まるで歌舞伎町!?

 近ごろ「秋葉原で風俗店が目立つ」という指摘が、SNSなどで拡散しているのをご存知だろうか。「まるで歌舞伎町のようだ」という投稿もあれば、「言うほど風俗店はない」という反論も散見され、ちょっとした論争の趣もある。

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【写真】”コンカフェ”の客引き女性など、秋葉原の風景

 Twitterで「秋葉原 風俗」と検索してみると、《夕方からは最早風俗街と大差ない》、《変な風俗店が乱立》、《路地裏のビラメイドの店はほぼ風俗》といったツイートが表示される。

“ほぼ全ての店舗を網羅”と謳う専門サイトを閲覧してみると、2月22日現在の登録数は、池袋なら709店、歌舞伎町は589店、渋谷は480店という具合だ。

“大事件”と受け止められた無料案内所

 秋葉原は236店で、吉原の217店より多い。東京都の東側という観点に立つと、鶯谷(396店)に続いて2番目の店舗数となり、錦糸町(229店)と上野(226店)を僅かながら上回っていることが分かる。

 果たして真相はどうなのか。秋葉原に詳しいジャーナリストの河嶌太郎氏に聞くと、「少なくとも20年前はほとんどありませんでした」と指摘する。すぐ近くの上野・御徒町が風俗街の役割を果たしているからだ。

「古い光景を知る世代ほど、最近の秋葉原は風俗街化が進んでいるとショックを受けるはずです。実際に歩くと、往時の電気街を彷彿とさせる一角もあります。しかし特に『裏通り』と呼ばれる一角を歩けば、次々とオタク・マニア向けの店舗が閉店し、そこに風俗店が入居していることが分かると思います」

“コンカフェ”

 2月21日の日曜、カメラマンが昼間の秋葉原を歩いてみた。緊急事態宣言は発令されているが、人通りの賑やかな通りもあった。その一方で、写真の通り閑散としたエリアもあった。

 去年の8月に閉店が大きな話題になった「ツクモ秋葉原駅前店」は、未だに空き家のままだ。JR秋葉原駅の目の前にあるため相当に目立つ。こちらも写真をご覧いただきたい。

 路上ではコンセプトカフェ=コンカフェの女性が客引きをしていた。こちらも後ろ姿を写真に収めた。

 この「コンセプトカフェ」だが、初耳という向きもあるだろう。基本はメイドカフェと同じだが、接客する女性はメイド姿ではない。

 店によって「声優」や「電車の車掌」、「忍者」といった“コンセプト”を持ち、それに合わせたコスプレで女性が接客する。そのために「コンカフェ」と呼ばれているようだ。

 そして風俗だが、秋葉原は“オタクの街”というイメージがあるためか、いわゆる“フェチズム”に重きを置いたものが目立つ。女子高生やコスプレといった要素と風俗を組みあわせた店舗が少なくない。

キッチンジローの衝撃

 特に昨年末には、秋葉原の風俗街化を印象づける“エポックメイキング”な出来事があったという。

「東京に『キッチンジロー』というチェーンの洋食レストランがあります。秋葉原の『外神田店』は街の名物だったのですが、昨年9月末に閉店してしまったのです。かつての秋葉原は飲食店が少なく、お気に入りのショップを巡ってお腹が空くと、キッチンジローの外神田店に行くのが定番のコースでした」(同・河嶌氏)

 閉店したキッチンジローの代わりに入居したのが、渋谷や歌舞伎町、池袋などの風俗街で散見される「無料相談所」だった。これが波紋を呼んだのだ。こちらも公道上から写真を撮影した。記事冒頭の写真がそれだ。

「30代の私も驚きましたが、秋葉原が“オタクの街”と呼ばれる前、電気街やパソコン街だった頃の記憶を持つ方々にとっては相当な衝撃だったようです。あっという間にSNSで拡散し、アキバの“風俗街化”を象徴する事件だったと思います」(同・河嶌氏)

