まさに“寝耳に水”の出来事だった。試合前日に衛生・健康上の理由から対戦相手の欠場が発表されたキックボクサーが急遽、MMAの試合に挑戦するも身長195センチ、体重120キロのパワーファイターが繰り出す重いパウンドの餌食となり、1ラウンド1分48秒で壮絶なTKO負けを喫した。しかし試合後、その勇気と奮闘ぶりにファンから同情と称賛の声が相次いで寄せられている。

【映像】衝撃のTKO決着

 4月8日にシンガポールで開催されたONE Championship「ONE ON TNT I」の第一試合で、オマール・ケイン(セネガル)とパトリック・シミッド(スイス)が対戦。キックボクシングの試合が中止となったシミッドが、急遽、売り出し中のセネガル相撲出身のファイターであるケインとMMAルールで戦うという“珍しい”カードに注目が集まった。

 前日までキックボクシングのカードが組まれていたシミッドが、対戦相手の欠場を受けて挑んだのは全く経験のないMMAの試合だった。しかも相手は、セネガル相撲出身のヘビー級マッチョ、“Reug Reug”の愛称で知られるケイン。195センチ、120kgの恵まれた体格に筋骨隆々のボディでスター性は抜群。プロ2戦はいずれも強打でKO勝ちを収めている。一方、192センチ・120kg、“BIG SWISS”の異名で知られるベテランキックボクサーのシミッドも体格では負けていない。柔道と東南アジアの武術、シラットの経験があるというが…。

 あまりにも無謀な試合を受けたシミッドについて、ABEMAでゲスト解説を務めた青木真也が「古き良き日本の格闘技を思い出す。メルヴィン・マヌーフがマーク・ハントとの試合を直前で受けたときのようだ」などと語ると、もう一人のゲスト・和田竜光も「(最近は聞かないですね)練習とかしないで、ノリでやっちゃえという感じなんですかね…」と心配そうに漏らした。

 ゴングとともに、軽くローで探ったシミッドに対して、未知の相手を前にしたケインも慎重な立ち上がりだ。しかし、距離感を探ったケインが、その豪打をいきなり爆発させる。突然スイッチが入ったかのようにパンチの連打を繰り出すと、相撲仕込みの突進力でシミッドのボディ、顔面などを殴ってケージ際に吹き飛ばす。あっさりテイクダウンを奪うと、強烈なパウンドを打ち下ろした。本来はキックボクサーであるがゆえに、寝てしまうと何もできないシミッドに対して、ケインはさらに鉄槌を振り下ろしていく。何とか足を掴んで抵抗するシミッドだが、亀のポーズでケインのパウンドを一方的に浴びたところでレフェリーが試合を止めた。このストップのシーンを受け青木は「階級が階級なので、レフェリーの経験値的にも、見れなかったりとか、逆に見過ぎてしまったりとかするところもあるかもしれない」としたうえで「レフェリーとしては災難」など、レフェリーに対する同情的な見解を示した。

 ヘビー級ならではの大味なクライマックスに和田は「オマール・ケイン選手もそんなにグラウンドとかわかってない感じはしましたね。とりあえず打ってました」とフィジカルで振り切った勝利を総括すると、青木も「(状況を考えたら)お互いに形にしていい試合だったと思います。120キロの人がどつき合うと迫力がある」と応じた。異様な緊張感に包まれた試合の決着を受け、視聴者からは「元気そうでなにより」「よく頑張った」「よく(試合を)受けたよ」など、敗者であるシミッドに対する同情と称賛の声が相次いで寄せられた。

 試合にはあっさり敗れてしまったシミッドだが、試合後には笑顔でケインとハグ。さらにSNSで「僕は大丈夫だよ。元々の予定と180度違う別のスポーツのために新しいゲームプランを考えたけど、残念ながらできなかったね。1度グランドを取られたら、ご覧のとおり“てんとう虫”みたいになってしまったよ(笑)。できるだけ早く本来のルールでONEでデビューするのを楽しみにしているよ。ケイン選手、勝利おめでとう。彼は技術的ではなかったけど、あの筋肉は見せ物ではなかった。パワフルな男だった」などとジョークを交えながら自身初となったMMA体験を陽気に振り返った。(C)ONE Championship