αシリーズのフルサイズセンサー搭載ミラーレスとしては初めて、フラットデザインのボディを採用した「α7C」。「ファインダーが見づらい」「操作部材が簡略化された」「そんなに安くない」など、いち早く試用したαユーザーの声がいまひとつ芳しくなかったこともあり、それほど関心を寄せていなかった落合カメラマンですが、しっかり腰を据えて使ってみたところ、予想外のデキのよさに驚いたそうです。

ボディは高級感こそないが、意外に悪くなかった

いや、コレ、意外にイイじゃん!

ソニー「α7C」に対する第一印象……ではなく「しばらく使った後の思い」である。α7Cに対しては、あくまでも個人的には、チョイとばかりの「今さら感」があったりもして、正直なところ興味は薄かったのだけど、いざアレコレ撮ってみたら、思いのほか気持ちよく使えるカメラだったことにビックリ。そして、「従来のフルサイズαとは違う(と個人的に判断するに至った)フルサイズ機」であるように感じたのも、想定外のヨロコビというか、不意を突かれたところだった。よい意味での“意外性”ってのは、やっぱり強いね。いきなり欲しくなっちゃったもん(←ある意味、意志が弱い)。

ソニーが2020年10月に発売した「α7C」。実売価格は、ボディ単体モデルが20万円前後、標準ズームレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」が付属するズームレンズキットが23万円前後


ソニーαのミラーレス機が本格的に始動した時、すなわち「NEX-5」が登場した時から、特有のフラットボディシルエットを持つ歴代モデルをかいつまむように愛用してきた(NEX-5、NEX-7、α5000、α6000、α6500を所有、あるいは所有していた)経緯を抜きにしても、「αのフルサイズ機」って、そもそもはα7Cのようなカタチ(フラットボディ)で登場することが強く望まれていたように思う。個人的な印象で言えば、NEX-7に手を出していた好事家のほとんどは「NEXはネックスじゃなくてエヌ・イー・エックスだからっ!」と主張するのと同じぐらいの熱量で「コイツと同じフォルム=フラットボディのフルサイズ機が欲しい」と思っていたハズなのである。

α7Cに対し、まずはほんのりと「今さら感」を抱いてしまったのは、そんな道のりを歩んできたからなのだろう。しかし、時は流れ、いつの間にやら「フツーのα7シリーズでじゅうぶん満足」なカラダになっていた。いまや、我が家ではα7 IIIとα7R IIIが心強い相棒だ。α6500もあるけれど、なぜか出番は圧倒的に少ない。いきおい、「フラットボディのフルサイズ機は、いらないとまではいわないけれど、もう別になくてもいいよ」というスタンスになっていたのである。そう、知らぬ間に……。

さらに、「安っぽい」とか「ファインダーを覗くとガッカリする」なんていうネガティブな事前情報を聞くことにもなっていた。そもそもダメ元の試用だったのである。そんなこんなを抱えつつ、実際に実物を手にしてみたら……まぁ、確かに飛び抜けた高級感が備わっているワケじゃない。ファインダーもα7 IIIなどとの比較では明らかに「サイズも見え方も小さい」仕上がりだ。でも、質感はいうほど悪くないと思う。グリップ回りの仕上げがちょっとアレだけど、まぁまぁ上手にまとめ上げていると思う。

その一方で、どこか“重み”に欠けているのは確か。APS-Cモデルより明らかに肥大化しているα7Cのボディは、しかし見た目よりも軽量であることも手伝い「中身が詰まっていなくてスカスカ」みたいな、あらぬ印象を生成することになっているのだ。世界最小最軽量をうたうだけあって、物理的にも軽いのは確かなのだけど、結果APS-Cセンサー搭載の相似形モデルとの比較では凝縮感がチョイと希薄。そこが「モノ」として若干の物足りなさを感じさせることはあるかもしれない。

もっとも、これはα6500を所有しているからこその「バグった印象」なのではないかとの自覚もある。そして、なんだかんだいっても、今の世の中「軽さは正義」。実際、使い始めたら、この「スカスカ感」みたいなものは全然、気にならなかった。やっぱ軽いってのはイイっす。

