車イスで生活している女性が、旅行で静岡県内の無人駅に行こうとしてJR東日本の駅員とトラブルになったと、ブログに書いて、様々な意見が寄せられている。

女性は、旅行当日に車イスでの階段の移動を駅員にお願いし、駅員が一時断っていた。「JRに乗車拒否された」などと女性は不満を漏らしているが、どう考えるのか。JRや国交省などに取材した。

「駅員3,4人集めて、階段を持ち上げて」と旅行当日に依頼

この女性は、コラムニストの伊是名夏子さん(38)で、骨形成不全症という骨の折れやすい障害を抱え、新聞などにも障害にまつわるコラムを書いている。

伊是名さんは、「JRで車いすは乗車拒否されました」と題して、2021年4月4日にブログを更新し、長文で当時の状況をつづった。

それによると、伊是名さんは、ヘルパーや友達、子供2人と計5人で、1〜2日に1泊2日で熱海を旅行した。熱海駅の隣にある無人駅の来宮駅で降りることになり、事前にJRの公式サイトで上りホームの階段を知ったものの、下りはないのではと考え、出発日の1日に神奈川県内の小田原駅で電車に乗ろうとした。

ところが、駅員は、「来宮駅は階段しかないのでご案内ができません。熱海まででいいですか?」と提案した。これに対し、伊是名さんは、レストランもホテルも予約しているとして来宮駅にこだわり、「駅員さん3,4人集めてもらい、階段を持ち上げてください」と依頼した。

駅員は、隣の熱海駅ではそのような対応をしていないとし、同駅でタクシー利用などを自分で考えてほしいとお願いした。伊是名さんは、タクシーは1か月前に予約しないといけないと反論し、1時間ほども駅員との応酬が続いた。その結果、伊是名さんは、タクシーの電話番号を教えてもらって、乗りたかった電車の後の電車で熱海に向かった。

「声を上げていかないと何も変わりません」と説明

すると、熱海駅では、駅長ら4人が待機しており、一緒に来宮駅へ電車で行って、駅長らが車イスを4人がかりで階段から降ろした。伊是名さんは、ヘルパーに降ろしてもらった。帰りは、前日の4月1日夕に乗りたい電車を熱海駅に伝え、当日の2日は、駅に行くともう駅員らがスタンバイしていたという。

JR側からは、今後は事前に総合窓口の電話番号にかけるよう依頼されたが、伊是名さんは、連絡が必要なことなどもっと情報を広めてほしいとJRに注文を付けた。

さらに、新聞社数社に電話して帰りに取材してもらったといい、伊是名さんは、「声を上げていかないと何も変わりません」と説明している。

伊是名さんのブログは、ネット上で大きな話題になり、まとめサイトなども次々に取り上げて、賛否が分かれる議論になった。

その主張に共感する向きとしては、「車いすユーザーへの社会的障壁を訴えたかったのでは?」「妥協せずその駅や他の車いすユーザーのために行動された」などの声があった。

一方、異論も多く、「いきなりで無人駅だと対処のしようがない」「前もって問い合わせておけばこんなことにならないのに」「出来ないって言ってるのに何で無理を通そうとする」といった意見が出ていた。

伊是名さんは、10年前もブログで、東京都内で電車に乗ろうとして、駅員から目的の駅は階段しかないと乗車拒否されたと地方紙のコラムに書いたことを明かしている。

現在は、社民党の全国連合常任幹事をしており、今回のトラブルについて、同党機関紙宣伝局の事務局長は4月5日、J-CASTニュースの取材に伊是名さんの主張を次のように擁護した。

JR「できる限りのことはやるが、事前に連絡していただければ」

「組織として議論できているわけではないですが、本人の言っていることは違和感がなく、その通りだと思っています。障害者として暮らしていて感じた矛盾をつづったものですね。車イスは邪魔、ベビーカーは邪魔と、一緒に生きていけない社会はどうなのかと思います。旅行について事前に知らせないのが普通ですから、障害者だからそうしないといけないというのは、違うんじゃないでしょうか。障害者であろうとなかろうと、どこにでも行ける社会にする必要があります」

最近は、無人の駅が増えてきており、以前からトラブルが絶えないという。

「障害者でも、普通に生きていける方がよりよい世の中だと思います。本来は、駅にエレベーターがあればいいわけで、バリアフリーを実現しないといけないと考えるべきでしょう。駅の人手などに折り合いをつけなければいけない事情はあると思いますが、『障害者は行くな』というのは、差別だと考えています」

なお、伊是名さんのブログは、政治活動の一環ではなく、あくまでも個人的な体験からの発言だとしたが、今後党として取り組む必要はある課題だそうだ。

J-CASTニュースでは、伊是名さんにもメールなどを通じて取材を申し込んでいる。

JR東日本横浜支社の広報室は4月5日、伊是名さんのブログで書かれたことの事実関係は分かりかねるとしながらも、取材にこう答えた。

「当日のお話でも、できる限りのことはやりますが、事前に連絡していただければ、お待たせすることはないと認識しています。車イスには100キロ近いものがあり、電動ですとかなり重く、大人1人、2人では持ち上がるものではないですね。重いものを持って階段の上り下りは、確かに危険が伴うこともあると思います」

国交省「急に車イスで来られた場合も、可能な範囲で対応」

車イスでの乗車について事前の連絡が必要かについて、国交省の鉄道サービス政策室は4月5日、取材にこう話した。

「事前連絡があれば、円滑な案内ができるようになると思います。しかし、当日だからダメということではなく、急に車イスで来られた場合も、可能な範囲で対応していただくことになります。今回の場合は、乗りたい電車に乗れなかったということで、もっと早く案内ができたかもしれませんが、JR側がそのように対応していただいたと認識しています」

障害者差別解消法の第8条2項では、事業者は、負担が過重でないときは社会的障壁の除去に必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならないと、その努力義務を規定している。

駅員らが車イスを持って階段を上り下りしたことについては、こう言う。

「もし駅員が2人なら、電動車イスを運ぶのは危険なので、熱海からタクシーなど別の行き方を選択せざるを得ないと思います。何人ならいいかはケースバイケースですが、JR側は4人なら大丈夫だと判断したのでしょう」

無人駅での車イス対応については、2020年11月から事業者や障害者団体と意見交換会を開いており、どのように案内するか検討していくとした。

「あらかじめ連絡していただければ、問題なく対応できるかもしれませんので、団体の方たちにも協力をいただきたいです。また、タクシーなどを使って、別の駅からアプローチできないかも検討することにしており、早ければ今年夏ごろにもまとめたいと考えています」

(J-CASTニュース編集部 野口博之)