コロナ禍で実体経済はズタズタなのに日経平均株価は3万円を突破、ビットコインは1単位500万円超え。一体何が起こっているのか。「コロナ・バブル」はいつ崩壊するのか。専門家7人の分析を重ね合わせれば、あなたの資産を防衛する術が見えてくる――。

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 東証1部に上場する企業のうち、2月4日までに決算を発表した636社(金融を除く)についてSMBC日興証券が集計したところ、6割の384社が赤字か減益となったという。多くの企業が長引くコロナ禍に喘いでいることが分かる数字である。しかし、株式市場に目を転じると、そうした企業の悲愴感は全く反映されていないといっていいだろう。それどころか2月15日、日経平均株価は30年半ぶりに終値が3万円に到達。現下の経済状況が嘘のような活況を呈しているのである。

ビットコイン

 マネックス証券の松本大社長は今から約3年半前、2017年11月に「日経平均株価は3万円に達する」と“予言”していた。3万円に到達する時期は「19年3月末までに」としていたから、2年ほど遅れての“予言的中”である。

「去年の9月時点で見通しをアップデートして、今まで以上に日経平均が3万円に達するのは確実である、とHPで発表しました」

 松本社長はそう語る。

「コロナの影響もあって現在は超大規模な金融緩和が行われている。そうなると、ダムに水が入ると底にあった船が浮かぶように株は上がりやすくなる。その通りになったというだけで、我々のスタンスは3年半前から変わっていません」

企業業績は上向いていないのに……

 その「スタンス」とは、

「以前と比べて日本の企業の“性能”はかなり良くなってきており、稼ぐ力も、いわゆるコーポレートガバナンスも強化されている。だから日本の株価も今後はアメリカの株と同じように、上下動しながらも上がっていくだろう、と3年半前に言ったわけです。その考えは今も変わっていません」

 実体経済と株価の乖離を指摘する声があることについてはこう話す。

「80年代のバブルが崩壊した時、日経平均は4万円近くから1万円以下まで下落し、約4分の1になった。あの時、GDPはほとんど変化しなかった。そのことからも分かる通り、株価は実体経済よりは、企業の“性能”との連関の方が大きいと思います。例えば、海外で稼いでいる企業にとって日本の経済の状況はあまり関係ありませんから」

 では、今回の株高においては「バブル崩壊」の悪夢は起こらないのか。

「平成のバブル崩壊は、銀行などが金を貸し過ぎていて、当時の大蔵省が不動産融資の総量規制をしたことも一因となって起こったわけですが、今の状況はそれとは全然違います」

 と、松本社長。

「今回はコロナで実体経済が痛んでいるから大規模な金融緩和をやっている。そんな中、効果のあるワクチンが国民に行き届いたからといって、急に金融緩和をやめることはないはずです。今後、調整局面はあるでしょうが、バブルが弾けるというような現象は起こらないと思います」

 株価の今後については、

「いつまでにいくらと予想をするのはやめますが、今後も日本の株価は上下動しながらも上がっていくと思います」

機関投資家の“売る口実”

 第一生命経済研究所首席エコノミストの永濱利廣氏は現状をどう見ているのか。

「今の相場はある意味、新型コロナ感染症のせいで異常な事態になっていると言えます。景気の回復を先取りして株価が上がる、という一般の感覚では理解しにくいことが起こっています」

 と、永濱氏は言う。

「ここまで株価が上がっているのはコロナショックが原因で、その根底にあるのは世界の金融・財政政策です。世界的な金あまりの結果、行き場を失ったお金が実体経済ではなく、株式市場に向かっていると考えられます。金融緩和はコロナで傷ついた実体経済を立て直すために行われているものですが、ウイルスが無くならなければ経済は本格的に動きださない。消去法的にお金は金融市場に向かっています」

 今の株価が「バブル」かどうかについては、

「最近、情報番組などでも株について取り上げ始めているのを見ると、確かにちょっと過熱気味なのかな、とは感じます」

 とした上で、今後についてはこう占う。

「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)から逸脱している今の相場の将来を当てるのは相当難しいですが、あえて言えば、金融・財政政策が縮小する観測が出る前が近い将来でのピークと見ています。少なくとも今年の財政に比べて来年の財政が歳出減になるのは間違いないでしょう。マーケットの観測は半年先くらいを読むものなので、早ければ今年半ばくらいから来年の歳出減を見込んだ調整が始まってもおかしくないと考えています」

 おかしな話だが、経済を破壊しているコロナが収束すると、株価が下がり始めるということか。

 ちなみに東京五輪開催の可否が株式市場に与える影響は限定的だという。

「五輪による経済効果の8割以上はすでに出ており、中止によって問題になるのは、観光関連需要などの残り2割くらいです」(同)

 シグマ・キャピタル株式会社チーフエコノミストの田代秀敏氏も、現在の株式市場が実体経済とは関係なく動いていることを指摘した上で、

「機関投資家は、かつては10年先の企業の魅力を見極めて株を売買していましたが、今、彼らが気にしているのは金融緩和の恩恵が株に向かうのか国債に向かうのかということです」

 と、こう語る。

「現在、日本株はここまで値上がりしているので機関投資家は売りたいと考えているはずです。しかし、売った後にさらに値上がりすると彼らは責任を取らされることになるのでよい売り時を探っている。例えば、今アメリカを歴史的な大寒波が襲っていますが、こういう出来事が“売る口実”になる可能性もあります」

