「今だから語れる」と今回取材に応じてくれた中川真依さん(左)と潮田玲子さん

『特集:女性とスポーツ』第5回
潮田玲子×中川真依が語る女性アスリートが抱える問題(後編)

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 3月8日は国際女性デー。1975年に国連によって制定されたこの日は、女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える日だ。スポルティーバでは女性アスリートの地位向上を目指し、さまざまなテーマで「女性とスポーツ」を考えていく。

 元バドミントン日本代表の潮田玲子さんと、元高飛び込み日本代表の中川真依さんのインタビュー後編では、メディアに登場する際に直面する女性アスリートの戸惑いについて話を聞いた。

――お二人の活躍は多くの媒体で目にする機会がありました。ただ、望ましくない取り上げられ方をされたことも数知れずあったと思います。いかがでしょうか。

潮田玲子(以下:潮田) 本当に多かったですね。私はもう臭いものにはフタをする気持ちで「そういうメディアは見ない」と決めていました。

中川真依(以下:中川) 同じです。私も見なかったです。

潮田 バドミントンの場合、キャリーバッグをコートサイドに置くんですよ。試合の合間のインターバルでそのバッグからドリンクやタオルなど取り出すんですけど、同じサイドのすぐそばに撮影するメディアの人たちがバーっと並んでいるんです。

 汗を拭いている時とか、立ったまま体を折ってバッグからタオルとかを取ろうとすると、シャッター音がすごいんです。そのときに「あ、これ変なの撮られた!」って気づきました。

 それ以来、お尻をカメラの席に向けないようにしました。さらに立ったまま荷物を取ったり動かしたりすると胸元が見えたりするから、一度しゃがんでから取るように気をつけていました。

中川 でも試合中にそこに気を遣わないといけないのは嫌ですね。

潮田 そうなんです。でも結局あらゆる角度から撮られて破廉恥な感じで掲載されてしまって......。それがすごく嫌でした。バドミントンはプレー中にすごく足を開いたりするので、角度によって際どい感じに見えたりもするんです。

中川 だからって長袖でタートルネックを着てプレーするっていうのも考えられないですね。

潮田 それは動きにくいんですよ。最近女性アスリートたちからいろんな声があがってきて、ようやく「NO」と言えるような状況ができてよかったなと思ってます。

中川 飛び込みと競泳では、注目される場面が違っていて、競泳の場合、スタートの時は音を出してはいけないので結構静かなんですよ。水に入っちゃえばあまり体を撮られることもない。でも飛び込みは空中での"演技"なので、まさに陸にいる時こそ撮影される。(水着が)透けて見えるようなカメラで撮ってる人もいると聞きました。今は大会の主催者側が観客席からの写真撮影を禁止している事例もありますね。

潮田 ちゃんとそういうルールを作って選手を守るというのは一つの方法ですよね。選手側から「今の撮ったでしょ。やめてください」とは言えない。でも、声をあげることは大事だと思います。

――今はSNSでの画像拡散の問題もあります。一度拡散された写真はもう回収できないです。そういうシーンを撮らせないようにすることも大切でしょうか。

潮田 そういう場面を作りたい訳じゃないのに結果的に提供してしまっていることもありますよね。今でこそスポーツブラジャーは主流だから競技中にスポブラはしています。でも私たちの頃って普通のブラジャーじゃなかったですか。

中川 私、水着です(笑)。

潮田 そうだった(笑)。20代に"オグシオ"でフィーチャーされていた時は、まだ普通のブラジャーでプレーしていた頃だったんです。ノースリーブだから肩紐が落ちてくる時があっても、ラリー中に上げられない。でもそういう写真がメディアに載るんです。それは嫌でした。スポブラになってその心配がなくなったのはよかったですね。

――最近では、SNS対策も昔に比べれば整ってきています。やはりそれは元アスリートの方たちが声をあげたからですよね。

潮田 我慢するだけじゃなくて声はあげたほうが絶対にいい。だってショックだし、傷つくもん! そんな写真を見ても選手はうれしくない。親がすごく悲しんでいました。親は私にそんな雑誌やメディアは見せないようにしてくれていたし、「載っていた」とも言わないようにしてくれていました。