新しいキットレンズのデキがとにかくよすぎる

もっともインパクトが強かったのは、キットレンズでもある新たな標準ズーム「FE 28-60mm F4-5.6」とコンビを組んだ時のハンドリングと写りの良さだった。このレンズ、手動繰り出しのひと手間には賛否ありそうだけど、サイズ感は見た目のバランスを含めてもドンピシャだし、何よりAPS-Cモデル用として存在している(存在してきた)同種レンズとの比較では描写力が天と地ほども違うことにビックリ。ソニーのフラットボディモデルに組み合わされるキットレンズで、描写力にまったく不満を感じずに済んだのは、個人的にはこれが初めてだ。

α7Cのキットレンズとして組み合わされる標準ズームレンズ「FE 28-60mm F4-5.6」(SEL2860)。単品販売もしており、実売価格は48,000円前後


フルサイズだからこその好印象であるとも思っている。ソニーの場合、APS-Cモデルとフルサイズ機の画質差が結構ハッキリしているからだ(個人の印象です)。また、「フルサイズの2400万画素」が黄金比率のごときハイレベルな好バランスを発揮しての結果でもあるはず。おそらく、α7 IIIと同系統のセンサーなのだと思うけれど、つまるところ心臓部たるセンサーの素性がバツグンに良いのである。

しかも、おそらくはプロセッサーの世代が新しいからなのだと思うけれど、仕上がり画質の印象がα7 IIIよりも繊細だ。超高感度画質も少し良くなっているような気がする。さらに、トラッキングAFの扱いやすさと動作精度がα7 IIIとは比較にならないほどレベルアップしているのも魅力のひとつ。これら、α7Cがさりげなく有している"最新の使い心地"が、この小型軽量ボディ&キットレンズだけでも存分に味わえるのがα7C最大の強みであり、個人的にホレたポイントでもある。

もちろん、その気になりゃ各種交換レンズを駆使して楽しむことだってできる。でも、α7Cはキットレンズだけで完結させても不満を抱かずに済む初めての「α7」だ。従来とはそこが決定的に違う。α7Cの登場は、αにとって何かしらの転機になり得る出来事なのではないかとさえ思うのである。

というワケで、今回の撮影はFE 28-60mm F4-5.6だけで行っている。しかも、あえて絞り込まずに撮っている。こんなことをしたくなったのも、α7Cレンズキットに予想を超える魅力と実力が備わっていたから。意外なところで意外な底力をチラ見させてきたソニーの勢い、今しばらくは収まりそうもありませんなぁ。

レリーズ感触は、α7 IIIよりも角が丸められている手応え。パコパコ感の残る感触に飛び抜けた高級感は備わらずとも、動作音から高周波成分が排除されていることが功を奏しているのか、連写中に周囲の人を振り向かせることが減っている印象でもある。ちなみに、これは後に試した製品版の印象であり今回、作例撮影に試用した貸出機のレリーズ感触は、もっと雑な手応え&動作音だった(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/1000秒、F6.3、56mm)


さりげなく繊細な仕上がり。力みを感じさせないシャープさは、フルサイズセンサーならではの“余裕”があってこそのものだ。ソニーのAPS-Cモデルで同レベルの仕上がりを得るのは至難のワザ。少なくとも、私の経験上はそのように判断することになる。フルサイズの優位性は明らかだ(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/320秒、F4.5、28mm)


FE 28-60mm F4-5.6の最短撮影距離は、ワイド端が0.3m、テレ端が0.45m。ボケ再現は、ちょいボケ部分にクセを感じさせることがあるものの、最短に近いところまでグッと寄ればご覧の通り。比較的安価なキットレンズとしては上出来のボケが得られる。最短撮影距離でも周辺画質(周辺ボケ含む)がとことん落ち着いているのも魅力のひとつ(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/40秒、F4.5、+1補正、28mm)


