中国の規制は理不尽なことだらけです。、法律はばんばん作るけれど、普段は取り締まるわけでもなく黙認しています。だから、どの店も違法状態で営業しているようなものです。そして何かあれば重箱の隅をつついて好きなように摘発できるのです。しかも縦割り行政だから、衛生局と消防局の基準が違うなんてこともある。衛生局はとにかく部屋を区切れというけど、その通りにすると消防局の営業許可が下りないといった具合です」(藤岡氏)

 国の戦略として日本不買を進めるような緊急事態ではなくても、規制当局による嫌がらせは日常茶飯事だという。これは世界中で起きることでもあるが、取り締まることが役人の利権につながるからである。役人天国の中国では、その度合いが格別に強い。

「政治的な引き締め政策で、突如、ダクトにフィルターを付けろとか、防火シャッターを付けろと要求されることもよくあります。それは全部、利権なんです。当局から紹介された指定メーカーで頼むしかないのですが、びっくりするくらい高い。たしかに規制の通りにすれば社会は良くなるかもしれないけれど、そのやり方と動機が理不尽なんですよ。労働法が厳しくなった時には、労働争議を24時間受け付けるようになり、従業員から訴えられることが激増しました。裁判もやるけど絶対に勝てない。でっち上げのタイムカードや根も葉もない嘘で訴えられて、他の従業員もそれは嘘だと証言しているのに裁判では負けます。労働者の不満をガス抜きするための国策だったからです。労働局からは示談を勧められます。お前らは悪くないけどバカだ、労働争議が起きることを前提に給与を決めて、争議の費用は確保しておけよ、と言われましたね。役所の中には日本が嫌いな人が一定数いるんだとも聞かされました」(藤岡氏)

 いま中国では、人権問題に声を上げた欧米企業に対する不買運動が起きている。H&Mやナイキがやり玉にあがっているが、最近は市民の動きも鈍りつつあるという。

「中国人も昔よりは余裕ができたんじゃないですか。台湾のパイナップルとかオーストラリアの牛肉とか、国民が誰も食べないかというと食べてますからね。国民みんなが当局に洗脳されるというわけではないです。ウイグルでも、ひどいこと、まずいことをやっているとは思いますが、やり方はうまいんですよね。多くの市民が豊かになるようにして、学校で教育もして、その民族のアイデンティティは薄れていくけれど、みんなが不満を持っているわけではないから統治のうえでは理に適っているわけです」(藤岡氏)

 もちろん経済や教育を与えれば民族弾圧が許されるわけではない。しかし、13億人の多民族国家を独裁政権が統治するには、ほかの方法がないのも現実なのだろう。中国を日本や欧米が考える民主的なルールに従わせることは容易ではない。