灘校から東大に現役合格した高学歴芸人・あかもんの澤井俊幸さんは「子供の頃からまともに本を読んだことがなかった。でも勉強は得意で、とくに国語はいつも満点」という。なぜ本を読まなくても、読解力が身についたのか。都留文科大学特任教授の石田勝紀さんは「ある習慣さえあれば、読書をしなくても、読解力は高められる」という--。

※本稿は『プレジデントFamily 2021年冬号』の記事の一部を再編集したものです。

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■もっとも大切なのは「なぜ?」と考える習慣

読解力をつけるには本を読ませるのが一番!

こう思っている人が多いのではないだろうか。たしかに読書は読解力を養うのに有効には違いないが、本嫌いの子は永久に読解力を身に着けられないのかといえば、決してそんなことはない。

ここに、「読書をしなくても読解力がついた」という“生き証人”が存在する。お笑い芸人のあかもん澤井俊幸さんだ。

澤井さんは灘高から東大に現役合格した秀才なのだが……。

「子供の頃からまともに本を読んだことがありませんでした。だけど、勉強は得意で、とくに国語はいつも満点。中学受験では得点源でした」

いったいどうやって読解力をつけたかといえば、家族と楽しんだドラマやお笑い鑑賞、ゲームを通してだというから驚きだ。

さらに、学習塾で4000人以上の子供に指導した経験を持つ石田勝紀さんも「読解力をつけるのに、必ずしも読書が必要なわけではない」という。

「読解力をつけるために、もっとも大切なのは『なぜ?』と考える習慣なんです」

それでは読書しない子でも読解力がつく方法と理由を詳しく紹介していこう。お子さんにぴったりな方法が、この中にきっとあるハズだ。

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■【方法1】ハードルが高い読む作業を代行

普段は本を読まない子も、読み聞かせをしてもらうのは大好きだ。石田先生は、「まずは文章の内容を理解し、興味を持たせるために、読み聞かせをしましょう」と提案する。

というのも、子供にとって「文章を読む」という行為は非常にハードルが高いのだ。

「多くの親は子供が文字を覚えたら、自然と文章が読めるようになると思っていますが、それは間違いです。言語能力を習得する順番は、まず『聞く』から始まります。次が『話す』で、『読む』はそのあと。そして、聞くことと話すことは日常生活にありますが、読むことはあまりないので、子供にとって大変な作業なんです」

読み聞かせというと絵本が浮かぶが、小説や学校のお便り、ゲームのルールブックなど、必要があれば何でも読んでやるといいという。

写真=iStock.com/monzenmachi
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「僕の塾では、長文読解が苦手な子に問題文や設問を読み聞かせをしています。ひとりでは問題が解けない子も、読み聞かせすると正解できるようになります」

読み聞かせをする際には、質問を織り交ぜることがポイントだ。

「読み聞かせをしても、内容に興味を持てないと子供は聞き流してしまいます。そのために有効なのが質問を投げることなんです」

たとえば、小説を読み聞かせした時に、区切りのいいところで止めて「こういう時、あなたならどうする?」と質問を挟むのだ。

「質問を投げかけられると考えながら聞くようになります。こうして本に書かれている中身に興味を持つようになると、自分で読みだすようになります。そうなったら少しずつ読み聞かせする量を減らしていけばいいのです」

注意点としては、最初は正解がない質問をすることだという。

「正解がある質問だと、子供はテストされているように感じてしまいます。『あなたならどうする?』『どう思った?』と、自由に答えられる質問から始めていくと、いずれ、国語で問われるような主人公の心情についても考えられるようになります」

■【方法2】刑事ドラマで筋道を考えさせる

「刑事ドラマは、論理力を鍛える最強の教材」と言うのは、澤井さんだ。その理由は、犯人を考えるうえで論理展開を強く意識するようになるからだという。

「僕が大好きな推理ドラマ『古畑任三郎』で、こんなシーンがあるんです。夕方、捜査である人の家を訪ねた警部補の古畑が、飲んだばかりの栄養ドリンクの瓶を見つけて、その人が犯人の可能性が高いと思います。本来なら、夕方は仕事が終わってくつろぐ時間。それなのに栄養ドリンクを飲んでいた→警察が自分のところにくることがわかって、用意をしていた→事件の真相を知っているに違いない、と考えたからです」

古畑任三郎に限らず、事件が起こり、その背景を解き明かしていく刑事ドラマには筋道を考えるポイントが随所にある。推理を楽しむには、家族で観るといいという。

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「うちもそうでしたが、CMに入った途端、家族で○○が怪しいちゃうか、いや△△だ、なんて激論になるんです(笑)。なぜ、そう思うのか理由を言い合うと、自然と筋道を立てて考える力が磨かれます」

家族みんなで楽しめる番組を探してみよう。

■【方法3】ゲームで能動的に読む力をつける

親が目の敵にしがちなゲームも、読解力の向上につながる。石田さんはオンライン・ソーシャルゲームが、澤井さんはロールプレイングゲーム(RPG)がいいという。その理由は「プレイするために必要な情報を集める力が育つからだ」と口を揃える。

「オンライン・ソーシャルゲームでは、リアルな人を相手に対戦したり、仲間と協力します。うまくゲームを進めるためには、相手と会話をしたり相手のゲームの動きを観察したりして、自分から情報を集めていかないといけません」(石田さん)