 経済アナリストの森永卓郎氏はこんな見方。

「2000年のITバブルの際は79カ月、08年のリーマンショック前の金融バブルは52カ月で崩壊しましたが、今回のバブルは1月末ですでに80カ月にわたっており、いつ崩壊してもおかしくない。その引き金となる可能性があるのがアメリカの長期金利。今、じわじわと上がってきており、これが2%になったら黄信号、3%になったら完全に赤信号です」

 実体経済からかけ離れた「株バブル」。それと同様の“過熱”ぶりを見せているのが、代表的な暗号資産のビットコインである。09年についた初価格は1単位あたり約0・07円だったのだが、この2月16日には1単位あたり5万ドル(約525万円)の大台を初めて超えた。1単位あたり1千万円超えも夢ではない、といった強気な声も聞こえてくるが、一体何が起こっているのか。

 実はビットコインの価格がバブルの様相を呈するのは今回が初めてではない。17年の初めには1単位12万円弱に過ぎなかったが、同年12月に一時、230万円を記録したのだ。ただし翌年には下落傾向となり、18年12月には30万円台に。それが再び上昇傾向となるのが19年春で、その後、乱高下を繰り返したものの、ここへきてついに500万円を超えたわけだ。

 先の田代氏が言う。

「歴史的なバブルごとに、3年間でどれだけ資産価格が上昇したかをドイツ銀行がまとめたデータがあります。1位は1637年にオランダでチューリップの球根が暴騰した『チューリップバブル』で2200%。2位は1720年、詐欺師ジョン・ローに起因してフランスで発生した『ミシシッピバブル』で1900%。そして3位が2019年から始まったビットコインバブルで988%です」

 なにゆえこれほど凄まじい上がり方をしているのか。

「17年のバブルと今回の違いは、前回は個人投資家が主役だったのに対して、今回は企業などが主体である点です。アメリカのマイクロストラテジーやペイパル、スクエアといったITの大企業が参入。2月8日にはイーロン・マスク氏率いるテスラ社がこれまでに15億ドル(約1600億円)分を購入していたことを明らかにしました」

 そう語る投資ライターの高城泰氏はビットコインの今後について、

「基本的にはまだ値上がりするものと見ています」

 と話す。確かに企業が大量購入すれば信頼が高まり、さらに期待が膨らむ。だが、麗澤大学経済学部教授の中島真志氏は、

「まるで相場操縦のようなテスラ社の一連の動きを見ていても、ビットコインの危うさを感じます」

 と、こう指摘する。

「ビットコインに根源的な価値があるのか、誰にも分かりません。結局、何に基づいていて上がっているかというと、“今後ビットコインは広がっていくだろう”といった思惑や信頼があるだけです。その思惑や信頼が崩れた時は怖い」

 実際、14年には470億円のビットコインが盗まれる「マウントゴックス事件」が起こり、価格は急落した。

「今回もバブル崩壊の危険性は拭い去れないと思います。ここ1年くらいは、機関投資家が入ってきたり、ファンドの準備ができてきたり、ずっと買い要因が続いている。つまり、皆が買っている状態ですが、それが一段落したところでどうなるのかという感じはします」(同)

ギャンブルそのもの

 慶応大学経済学部教授の竹森俊平氏も中島氏同様、現在のビットコインを巡るキーパーソンとしてイーロン・マスク氏の名をあげる。

「イーロン・マスクは自分がビットコインを褒めたたえればバーッと投資家が寄り付くことが分かっている。彼自身、ある程度ビットコインを買っておいて、自分の発言でビットコインの価格を上げる。彼ほど著名であれば、自身の発言一つで大儲けすることができるわけです。でも、それはそれ以上のものではない。それによってビットコインの価値が安定するわけではないのです」

 では、ビットコインとは“何物”なのか。

「ビットコインが世界の富や生産力を増やしているかといえばそんなことは全くない。儲ける人と損する人がいる。それだけの話。だから、ビットコインはギャンブルそのものなのです。株なら持っていれば配当が期待できる。土地なら、価格がいくら下がろうと土地自体は残る。ところが、ビットコインでは“これは上がるかもしれない”という皆の期待自体がその価値なわけです」(同)

 皆が「上がるぞ」との期待を持ち続ければ理論上、価格は上がっていくが、

「価格上昇で儲けを出して途中で逃げようという人もたくさんいるわけですから、当然、途中で価格が一気に下落することもある。そして、価格が下落した時、手元には何も残らない。もし日本円でそんなことが起これば、“何とかしてくれ”と国や日銀に泣きつくこともできますが、ビットコインではそれすら叶わないのです」

 竹森氏はそう指摘する。

「ビットコインの価格は、皆がそこにどれだけ投機をするかによって決まる。人が集まってきて価格が上がることもあれば、人が逃げて下がることもある。そういった基本的な不安定性は今後も変わらないし、ビットコインにはプロもいない。株の場合は各産業についての情報を持つプロがいますが、ビットコインは完全なギャンブル。理論的に考えて今が買いだ、といったことは言えないのです」

 知人がビットコインで大儲けしたから自分も……と考えている方は要注意。それはパチンコ店で、周囲の台がドル箱を積み上げているのを見て自分の台も出ると思い込み、狂ったように金を注ぎ込む客の行為と何ら変わりがないのだ。

「週刊新潮」2021年3月4日号 掲載