結婚すると幸せになれるのか。精神科医の樺沢紫苑氏は、「結婚当初のドキドキした幸福は、2〜3年で消えてしまう。大事なのは結婚後の努力で夫婦のつながりを深め、『オキシトシン的幸福』を育てることだ」と指摘する――。

※本稿は、樺沢紫苑『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

出所=『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』

■結婚して2年を過ぎると幸福度は下がっていく

幸福を論じるとき、必ず出てくる質問――結婚すると幸せになれますか?

この永遠のテーマについて、私の考えをまとめておきます。

結婚と幸福については非常にたくさんの研究がありますが、まずは結婚と人生の満足度について調べた有名なものを紹介します。図表1を見るとわかるように、結婚によって一時的に「人生の満足度」はアップしますが、2年程度でその幸福に慣れてしまい、幸福度は下がっていくのです。

結婚による幸せは「2年」で減じるという研究データを知って、未婚の方はたいへんガッカリしたかもしれませんが、全くその必要はありません。

2〜3年で減じるのは、ドーパミン的幸福(前回記事「幸せな一生を送れる人は『健康→つながり→お金』の順番を守っている」を参照)の特徴です。高額宝くじの当選者のピークの幸福感は、2〜3カ月で減じ、さらに2〜3年もすると、宝くじ当選のお金による幸福感は全く感じられなくなると言います。

恋愛も、付き合い始めた2〜3カ月は一気に盛り上がるものの、そのピークの盛り上がりは次第に減じ、2〜3年もすると倦怠期(けんたいき)に陥る。俗に言う「3年目の浮気」というやつです。早い話が、「お金」も「恋愛」も同じパターンであることに気付くでしょう。

■それでも「幸福度実感」は既婚者のほうが高い

「結婚による幸せは2年で減じる」というデータだけでは、「結婚したい」という独身者が減ってしまう可能性があるので、別のデータを示しておきましょう。

全国の成人男女、2万659人に対する調査があります(「PB地方創生幸福度調査」パイプド総研政策創造塾、2017年)。これを見ると、未婚・既婚別に、幸福度実感を0点から10点の10段階評価した回答の平均値がわかります。「既婚者」は「未婚者」に比べて、男性で1.62点、女性で1.06点、幸福実感度が高い(男性既婚者7.03点、女性既婚者7.10点)。つまり、既婚者のほうが幸福を実感しているという結果が出ました。

■大事なのは結婚後の努力や歩み寄り

友人、仲間、恋人、パートナー、夫婦、親子、職場の人間関係、趣味サークルの仲間など、私たちは多くの人間関係の中で生きていて、それらの人たちと安定した、楽しい人間関係を構築できれば、それはオキシトシン的幸福を増やすことになります。

結婚して、配偶者ができる。そして、子供ができる。配偶者や子供としっかりとしたつながりが構築できれば、それは幸福度のアップにつながります。ただし、夫婦関係が劣悪だったり、夫婦喧嘩が絶えない場合は、それは「ストレス」になるし、オキシトシン的幸福を減らす可能性があります。

「結婚すれば、誰でも幸福になる」とは言えませんが、「結婚し、しっかりとしたつながりが構築できれば、幸せになれる」と言える。結婚した後に、夫婦関係を密にする、つながりを強化する努力や歩み寄りがあって、初めて幸せな夫婦になれるのです。

■「愛情」の2つのパターンを把握せよ

「愛」や「愛情」には、2パターンあります。これを区別して考えると、恋愛関係をものすごく円滑に進めることができます。愛、愛情に関する脳内物質は、ドーパミンとオキシトシンです。つまり、「ドーパミン的愛情」と「オキシトシン的愛情」の2つの愛情があるのです。

「ドーパミン的愛情」は、熱愛、情熱的な愛。高揚感、興奮、ドキドキ感がある。「もっと会いたい」「もっと愛してほしい」と、相手に「もっと」を求める。いわば、「求める愛」です。一方、「オキシトシン的愛情」は、友愛、慈愛といった愛情で、リラックス、安らぎ、安心感、信頼感をもたらしてくれます。一緒にいるだけで十分という満足感、満たされる愛です。