中川 親としてはやっぱり嫌ですよね。それから私は一つ分けて考えたいことがあって、スポーツってさわやかなイメージの中にも"異性の目"がありますよね。それを意識して、その競技を発展させるために、あまり結果が出ていなくても、美人アスリートという切り口でフィーチャーされるのをときどき目にします。それを本人がきっちり理解したうえであれば、それも大切なことなのかなと思う気持ちもあります。

 ただ、玲子さんの言うような明らかに破廉恥さを目的としたものはまったく違うものだと考えています。

潮田 そう。私にとって「そんな写真に耐えろ」っていうのは無理でした。そんな気持ちを持つ選手たちに対して周りがフォローするのも大切なことです。疑問に思うことはすごく大事だと思います。我慢するのが当たり前というのは絶対に違うはずです。

 なかには「そういう(撮られやすい)格好してるじゃん」って言う人もいました。確かにユニフォームは短いワンピースだったんですけど、それは動きやすさも考えてのこと。あと撮影ですごく丈の短い衣装が用意されていた時があって、恥ずかしいなって思ったんだけど、「これまでもっと際どいものを着て何万人もの前でプレーしてるじゃん」って言われたんです。

中川 それとこれとは話が別ですよね。私だって、ここで「水着を着ろ」って言われたら絶対イヤです。

潮田 そうなんです。でも、ふと思ってしまうこともあったんです。「私ってすごい恥ずかしいことやってるのかな?」「そう捉えられて当たり前なのかな?」って。でも絶対に違いますよね。そういう気持ちに追い込まれていることにまず気づかなかった。

 生理の問題も同じ。「あの人すごく痛いのを我慢してる、だから私も我慢しなきゃ」とか。でもそれは違います。すべてにおいて疑問を持つことは大事なのかもしれないですね。

――「当たり前」に思って見すごしてること、まだまだいっぱいあるんでしょうね。

中川 そうですね。私たちは現役を引退してるから声をあげやすいんです。

潮田 そう! あげやすいんですよ。だから私たちが現役選手の代わりにいくらでも声をあげますよ。

中川 選手たちが声をあげるのは難しいこともある。でも引退するのを待っていても遅いので、OGと現役の選手がコミュニケーションを取っていくのも大事かもしれないですね。

潮田 「個」では難しいから団体で動くのもいいですよね。一人だと声をあげにくくても、「みんなこう思ってます!」と訴えるとパワーアップする。

中川 競技の垣根を越えて、女性アスリート全体で声を出していくのもいいですね。

 プライベートでも交流のあるお二人。現役時代、それぞれが真剣に競技に向き合ってきた中で直面した女性アスリートならではの苦悩があった。身体の変化への対処や、メディアでの取り上げ方への戸惑いなど、多くの女性アスリートが抱えている問題を、引退した今だから忌憚なく提言できると声をそろえた。

 世界中で女性を取り巻くさまざまな問題が改めて注目されるなか、日本のスポーツ界もまだまだ取り組むべきことが山積している。今、日本の女性アスリートのなかにも確かな変化の波は来ている。現役、OG、競技の垣根を乗り越えて声をあげる----。そんな未来も遠いものではないかもしれない。

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【Profile】
潮田玲子(しおた・れいこ)
1983年9月30日生まれ、福岡県出身。幼い頃からバドミントンを始め、中学3年時に全国中学生大会女子シングルス優勝。その後も数々のタイトルを獲得し、08年北京五輪では小椋久美子とペアを組んで女子ダブルスに出場しベスト8に進出した。その後、池田信太郎とペアを組み、12年のロンドン五輪にも出場。同年に引退を発表した。

中川真依(なかがわ・まい)
1987年4月7日生まれ、石川県出身。小学1年より飛び込みを始め、中学3年で世界ジュニア選手権に出場。高校1年からインターハイ、国体を2年連続で制覇し、高校2年から日本選手権で連覇を達成する。08年の北京五輪では決勝に進出し11位と健闘。12年のロンドン五輪にも出場し、16年に現役を引退した。