病院や診療所で処方箋を発行してもらった「処方薬」について、「全部飲み終わる前に症状が治まった。捨ててもいいの?」と残った薬の扱いに迷った経験はないでしょうか。例えば、解熱剤や鎮痛剤については、症状が重いときだけ使用するよう医師から指示を受けることが多いため、薬が余る人もいるようです。余った処方薬は一定期間保管して使い回してもいいのでしょうか。それとも、不要になった段階ですぐに捨てた方がいいのでしょうか。

 処方薬を服用するときの注意点について、みなと元町内科クリニック(神戸市中央区)の笠木伸平院長に聞きました。

処方薬に「使用期限」はある?

Q.そもそも、処方薬は症状が治まっても最後まで飲むべきなのでしょうか。それとも、症状が治まった段階で服用をやめるべきなのでしょうか。

笠木さん「医師の指示によって異なります。そもそも、処方薬は症状の原因となる病気を治療するために出される場合と、症状が出たとき、症状を抑えるためだけに出される場合があります。前者の場合、症状が治まっても医師の指示通りに飲み切らないといけない場合がほとんどで、後者の場合は、症状が出たときにのみ服用し、症状が治まった段階で服用をやめてもよい場合が多いです。服用をやめるタイミングはあらかじめ、医師に確認する必要があります。

いずれにしても、薬を処方してもらうときは『最後まで飲み切らなければいけないのか』『症状が治まった段階で服用をやめてもいいのか』を必ず医師に確認しましょう」

Q.処方薬にも「使用期限」があるのでしょうか。

笠木さん「薬には使用期限があり、処方薬の場合は薬の箱に使用期限が書かれています。しかし、薬局などでは、薬は処方箋袋に入れて渡されることが多いため、患者は使用期限を確認することができません。薬の包装シートや処方箋袋には、使用期限は書かれていないことが多いです。

使用期限の目安ですが、液体の内服薬は1週間前後、点眼薬や点鼻薬は1カ月から2カ月、粉末や顆粒(かりゅう)タイプの薬、錠剤、カプセル、軟こう、座薬などはおよそ半年から1年です。なお、薬局では、数種類の薬を1つの袋にまとめた状態で患者に渡すこともあります。その場合、袋に入れる過程で薬が湿気にさらされるため、保管期間は先述した錠剤なども約3カ月になります。

ただし、処方薬はそのときの症状や状態を医師が診断して、期間を決めて処方されるため、先述した治療目的の薬であれば、余りがないように飲むのが原則です」

Q.解熱剤や鎮痛剤は症状がひどいときだけ使用するよう、医師から指示を受けることが多いため、薬が余ることがあります。これらの薬はある程度の期間保管し、その間に似たような症状があれば再度服用してもいいのでしょうか。それとも、症状が治まった時点ですぐに廃棄した方がいいのでしょうか。

笠木さん「処方されてから1年以内であれば、服用できないわけではありません。しかし、1年の間に体の機能は変化するため、薬を飲み始めた頃と、例えば、その1年後では、同じ発熱や痛みの症状であっても症状の原因や状況が異なる場合があります。そのため、薬の適切な量や服用方法も飲み始めの頃と1年後で変わる可能性があります。従って、廃棄した方が望ましいです」

Q.処方薬を廃棄する場合、家庭ごみとして捨ててもよいのでしょうか。それとも、薬局に処分を依頼した方がいいのでしょうか。

笠木さん「少量であれば、家庭で燃えるごみとして捨てても構いませんが、捨てる量が多いのであれば、薬局に処分を依頼した方がよいでしょう。少量を家庭ごみとして捨てる場合、錠剤や顆粒は紙に包んでから、液体は紙や布に吸収させてから捨ててください」

Q.服用中の処方薬を保管するときの注意点について教えてください。

笠木さん「気温・湿度の高い場所や日光が当たりやすい場所で保管すると、品質が劣化しやすいので注意しましょう。劣化した場合、効能や安定性が変化している可能性があります。また、成分によっては劣化によって毒性を持つものもあります。湿度が高い場所で薬を保管すると、薬にかびが生えることもあります。

また、ビタミンB2などは光に弱いので、直射日光で効能が低下します。一部の抗生剤や痛み止めは劣化することで薬の副作用が増したり、病気の原因になったりするタイプのものもあります」

Q.ちなみに、政府は以前から、「残薬を減らす」ことを呼び掛けているようです。なぜでしょうか。

笠木さん「薬剤費を含む医療費は増加傾向にあり、医療費の一部は国民が負担しています。『残薬を減らす』取り組みは不必要な財政負担を減らし、限られた医療費を有効活用するために重要です。残薬を減らすことを『薬を正しく服用すること』と捉えれば、皆さんの健康維持にもつながります」