画面の前に座り込む1匹の猿。名前は「ペイジャー」だ。ペイジャーは、すぐに右手でスティックを操作し始める。

 ペイジャーが繰り返しているのは、スティックを操作し、カーソルをオレンジ色の四角の中に入れる動作だ。成功すれば、くわえているストローからバナナスムージーが供給される仕組みで、その“ご褒美”を得るためにペイジャーはひたすらオレンジ色の四角に向けて、スティックを操作し続けている。

【映像】懸命にスティックを操作するペイジャーくんの様子

 これは実業家のイーロン・マスク氏が経営するアメリカのスタートアップ企業「ニューラリンク」が公開した動画だ。動画で紹介された実験は、非常に賢い猿の特技を披露しているだけではない。実はペイジャーの脳にはチップが埋め込まれていて、2000本以上の小さな電極を通し、スティックを操作しているときの脳の活動を記録。情報はチップからBluetoothによってコンピューターに送られ、スティックの動きと脳の活動の関係をモデル化している。

 再び同じ行動を繰り返すペイジャー。しかし、スティックの周辺を見ると、先ほど繋がっていたはずのケーブルが外れている。このとき、ペイジャーはスティックの操作ではなく、脳からの情報だけでカーソルを動かしているのだ。

 さらにペイジャーはボールを打ち合うゲーム「ポン」をプレイ。見事にラリーが続き、細かい動きを遅延なく実現させている。イーロン・マスク氏も自身のTwitterに「この製品は麻痺のある人が健常者より速くスマホ操作ができるようになったり、歩けなくなってしまった人が再び歩けるようになることも可能だ」と投稿し、世界中から注目が集まっている。

 ペイジャーの動画を見た神経科学者・紺野大地医師は「身体の動きによって、人間の脳活動は違う」と話す。

「今回やっていることは脳に電極を埋め込んで、人工知能が(ペイジャーの)脳の活動を読み取ることで、カーソルを動かしている。例えば、野球をしているときとサッカーをしているときの脳活動はそれぞれ違う。同じように、右手を動かしているときと左手を動かしているときも脳の活動は違う。カーソルを上に動かそうとしているのか、下に動かそうとしているのかによって脳の活動が変わってくる。それを人工知能が読み取っている」(以下、紺野大地医師)

 まるで漫画の世界のような技術だが、人間にはどのような応用が期待できるのだろうか。

「(イーロン・マスク氏は)コンピューターでやっているあらゆることが、脳活動だけで可能になってくるだろうと言っている。それこそ、スマートフォンでLINEをやったり、YouTubeを見たりという行動を、念じるだけでできるようになると思う。最も意義が大きいのは、患者さんだ。首から下が動かない人も、念じるだけで車椅子を動かせるようになる」

 身体の動きにあわせて、膨大な量の情報が動いている脳。小さなチップを脳に埋め込むだけで、本当に身体をコントロールすることは可能なのだろうか。

「はっきり言って、それが今回のニューラリンクの最もすごい部分だ。これまでも類似の研究はあったが、およそ100本の電極を使っていた。今回は約2000本の電極を使っていて、処理能力が10倍以上になった」

 しかし、脳に電極を埋め込むためには、頭蓋骨を開ける必要がある。紺野医師は「将来的にそのリスクを下げられれば、人間にも活用が可能だ」という。身体の麻痺以外にも「精神疾患による鬱をなくしたり、念じるだけで気分を変えたりもできるようになる」と、人工知能の未来に希望をかけた。(ABEMA/『ABEMAヒルズ』より)