「ドーパミン的愛情」の典型的な例は、付き合い始めたばかりのラブラブなカップルです。「オキシトシン的愛情」は、30年、40年とつれ添っている仲のいい老夫婦のイメージです。つまり、付き合い始めは「ドーパミン的愛情」がメインの「情熱的な愛」からスタートしますが、それが「オキシトシン的愛情」に置き換わっていくことで、「永続的な愛」になるのです。

結論として、「ドーパミン的愛情」を「オキシトシン的愛情」に置き換えていくことによって、末永く続く安定した夫婦関係が得られると言えます。

■告白にもプロポーズにもタイムリミットがある

ドーパミンの特徴を知っていると、あなたの恋愛ノウハウは大きく向上します。

私の友人で、彼女と3年間同棲(どうせい)した結果、別れてしまった人がいます。別れてから相談されたのですが、別れる前に相談してほしかった。なぜなら、ドーパミン的愛情のリミットは2〜3年とわかっているからです。「燃え上がるような愛情は、2年しか続かない」と思っておいたほうがいいのです。

樺沢紫苑『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』(飛鳥新社)

多くの人は「長く付き合えば付き合うほど、結婚の可能性が高まる」と思うでしょうが、脳科学的に見ると「2〜3年を超えると別れる可能性が高まる」と考えられます。つまり、「この人が好き!」と思ったら、2年以内にプロポーズすべきなのです。

ドーパミンというのは、「モチベーション物質」でもありますから、「チャレンジする」「行動する」「決断する」を後押ししてくれる物質です。「プロポーズする」「結婚する」には、かなりの精神的エネルギーが必要。そのエネルギー量が、2年を超えると一気に減ってくるわけですから、「プロポーズしたい」と思っていても、なんとなく時間だけが過ぎてしまって、私の「3年同棲したのに別れてしまった友人」のような結果になるのです。

なお、ドーパミン的愛情の短期間的なピークは、2〜3カ月です。そこで何がしかの「報酬」が得られないと、ドーパミンは急速に減じていきます。例えば、あなたに好きな人ができた場合は、2〜3カ月以内に告白すべきです。3カ月を超えて、関係性が全く進展しないとすると、ドーパミン的愛情は一気に減じます。

■オキシトシン的夫婦関係の作り方

オキシトシン的幸福は、「BEの幸福」ですから、「あなたがそこにいるだけで幸せ」という感覚です。そうした感覚があるのであれば、それはオキシトシン的幸福ですから、劣化しづらいと言えます。

結婚前は、この「あなたがそこにいるだけで幸せ」という感覚があっても、結婚するとそれが急に失われる場合も多くあります。同じ家で一緒に生活することで、心理的距離が大きく縮みます。心理的距離が縮むのはよさそうに思えますが、必ずしもそうとは言えません。恋人同士のときには見えなかった、相手の悪い部分、悪いクセ、短所などが、急に目に付くようになり、腹立たしくなるのです。

■夫婦といえども「適度な距離感」が重要

心理学で「ヤマアラシのジレンマ」という概念があります。寒さのなか、2匹のヤマアラシがいます。離れていると寒いので、体を暖め合うために体を寄せ合いますが、近づきすぎるとお互いの「針」が相手に刺さって、痛みを感じます。2匹は近づいたり離れたりしながら、お互いに傷つかない、ちょうどいい距離を見つけます。このたとえは、心理的な距離が近すぎると傷つけ合うことになり、適度な距離感が重要だということを教えてくれます。

「ヤマアラシのジレンマ」を知っていれば、心理的距離が近すぎると、夫婦喧嘩が起こりやすいこともよくわかるはずです。お互いに、相手のプライベートの時間を尊重したり、相手の欠点や失敗をゆるしたり、お互いを認め合う。そういう愛情を持った余裕のある対応をすることで、「あなたと一緒にいることは素晴らしい」「あなたがいてくれてありがとう」「あなたがいてくれて幸せ」という、オキシトシン的夫婦関係ができ上がるのです。

なお、結婚したらからといって、必ず「オキシトシン的夫婦関係」ができるわけではありません。それは、夫と妻、それぞれの「努力」や「歩み寄り」が必須なのです。それが、「あれやってほしい」「どうして○○してくれないの」と「自分が自分が」モードになって、相手への要求だけが増えていくと、夫婦関係は危ういものになっていきます。

