大きく口を開けて息を吸う「あくび」はある人から別の人にうつることが知られており、過去には「乳幼児は他人からあくびがうつされることがなく、あくびがうつるのは5歳頃から」との研究結果も報告されています。人間だけでなくサルやイヌ、ネコなどの哺乳類やインコをはじめとする鳥類もあくびをすることが知られていますが、新たな研究では「ライオンのあくび」が社会的に重要な役割を果たしている可能性が示されました。

Yawn contagion promotes motor synchrony in wild lions, Panthera leo - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003347221000579

Yawning helps lions synchronize their groups’ movements | Science News

https://www.sciencenews.org/article/lion-yawn-contagious-synchronize-group-movement-hunt

人前であくびをすると「眠い」「退屈している」といった印象を与えてしまいがちですが、実際のところ「なぜ人間はあくびをするのか?」という疑問についてはさまざまな説があります。たとえば、あくびには頭部への血流を増やして脳に酸素を供給する生理的機能があるため、休息から覚醒への移行を促すという説があるほか、脳を冷却する働きを持っているという説も提唱されています。

また、特定の個体から別の個体へとあくびがうつる現象から、特定のグループ内における集団行動を促進する役割があるとの説もあるとのこと。人間においては共感力が高い人ほどあくびをうつされやすく、自閉症の傾向がある子どもではあくびがうつりにくいとの報告もあります。



イタリア・ピサ大学の動物行動学者であるElisabetta Palagi氏らの研究チームは、南アフリカのマカラリ動物保護区でハイエナの調査をしていたところ、付近にいるライオンの群れであくびがうつっていることを発見したとのこと。ライオンのあくびに興味をそそられた研究チームは、マカラリ保護区に住む2つのライオンの群れを4カ月間にわたって撮影し、合計19頭のライオンのあくびについて調査しました。

研究チームはライオンの様子を撮影した映像から、ライオンがあくびをする時間帯や頻度、あくびをする前後の行動について分析しました。その結果、ライオンが自発的にあくびをする頻度はリラックスした状態の時が多く、24時間の活動サイクルと一致していたとのことで、あくびが眠気と覚醒の間を移行する活動に関連していることが示唆されたそうです。

また、別の個体があくびをする様子を見たライオンは、あくびを見てから3分以内に自分もあくびをする確率が、それ以外の状態より139倍も高くなることが判明。あくびがライオンの中でもうつるということが、定量的分析から明らかとなりました。

さらに研究チームは、「他のライオンがあくびをする様子を見た個体は、元のライオンがあくびの後にした行動をまねする確率」が11倍も高いことを発見しました。これは、「ライオンAがあくびをしてから立ちあがったり歩き回ったりした後、その様子を見たライオンBも同様にあくびをしてから立ちあがったり歩き回ったりする」という運動の同期を示しており、あくび以外の行動までうつっていることが判明したとのこと。



Palagi氏は、あくびの伝染は群れの社会的結束を維持するために重要かもしれないと指摘。ライオンは群れで協力して狩りを行ったり子孫を育てたりしているため、あくびを使って群れの動きを調和させることには利益があります。「あくびの伝染が結束を生み出して促進するために進化した場合、あくびが伝染した後に2頭が同じ動きをすることは相互作用を高めるために必要です」と主張しています。

また、Palagi氏によるとあくびは生理的・心理的状態の変化を示すものでもあるそうで、あくびは社会的集団の中にいる個人が「ある種の内部変化を経験している」とグループの仲間に伝える手段となっている可能性もあるとのこと。「あくびは広く行われている行動ですが、最も神秘的な行動の1つでもあると思います」とPalagi氏は述べました。