「ドラゴンクエストなどのRPGでは、ゴールにたどりつくまでのヒントを登場人物からもらって進んでいきます。実はたくさんの文章を読まないと前に進めないのです。早くクリアしたいから、スピーディーに読むようになり、速読もできるようになりました」

さらに、得た情報のなかで大事なものを見つけ出す力も育つという。「RPGには選択肢の中から一つ選ぶ場面がよく出てくるんですが、こいつは絶対いらんわとか、こんなん選ぶやつおらんやろーという選択肢が混ぜてあります。これって、テストの四択問題の作りとまったく同じ。試験にも役立ちました」

写真=iStock.com/Yagi-Studio
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ちなみに、石田さんは親も「ゲームっておもしろいね」と理解を示すことは非常に大切だという。

「子供は親に自分の好きなものを肯定されると心が満たされます。『どんなところが好きなの?』『今日はゲームで何をしたの?』などを聞いてあげれば説明する力もつくので、ゲームを目の敵にするのではなく、子供の成長を促すツールとして考えてみるといいでしょう」

■【方法4】YouTubeで語彙を増やそう

石田さんは、子供が大好きなYouTubeも言葉の数を増やすのにいいという。

「ユーチューバーは子供たちにとって、憧れのお兄さん、お姉さん的存在。だからこそ、彼らの言葉を真剣に聞いています。子供が日常で使う言葉より、ちょっと難しい言葉を持っているのがいいんです。『なんでそんな言葉を知っているの?』と思ったら、YouTubeで聞いたということも多いです」

■【方法5】口ゲンカも議論できれば力になる

親子でしてしまう口ゲンカ。いいことなんて何もないように思うが、そうでもないというのは石田さん。

「口ゲンカでは相手の言っていることの矛盾を突いて揚げ足を取ったり、自分の意見を通すために論破しようとしたり、頭がフル稼働します。そういう意味では、建設的な口ゲンカはとても論理力を鍛えられます」

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たとえば、家のルールについて親子で話し合うことも、自分の意見をまとめたり、相手の意見を聞いて、妥協点を見つけたりすることも、良いトレーニングになるという。

「ゲームのやり方などのルール決めは、お互いに真剣に話し合えるので、いい題材になると思います」

■【方法6】いろんなものを比べさせよう

食べ比べも分析的に考える力を鍛えるというのは石田さんだ。

「スイーツ好きな子だったとしたら、たとえば『いま食べているパフェと、先週食べたパフェのどっちがおいしい?』『具材はどう違う?』などと聞いてみるのです。すると子供は、どこが違うかを考え始めます」

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この違いに気づく力こそ、読解力なのだという。

「国語の説明文ではAとBはどう違うのかが問われ、物語文だったら、主人公の気持ちが前と後でどう変化したのか問われます。いずれも『違い』がわかることが大切です」(石田さん)

子供が興味を持っている分野を批評させるのもいい。たとえば、「鬼滅の刃」のファンならキャラクターそれぞれの魅力の違い、電車好きな子なら車両のデザインの美しさ、昆虫好きならセミの生態を質問してみよう。分析力や観察力、表現力が鍛えられそうだ。

■【方法7】マンガでイメージ力を鍛える

「長文読解の出来は、文章を読んだ時、どれだけ情景が浮かぶかで変わります。たとえば、神社への参拝の様子が描かれていたら、お賽銭箱の前で手を合わせる人の姿が浮かぶかどうか。主人公の行動を四択で聞くような問題では、情景が浮かべば解けるものが多いです」と澤井さん。

そのために有効なのが、マンガだ。

「文章と絵がセットなので、言葉とイメージのストックが増えます」

写真=iStock.com/ChuangTzuDreaming
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歴史や戦争などの難しいテーマも、マンガで親しんでいれば、情景が浮かびやすくなる。さらに澤井さんはおもしろい方法を提案してくれた。

「子供の頃、母親の美容室に付き合うのが退屈だろうと、マンガを買ってくれたんです。それがなぜか、『ドラゴンボール』4巻。3巻より前を読んだことがなかったので前提が分からない(笑)。だからこれまでの話を想像しながら読んだのですが、これって問題文が抜粋して出される国語の読解問題と同じなんですよね。想像力を強化したいなら、マンガは途中から与えてみてましょう」

■【方法8】お笑いで文脈をつかむ力を鍛える

最後に絶対に外せないのが、「お笑いです」と澤井さん。

『プレジデントFamily 2021年冬号』(プレジデント社)

「まず、語彙力がつきます。芸人は言葉ひとつひとつにこだわっているので、同じシチュエーションでもさまざまな表現を駆使しているからです」

たとえば「怖かった」という表現を、「肝っ玉を冷やした」「背筋が凍る」「冷や汗ダラダラやったでー」などと言い換えるのを聞いているだけで語彙は増えていく。

さらに頻繁に出てくるダジャレも、文脈を理解したうえで、そこにそぐわない「言葉の遊び」を理解しないと笑えない。実は高度な読解力が求められる作業なのだ。

「父は関西人なので、絵本の読み聞かせでもいつもダジャレを挟んできて、それでも鍛えられたと思います」

たとえば、桃太郎はこうなる。

「お婆さんは川に洗濯に、お爺さんは山にシバカレに行きました――」

おあとがよろしいようで。

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山田 清機(やまだ・せいき)
ノンフィクションライター
1963年、富山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』 (朝日文庫)、『東京湾岸畸人伝』(朝日新聞出版)などがある。
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(ノンフィクションライター 山田 清機)