■結婚を「ゴール」と考えてはいけない

結婚とは何か? これまた重要な命題についても、私の考え方をお伝えします。

独身の人たちは、「結婚はゴール」という認識の人が多いはずです。実際に、「結婚」のことを「ゴールイン」と言ったりもします。しかし、それは完全に間違いです。

写真=iStock.com/CoffeeAndMilk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CoffeeAndMilk

結婚は「ゴール」ではありません。結婚は「試練」です。あるいは、結婚とは「振り出しに戻る」ことなのです。それまで「恋人関係」で積み上げた「関係性」「愛情」「経験値」などが、「結婚」というイベントによって――つまり「夫婦関係」になったときに――どういうわけか全てリセットされてしまいます。完全に振り出しに戻るような状態です。

結婚した人は、「そうだよね」とわかると思います。完全に振り出しに戻る状態で、もう一度夫婦という関係をゼロから構築していく――それが結婚生活、夫婦生活です。その中で、いろいろと大変なことも起こるし、楽しいことも起こります。つまり、「試練」と言ったのは、「苦しい」「つらい」「たいへん」を夫婦で乗り越えることで、自己成長しながら、人生の階段を昇っていくということ。

■恋人時代のパラメーターは結婚後には引き継がれない

ロールプレイングゲーム(RPG)を例に説明しましょう。「ドラクエ(ドラゴンクエスト)1」のゲームをクリアします。その続編の「ドラクエ2」を始めますが、「ドラクエ1」の経験値、レベル、装備などは、「ドラクエ2」には全く引き継がれない。それと同じです。

ただ、人生の「ドラクエ1」は、「1人プレイ」ですが、人生の「ドラクエ2 結婚生活編」では、パーティの仲間が1人増えて、「夫婦2人」でのプレイになるのです。手強い敵を倒して経験値を手に入れる。「経験値」は愛情であり、オキシトシン的幸福です。たいへんな出来事を一緒に乗り越えることで、愛情が深まるというわけです。

多くの夫婦は、結婚した時点で「愛情」というパラメーターがピークになっていると、勘違いしています。人生の「ドラクエ2 結婚生活編」において、「経験値」が初期化されてしまったことに気付かないまま、パートナーに様々な欲求をぶつけあうので、途端に夫婦関係の雲行きがおかしくなるのです。

■オキシトシン的幸福とドーパミン的幸福を掛け算する

『精神科医が見つけた 3つの幸福 最新科学から最高の人生をつくる方法』における「幸せになる方法」――それはセロトニン的幸福、オキシトシン的幸福、ドーパミン的幸福の「3つの幸福」を組み合わせ、そして掛け算によって増やしていこう、という戦略です。

何か目標を達成して、それをクリアするとドーパミンが出る。また何か試練や問題が起こって、それを乗り越えるとドーパミンが出ます。「やった、乗り越えられた!」と思ったら、また大変なことが起こって、それを乗り越えて、「やった、ドーパミンが出た! また頑張ろう」という気持ちになる。このように、「小さな課題」という階段を一段ずつ昇っていく。それは、「ドーパミンの階段」であり、「自己成長の階段」となるのです。

夫婦生活とは、夫婦で一緒にドーパミンの階段を昇ること。オキシトシン的幸福は、「人生のクエスト」「人生の階段」を昇るための経験値であり、エネルギーであり、武器でもあるのです。

互いに相手を尊重し、協力し、夫婦それぞれが自己成長することで、オキシトシン的愛情を強め、オキシトシン的幸福を手に入れていく。結果として、ドーパミン的幸福までも手に入れる。これが、私の考える幸せな結婚生活です。

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樺沢 紫苑(かばさわ・しおん)
精神科医
作家。米・イリノイ大学への留学を経て樺沢心理学研究所を設立。YouTubeやメルマガで精神医学の情報を発信。著書に『学びを結果に変えるアウトプット大全』『精神科医が教える ストレスフリー超大全』ほか。
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(精神科医 樺沢 紫苑)