これまで持ちこたえていた会社も倒れ始める(デザイン:杉山 未記)

「当社の存亡に与えるリスクを勘案したとき、何らかのアライアンスが必要であると昨年9月ごろから感じていた」

2月15日、ロイヤルホールディングス(HD)の菊地唯夫会長は、総合商社である双日との資本業務提携締結に関する記者会見でこう述べた。


ロイヤルHDは、「ロイヤルホスト」「てんや」といった外食店のほか、ホテルや機内食も展開しているが、いずれも新型コロナウイルスの感染拡大が直撃。2020年12月期は275億円の最終赤字に転落、自己資本比率も1年で30ポイント下がり19.7%まで低下していた。このため双日と資本業務提携を結び、第三者割当増資や新株予約権の発行で約178億円を調達することにしたのだ。

会見では、昨年9月ごろから証券会社などを通じて相手を探していたとした菊地会長。しかし事情に詳しい関係者によれば、同年4月ごろからさまざまな再建策を模索、出資してくれそうな先への接触も図っていたという。

というのも菊地会長は、日本債券信用銀行が1998年に経営破綻した際、頭取秘書を務めており、経営破綻を肌で知っている。そのため運転資金や自己資本がいつまでもつのか、ロイヤルHDに残された時間を把握していたのだ。

そこで、不採算店の閉鎖や希望退職の募集といったリストラを進める一方で、自力再建するのか、それとも他社と提携して資本増強を図るのか、2つの選択肢を同時に模索していたわけだ。

自力再建は無理

だが、新型コロナ感染拡大のスピードとその衝撃は想定以上だった。自力再建は無理だ──。そう感じた菊地会長は、9月から提携先探しに舵を切る。

鉄道会社や国内のファンドなど、複数の相手と繰り返し協議を持ち、最後に選んだのは双日だった。出資金額やシナジーはもちろんだが、大きかったのは意思決定の速さだった。菊地会長がコロナ禍での変化の速さを痛感していたからだ。

双日との提携によってロイヤルHDの自己資本比率は50%近くまで回復する見込み。ギリギリのところで生き残りへの土台を固めることができた形だ。

『週刊東洋経済』は3月8日発売号で「コロナ倒産 最終局面」を特集。「コロナ関連倒産」急増が目前に迫る中、苦境にあえぐ業界が現在どうなっているのかをリポートし、危ない企業を見破るノウハウも伝授している。

新型コロナによって資本不足が危険水域に達し、資本増強を急ぐ外食企業は少なくない。

「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスもその1つ。今年2月、生鮮食品オイシックス・ラ・大地やファンドを引受先とする第三者割当増資で約25億円を調達した。

コロナ前から店舗閉鎖はもちろん、従業員を他社に出向させたり、本社を移転したりして固定費圧縮に努めていたが、2020年9月末に9億円の債務超過に転落してしまう。

経営陣は、資本増強策の検討を急いだ。米山久社長が個人で10億円を出資することは決めていたが、外部の出資者探しにも奔走した。

「公募増資も検討したが、どれだけ集まるかが読めなかった。そのためスピード感があり額も読みやすい第三者割当増資に踏み切った」とエー・ピーHD幹部は明かす。

両社は資本増強によって生き残ることができたが、長引くコロナ禍で、命尽きる企業は増加している。東京商工リサーチによるとコロナ関連倒産は2月26日時点で累計1108件。2021年2月は122件と月間の最多記録を更新した。

ただ、企業倒産件数全体は意外に増えていない。2020年の倒産件数は2019年比7%減の7773件で、1990年以来の少なさだ。

低水準にとどまっているのは、政府が持続化給付金をはじめとする支援策を打ち出しているからだ。そして、無利子・無担保融資も大きい。全国信用保証協会連合会によると、昨年12月末時点で累計184万件、32兆4564億円にも及んでいる。こうした支援策により、企業が延命しているのだ。

だが、支援策がいつまでも続くわけではなく、追加で借りることができない企業も増えている。帝国データバンクの赤間裕弥情報部長は「コロナ融資はおよそ半年分の運転資金として執行されているため、多くの企業は昨年12月末で一巡している。経済が回復しなければ債務超過に陥る企業が続出する」と分析する。

不良債権ファンドも台頭

倒産が急増し、不良債権が増加する──。そうした事態を想定し、動き始めたプレーヤーたちも増えている。アメリカの投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下の豪ペッパー・グループは債権回収会社を買収、1月から日本における不良債権ビジネスに参入した。

狙っているのは、地方銀行が抱える案件。地方には、事業としては有望なものの過剰債務で苦境に陥っている企業が少なくない。しかし、地銀には企業再生のノウハウがない。そこで債権者からディスカウントして債権を買い取り、非中核事業を売却させるなどしてバリューアップを図る算段だ。

国内資本のニューホライズン キャピタルも、地銀や信用金庫を中心とした金融機関から不良債権を買い取るファンドを立ち上げる。地銀を中心に200億〜300億円の出資を募って設立、1000億円規模の不振企業向け債権を買い取る構え。いずれも、今後、苦境に陥る企業が増え、倒産が急増することを見越しているのだ。

1都3県では緊急事態宣言が延長されるなど、新型コロナの影響は一向に沈静化の兆しが見えない。そうした中で「コロナ倒産」急増のカウントダウンが始まっている――。

『週刊東洋経済』3月13日号(3月8日発売)の特集は「コロナ倒産 最終局面」です。