子育て中の夫婦においては、専業主婦や育児休業中の妻が1人で家事や子育てをこなし、妻に負担が集中してしまう例が多いようです。夫は仕事で帰宅時間が遅いことも多く、妻は家事や育児をしない夫に不満を覚え、不仲になったり、離婚に発展したりするケースもあるといわれます。事例は少ないものの、夫の側が1人での子育てに苦しむ事例もあるかもしれません。

 いわゆる「ワンオペ育児」に陥らないためには、どのような対策や心掛けが必要なのでしょうか。乳幼児から青年までの“育ち”を20年間指導し、親向けの子育てサポートに取り組む「子育ち研究家」の長岡真意子さんに聞きました。

物理的理由と心理的理由?

Q.夫婦のうち、どちらか一方に家事や育児の負担が偏る、いわゆる「ワンオペ育児」に陥ってしまうのはなぜでしょうか。

長岡さん「物理的な面と心理的な面で、それぞれ理由があると思います。物理的な面としては例えば、夫婦のうち、どちらか一方が残業などで多忙な日々が続き、その影響で休日もヘトヘトに疲れているような状況です。その場合、必然的に家族と過ごす時間を持つことが難しくなり、夫婦のうち、比較的時間に余裕のある人が1人で育児や家事を担うことになります。

また、心理的な面とは、夫婦のうち、どちらか一方が家事、育児に対する当事者意識が低い場合です。例えば、自身の母親がもっぱら家事や育児を担当していた環境に育ち、『主に女性が家事、育児をし、男性は手伝う程度』といった固定観念が染みついている場合もあるでしょう。その場合、そうした子ども時代に培われた思い込みを見直し、『育児は配偶者と共にするものだ』と意識を変えましょう。

また、物理的な面と心理的な面の両方の理由が組み合わさって、ワンオペ育児に拍車を掛けることもあります」

Q.では、ワンオペ育児を防ぐ上で有効な対策について教えてください。

長岡さん「特に共働き家庭の場合、『するべきこと』が山積みでパートナーと共に過ごす時間を確保することが難しいものです。しかし、短時間でも構いませんので、夫婦が話し合う時間を取りましょう。目安としては1日15分ほど、また、週1回はよりまとまった時間を取りたいものです。

夫婦で『日常生活でうまくいっていること、いっていないこと』について確認し、改善案やそのための具体的な計画について話し合いましょう。話し合いをより有意義なものにするためには、次のような工夫をするとよいでしょう。

(1)夫婦の『共有メモ』を作り、日常生活で気付いた点を書き留める
ホワイトボードなどを居間の壁や冷蔵庫に張り、普段の家事や育児について気付いたことを随時書き留めるようにします。例えば、『ひと回り大きな洗濯籠が必要』『休日は○○へ行きたい』など何でも構いません。そして、お互いが書き留めた内容を定期的な『話し合いの場』で議題に上げ、話し合いましょう。

(2)家事、育児の分担表を作る
家事と育児にはどんなことが必要かを書き出し、『手が空いている方がする』『○曜日は夫』など分担していきましょう。先述の『共有メモ』と同様、分担表は目につくところに張り、うまくいかないことは『共有メモ』に書き留め、修正案について話し合いましょう」

Q.新型コロナウイルスの影響で在宅勤務の人が増えています。在宅勤務はワンオペ育児を防ぐ上で効果的なのでしょうか。それとも、かえってワンオペ育児に陥りやすいのでしょうか。

長岡さん「在宅勤務のスケジュールにもよりますが、先述のように夫婦で定期的に話し合う時間を持ち、共有メモや家事、育児の分担表などを活用できれば、在宅勤務はワンオペ育児を防ぐ上で効果的です。また、在宅勤務は通勤時間がない分、通勤時間分を家事に充てることもできます。そうすれば、夫婦の間によりゆとりが生まれ、話し合いを充実させることも可能です。

ただし、夫婦のどちらか一方に家事、育児に対する当事者意識がない場合は、在宅勤務であろうとなかろうとワンオペ育児に陥りやすいです。しかも、在宅勤務では共に顔を突き合わせて過ごす時間が長くなる分、ワンオペ育児で我慢を強いられている側のイライラや怒りも増し、衝突することも多くなるでしょう」

Q.では、夫婦共に在宅勤務の場合、どのような形で家事や育児を分担したらよいのでしょうか。また、夫婦がお互いにコミュニケーションを取る上で意識すべきことがあれば教えてください。

長岡さん「夫婦共に在宅勤務で育児をする場合は、仕事のスケジュールについて日々連絡を取り合いながら、パートナーが仕事に没頭できる時間を交代で確保しつつ、家事、育児を分担していきたいものです。互いの仕事が忙しくて分担が難しい場合には、思い切って第三者(親族や友人など)に手伝いを頼むのもよいでしょう。

また、在宅勤務は同僚や上司の目がない分、ついだらだらとしてしまいがちです。可能であれば、仕事の合間に育児や家事の時間を挟むとメリハリがつき、仕事がはかどりますし、育児や家事の分担もでき一石二鳥となり得ます。

そして、在宅勤務時はお互いに『何か手伝うことはある?』という言葉を掛け合うようにしましょう。実際に手伝ってほしいことがある場合は助かりますし、特にない場合でも、パートナーからの思いやりを感じられるとうれしいものです。小まめに声を掛けてあげましょう」

Q.共働き家庭の中には、仕事と子育ての両立に悩む人も多いようです。時間が限られている中で、子どもとどのように接したらよいのでしょうか。

長岡さん「子どもと過ごす時間は『長さよりも質が大切』だと意識しましょう。子どもと過ごす時間が少ない場合、『○○を教えないと』『○○をできるようにしないと』といった思いを持つこともあるでしょう。それでも、そうした思いをひとまず横に置き、1日10分でも構いませんので子どもの言葉に耳を傾け、その時間は親子で楽しむことを心掛けてみましょう。

そうした時間を積み重ねることで、子どもと良好な関係を築くことができるようになり、子どもの問題行動も少なくなります。そうなれば、親も仕事に打ち込みやすくなります。また、子どもの病気などの緊急時には、夫婦以外で頼れる人がいると心強いです。そのためには日頃から、親族や友人、近所の人、ベビーシッター事業者などと積極的にコミュニケーションを図り、関係を深めるとよいでしょう」

Q.もし、育児でストレスがたまったり、不安や孤独を感じたりした場合、どのような方法で解消できるのでしょうか。

長岡さん「まずは『育児は1人でするものではない』ということを思い出しましょう。何千年も昔から続いてきた子育てという営みですが、かつては家族だけでなく、地域全体で行っていたものです。現在はインターネットもあるので、ネットを活用して、子育て世代の人同士で情報交換をするなど人間関係を広げてみるとよいでしょう。

また、一つ一つの動作をよりゆっくりと、心を込めてするのもおすすめです。例えば、食事中も口の中の感触、かむたびに変化する味、飲み込みたい衝動、喉を通る感覚などを丁寧に感じてみます。これは『マインドフルネス』というストレス低減法の一つですが、物事に取り組む自身の身体感覚を敏感に意識することで頭の中がすっきりし、不安やストレスが軽減されます」