中国・丹東と北朝鮮の新義州を結ぶ、鴨緑江にかかる橋。北朝鮮にとって経済の動脈だ(写真・Bloomber)

2019年末に新型コロナウイルス感染者が中国で発生したことを受け、2020年1月下旬には中国との国境を固く閉ざした北朝鮮が、国境を開き始めたようだ。

北朝鮮との国境貿易が盛んな中国遼寧省丹東市に住むビジネス関係者によれば、「2021年3月1日から、中国側から北朝鮮への貿易が本格的に再開した」という。トラックによる大型コンテナの搬入が行われ、主に生活物資などが北朝鮮に入ったようだ。

中国税関によれば、2020年の中朝貿易の総額は5億3906万ドル(約576億円)。前年比80.7%の減少を記録し、この20年間で最低となるほど大幅に縮小していた。

1年超にわたる国境封鎖が経済を苦しめた

北朝鮮はコロナ禍への対応は世界でも早かった。前述のように、2020年1月下旬には国境閉鎖を宣言。貿易関係者など国外に駐在する北朝鮮国民をほとんど帰国させた。新型コロナウイルスに対しても「感染の疑い」という名目で隔離者が出たものの、現在でも感染者はいないと発表。国営メディアなどで医療関係者などが防疫作業に努めている映像などコロナ対策の徹底ぶりを内外に伝えてきた。

しかし、1年超の国境封鎖の影響が、経済面でじわりと影響を与えている。2021年1月に行われた朝鮮労働党第8回大会では、前回2016年の党大会で決定した「国家経済発展5カ年戦略」が失敗だったことを、最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)総書記自ら認めた。

一方、「われわれ(北朝鮮)式の社会主義建設の全面的な発展の道筋をつけるための戦略・戦術的方針が反映された」とし、新たな経済5カ年計画も策定された。しかし、マクロ・ミクロ面での具体的な目標は対外的に示されていない。

このような現状において、北朝鮮は経済政策に関して「自力更生」「自立自強」を何回も強調してきたものの、経済活動のすべてを国内資源で賄うことはできていない。コロナ禍には強力に対応したものの、やはり貿易減少によるモノ・外貨不足といった経済的痛手を受けたようだ。

2021年1月の第8回党大会では、金総書記が核兵器の小型・軽量化や超音速弾頭の開発、ICBM(大陸間弾道ミサイル)用固形燃料の開発など軍事面での具体的な開発目標を述べた。そのため、同大会では、核保有・超大国を目指す軍事面でのより踏み込んだ言及の有無に関心が集まっていた。

ところが、党大会の中で行われた「部門別協議会」での金総書記の発言は「軍事開発についての内容は対外的なもので、われわれは何よりも経済の改善に注力しなければならない」などという内容がほとんどだったという。

金総書記直属の経済機関を新設

北朝鮮内の国営企業などが国に上納する負担金の額は、2020年に前年比8割近く減少したという指摘もある。北朝鮮国内の工場などの生産量も、2019年比で2〜3割程度がやっとだったという声さえも聞こえてくる。

そのため、党大会を前後して、金総書記は主に中小企業レベルの機関の経営へのテコ入れを図るため、「経済貿易連合社」なる名称の機関を立ち上げ、直属にしたという。日頃の経営状況を把握・支援する一方で、金総書記が目指す不正・腐敗撲滅にも目を光らせる目的だとされている。同時に、上納金などの負担金も軽減する方針のようだ。

ただ、今回の国境の小さな開放は、あくまでも物資のみで、依然として規模は小さい。コロナ禍の影響を恐れ、人的交流の再開時期はまだ不透明だ。「中国側の防疫体制も厳しく、生活必需品を中心とした国境を挟んだ密貿易さえできない状況」(北朝鮮と取引のあるビジネスマン)が現状のようだ。