α7シリーズを使っている感覚からすると、前ダイヤルがないのが残念。そして同時に、シャッターボタン手前、ボディ上面のカスタムボタン(C1、C2)がないのがかなり不満。従来のα7シリーズや現行APS-Cモデルとの併用はかなりツラいことになる。そもそも、特等席にMOVIEボタンなんてもったいなくなーい? まぁ、これが今ドキの優先順位なのでしょうけれど……(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/50秒、F5.6、-3補正、28mm)


EVFは、α7 IIIとの比較では見え方が圧倒的に小さく、また接眼光学系の作りによるものなのか、画角の端までスッキリ見渡せるポイントが見つけにくいところもイマイチなのだけど、いずれもこのボディを実現するための割り切りであると捉えれば納得することもさほど難しくはない。作例は、周辺減光補正OFFでの開放F値撮影(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/200秒、F5.6、+0.3補正、60mm)


小型軽量かつ安価であることを求められているレンズにとって、「フルサイズ」のセンサーを相手にせねばならぬ運命は鬼門にもなり得る要素だ。その点、FE 28-60mm F4-5.6は、沈胴構造と控えめな焦点距離域の採用で、携帯時のサイズ感と描写力のバランスに巧いことカタを付けてきた。単体で手にすると少々心許ない手応えだったりするけれど、写りは満点だ(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/320秒、F5.0、-1.3補正、39mm)


ワイド端28mmの開放F値撮影。ピントが合っている部分の繊細な質感描写とトバさずツブさずの豊かなダイナミックレンジのコラボレーションが、センサーの実力と確かな画作りを静かに伝えてくる仕上がりに大満足。周辺減光補正OFFで撮影(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/1000秒、F4.0、-1補正、28mm)


ワイド端の開放F値&周辺減光補正OFFで撮影。分相応に上質なレリーズ感触が生む「撮ってる感」が心地よいのだけど、他のαとは違い「連写しまくりで撮る」ことをあまりしたいと思わせないカメラでもあった。1枚1枚シャッターを切るのがサマになる(と思い込める)“α7”としては希有なキャラなのだ。もっとも、オールドレンズ遊びなどでは、従来機も同じ感覚で使われていたのだろうけど(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO100、1/800秒、F4.0、28mm)


手持ちで夜空をパチリ。シャッター速度は1/3秒。よく効く5軸手ぶれ補正(補正効果5.0段)のおかげもあり、肉眼では見えなかった星がいくつも写った。ISOオートで導かれた撮像感度はISO12800だったのだけど、α7 IIIよりも世代が新しい分、超高感度画質にはちょっと優れているかも?(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO12800、1/3秒、F4.0、-0.7補正、28mm)


こちらもISO12800。細部の再現を含め極めて良好な超高感度画質を有することが分かる。また、低輝度下での偽合焦が減っているなど、AFもさりげなくブラッシュアップされているように感じた。ちなみに、メモリーカードスロットはグリップの反対側。意外なフェイントに、最初スロット蓋を探しちゃいましたよ(FE 28-60mm F4-5.6使用、ISO12800、1/80秒、F5.0、41mm)


当初耳にしていた下馬評とは異なり、ボディとキットレンズの両方とも完成度が高いことを実感した落合カメラマン。風の噂では、このレビューで試用したあとにたまらずα7Cを衝動買いしてしまったとか…!?


【編集部より】レビューに使用したα7Cは試作機だったため、作例画像のExifデータ内のカメラ機種名が製品版とは異なる表記になっています。ソニーによると、画像は製品版と同等とのことです。

落合憲弘 おちあいのりひろ 「○○のテーマで原稿の依頼が来たんだよねぇ〜」「今度○○社にインタビューにいくからさ……」「やっぱり自分で所有して使ってみないとダメっしょ!」などなどなど、新たなカメラやレンズを購入するための自分に対するイイワケを並べ続けて幾星霜。ふと、自分に騙されやすくなっている自分に気づくが、それも一興とばかりに今日も騙されたフリを続ける牡牛座のB型。2021年カメラグランプリ外部選考委員。 この著者の記事一覧はこちら