米国のバイデン政権が、北朝鮮の人権侵害に対する非難を強めている。ブリンケン国務長官が今月18日に韓国を訪問した際には、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相との会談に先立ち、「北朝鮮の体制は自国民に対して組織的かつ広範な虐待を続けている」と述べた。

人権問題で追及されることを、北朝鮮は最も嫌う。条件次第では放棄する可能性を検討できる核兵器と異なり、恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉材料になり得ないからだ。

しかも、人権侵害には金正恩総書記に大きな責任がある。これは単に、彼が独裁者だから国家運営の全般に責任がある、といった意味だけで言っているのではない。金正恩氏自身が、重大な人権侵害の当事者である可能性が高いのだ。

たとえば、脱北者で東亜日報記者のチュ・ソンハ氏は自身のブログで、金正恩氏がいかに処刑命令を下すかを、北朝鮮内部から得た目撃情報として伝えている。

金正恩氏は2015年8月にスッポン養殖工場を視察した際、現場の管理不備に激怒し、その場で支配人の処刑を命じた。同工場では電気が供給されず揚水ポンプが止まり、飼料も供給されなかったため、スッポンの幼体がほとんど死んでしまったという。

これを見とがめた金正恩氏は「おい、お前ら、スッポンが死んでいく間に何をしていた!」と怒鳴りつけた。これに対し、支配人は工場が置かれた窮状を説明したのだが、金正恩氏はこれを抗弁と受け取ったようだ。「何だとこの野郎」といっそう怒り狂ったという。

すると、身長180センチをゆうに超える巨漢の護衛兵たちが両側から支配人の肘を取り、膝の裏側を蹴りつけて膝立ちにさせ、後頭部を抑えつけて身動きの取れない状態にした。そして、金正恩氏は支配人にあらゆる罵詈雑言を浴びせると、「こんなヤツに生きている資格はない」と言い放った。連行された支配人は、即時、処刑されたという。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

つまり、金正恩氏が「生きている資格はない」と言ったことが、実質的な処刑命令だったわけだ。ちなみに同氏は、これでも気が済まなかったのか、この視察時の動画を公開し、国民に自らの怒りの激しさを見せつけている。

死刑そのものの正当性が問われている現在の国際的な潮流の中で、このような行為が正当化される余地はまったくない。

韓国のNGO、北朝鮮人権情報センター(NKDB)は9月に発表した「2020北朝鮮人権白書」で、「金正恩時代になり、北に送り返された脱北者に対する処罰が強化されるなど、社会全般にわたって処罰強度が高くなった」とする一方、いくつかの分野では過去と比較して、人権状況に改善が見られることも明らかにした。事実であれば、歓迎すべきことだ。

しかし人権の蹂躙に直接関わった者の責任の明確化なくして、根本的な人権状況の改善はなしえないと思う。つまり、金正恩氏の退陣なくして、北朝鮮の人権状況の抜本的な変化は起きえないということだ。