完全封鎖されたニューヨーク・マンハッタン島を舞台に展開するクライムアクション『21ブリッジ』(公開中)のメガホンを取ったブライアン・カーク監督が、製作秘話や主演を務めたチャドウィック・ボーズマンさんの現場での様子について語った。

 『21ブリッジ』は、昨年8月に大腸がんのため逝去したチャドウィックさんの最後の劇場公開主演作。正義感が強い主人公・デイビス刑事(チャドウィック)は、警察官8名を殺害した犯人を捕らえるため、マンハッタン島にある21の橋を封鎖する。ロックダウンが解除される早朝までに犯人確保を目指すデイビス刑事だが、捜査を進めるうちに、思いがけない真実へとたどり着く。

 ニューヨークを舞台にしたクライム映画を観て育ったブライアン監督は、脚本を読んだ際、マンハッタン島を完全封鎖しての大規模な捜査が展開する本作のアイデアに魅了されたという。「脚本を読んだ時、『フレンチ・コネクション』のようなトーンと構造にピンと来たんです。また、私が育った70年代は武装した警察官が街のあちこちで見られたこともあり、そうした記憶も脚本を読んでいる最中に蘇ったりして、物語に親近感がわきました」

 犯人確保のため深夜のマンハッタンを駆け回る主人公には「チャドウィック以外、考えられなかった」と話すブライアン監督。チャドウィックさんを主演として迎えることができた背景には、『アベンジャーズ/エンドゲーム』などのマーベル映画を監督し、本作に製作として名を連ねるアンソニー&ジョー・ルッソ兄弟の存在があった。

 「ルッソ兄弟との仕事は、とてもチャレンジングでした。私が企画に参加して、主演について話し合った際に、『アベンジャーズ』シリーズでタッグを組んだチャドウィックを推してくれたんです。私は『42 〜世界を変えた男〜』での彼の演技が大好きだったので、とてもワクワクしました。ルッソ兄弟を経由してチャドウィックに脚本が渡り、そこから出演への扉が開きました。私と同じく世界観に魅了されたことで、結果的に主演だけでなく製作としても参加してくれたので、とても嬉しかったですね」

 役者としてだけでなく、製作の立場からも映画の完成に貢献したチャドウィックさん。その姿を間近で見ていたブライアン監督は、彼こそが「真のヒーロー」であると実感したという。「彼のプロ意識の高さには本当に驚きました。いつも集合時間より早く現場に到着していたり、準備段階でも一切手を抜かない。製作段階でのリサーチも欠かさず、元警官に話を聞いたり、ニューヨークのコーディネーターにも会いに行っていました。特に忘れられないのが、毎日笑顔で現場入りするチャドウィックさんの姿。まさか、その時から病と闘っていたなんて、私も他のクルーも知りませんでした……。彼はヒーローを演じていますが、私はチャドウィック自身が真のヒーローだと今でも思います。役者として、人間として偉大な功績を残しましたからね」

 アメリカ本国では2019年に封切られた本作が、ついに日本でも公開された。ブライアン監督は「チャドウィックさんを失ったことは、彼の家族はもちろん観客にとっても辛いことです」と切り出すと、「でも役者は、作品の中ではずっと生き続けると思うんです。映画を観ている瞬間、役者のエネルギーを近くで感じることができますし、役者の魂が映画に詰まっている。みなさんにも映画を通して、チャドウィックさんの魂の演技、そして彼の功績を目に焼き付けてほしいです」と力強く訴えた。(編集部・倉本拓弥)