マスターズ制覇の松山英樹、4年前は「MATSUI!」の野次も受けた

 男子ゴルフの松山英樹(LEXUS)が11日(日本時間12日)、マスターズで日本男子悲願の海外メジャー初優勝を果たした。数々の日本男子が夢破れたメジャーの大舞台、しかも最高峰のマスターズを制覇。2016、17年、世界のトップクラスに駆け上がった時期にゴルフ取材を経験した記者が、歩みを振り返る。低迷する国内男子の将来を憂いた寡黙な男の裏には、「日本のゴルフ界を変える」という想いがあった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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「日本のゴルフ界が変わってくれると思うけど、まずは優勝してからそういうことを考えたい」

 17年6月の全米オープン2日目、2打差の8位に浮上した松山が答えた。優勝が手に届く位置につけ、海外メディアから飛んできた「日本人のメジャー初制覇の意義は?」の問い。しかし、言葉を濁しているように見えた。想いを伝えるのはメジャーで勝ってから。最も注目を浴び、影響力を与えられる瞬間まで口を閉ざしたかったのだろう。

 逆転を目指した最終日。好ショットには素直に称賛の声が送られる。ただ、ビール片手に酔っぱらった米ファンから「MATSUI!」「MATSUZAKA!」と小馬鹿にするような野次も受けていた。同組の米国選手が伸ばせば大歓声が上がるが、松山のバーディーにはまばらの拍手。そんな完全アウェーで2位。日本人歴代最高位と健闘したが「優勝してから」という自ら定めたボーダーラインを超えられず。多くを語る機会は得られなかった。

 松山の想いは石川遼(カシオ)から聞いていた。会えばゴルフ談議に花を咲かす2人。話題の一つが低迷する国内男子の現状だった。女子に比べ、観客数など注目度で劣る。どうすれば再び盛り上がり、発展していくのか。起爆剤にしようとしたのが、16年11月にオーストラリアで行われた国・地域別対抗戦のワールドカップ(W杯)だった。

 2人1組の代表チーム。誰が出場すれば、日本で最も話題になるのか。その国の世界ランク最上位選手がパートナーを指名する権利があり、松山は同学年の石川を選んだ。「英樹から『日本のゴルフ界を変えよう』という話をしてくれた」と石川はコンビ結成の経緯を明かしていた。

以前と同じ質問が飛んだ「マスターズ初Vの意義は?」、松山が返した答えとは

 日の丸仕様の赤白ウェアに身を包み、日本代表として戦う姿は注目を浴びた。世界一になり、日本にゴルフの面白さを届けようと奮闘した。しかし、結果は6位。オーストラリアの日差しに照らされた松山は「遼と優勝すれば日本のゴルフ界を変えられると思っていた」と悔しさを押し殺すように話していた。

「海外で活躍するからこそ見てもらえる」。こんな言葉を松山から聞いたことがある。無難に刻み、パーを取る守りの姿勢を批判されたらしい。「勝つために自分のスタイルを崩さずにやる。勝つことで一番ギャラリーが喜ぶし、それを貫くのがプロにとって大事」。日本のゴルフ熱をもっと上げるため、最高峰の舞台で勝利を目指し続けた。

 最後に優勝した17年8月から3年8か月。世界中のゴルファーが憧れるマスターズを制覇した。優勝会見で何を語るのか。「日本にマスターズ覇者が誕生した意味は?」「日本のゴルフ界への影響は?」。海外メディアからあの時と同じような質問が飛んだ。栄光のグリーンジャケットに身を包んだチャンピオンは、マイク越しに願いを込めて語った。

「僕がここで勝ったことで、今テレビで見ている子どもたちが5年後、10年後、ここの舞台に立って、その子たちとトップを争うことができたら凄く幸せ。そのためには、僕もこれから先まだまだ勝っていかないといけない。

(マスターズ制覇は)現役でやっている人や年上の人じゃなく、今からゴルフを始める人や10代の高校生たちのほうが影響があると思います。今までだったら『日本人にはできないんじゃないか』というのがあったかもしれないけど、僕が初めてのメジャーチャンピオンになってそこを覆すことができたと思う。そういう子たちにもっともっとプラスの影響を与えられるように頑張っていきたい。

 自分がもっともっと活躍して日本にニュースを届けられたら、僕を目指してやってくれる人も増えるんじゃないかと思っています」

 もしかしたら、他のメディアに話したことがあったかもしれない。でも、今回はかつてない火をつけた。一人の現役選手が与えた熱を、日本ゴルフ界は燃やし続けなければならない。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)