 河嶌氏は「秋葉原の風俗街化」の原因として、「オタクがネット通販をフル活用することになったため」と指摘する。

「秋葉原は戦後の闇市から始まり、一般大衆にとっては一貫して“家電の街”でした。更に時代ごとに『鉱石ラジオの部品を買った街』、『半導体やコンデンサーが売られていた街』というオタク心をくすぐる要素が常にありました」

メイドカフェの時代

 90年代の秋葉原は電脳街=パソコン関連の商品が集積する街だった。ところがウィンドウズ95の大ヒットにより、パソコンはオタクが所有するものではなく、会社員が普通に使うものになった。

「2000年代になると、『電車男』の大ヒットなどもあり、秋葉原はアニメの街として脚光を浴びるようになります。マスコミは美少女アニメやゲームを面白おかしく取り上げ、その頂点に君臨したのがメイドカフェでした。その裏で00年代後半になると、ネット通販でもパソコン本体や関連部品が安く購入できるようになって、秋葉原で電気街の要素が減少していきます。」(同・河嶌氏)

 そして2010年頃から、秋葉原では水面下で風俗街化が進んでいったという。背景にあるのがネット通販の伸長だ。

「パソコン用部品だけでなく、マンガやアニメ、ゲームといった分野で、オタクのコレクターズアイテムも、10年代からネット通販で幅広く手に入るようになったのです。特に近年では『メルカリ』をはじめとするフリマサイトの隆盛も大きいです。これで以前のように1つの商品を求めて何店舗も巡る必要がなくなりました。コレクターズアイテムなどはネットを通じた個人間取引のほうが安上がりな場合が大半なので、アキバのグッズショップが苦境に立たされている一因ではありますね」(同・河嶌氏)

JKリフレ摘発

 オタクがネット通販でアイテムを購入することが増えるにつれ、特に「裏通り」と呼ばれる秋葉原の一角を中心とした小規模小売店が撤退するようになる。そのニッチを埋めるように進出してきたのが、性的サービスを匂わせるメイドカフェや、女性を指名できる耳かき店などだ。

 非合法の領域では「JKリフレ」が注目を集めた。女子高生による性的サービスが秋葉原を舞台に展開されたのだ。

 読売新聞は2013年5月、「[追う]女子高生の男性客サービス『有害』 JKリフレを摘発」の記事を掲載した。(末尾:註1)

 記事の冒頭は、次のような描写から始まる。

《大勢の人が行き交う東京・秋葉原の電器店街の路上で4月中旬、高校の制服を着た少女(17)が、スーツ姿の男性らに「JK、30分4000円、60分7000円」と書かれたチラシを配っていた》

 警視庁は風営法違反の容疑で取り締まりを検討するが、表向きは《添い寝やマッサージだけ》だったため、断念したという。

止まらない“風俗街化”

 最終的に警視庁は労働基準法違反に容疑を変更し、一斉捜索を行った。

《秋葉原などの17店を労基法違反(危険有害業務の就業制限など)の疑いで一斉捜索し、2月にはこのうち4店の経営者と店長を同法違反容疑で逮捕。4月には、女子高生らにも問題があると判断し、それまでの「保護」から「補導」に切り替えた》

 更に15年12月になると、産経新聞が《秋葉原や神田では風俗店への強引な客引きに関する通報が増加し、同庁(編集部註:警視庁)が摘発を繰り返した》と報じるまでになった。(末尾:註2)

 このような流れから、徐々に秋葉原の“風俗街化”が進んでいった。その方向性を一気に拡大、振興させたのが新型コロナウイルスの感染拡大だ。

「コロナの影響で最初に外国人観光客が消え、秋葉原の免税店の中には閉店するところもあらわれました。次が日本人の旅行自粛です。コミケをはじめとするイベントの中止も無視できないでしょう。オタク向けの実店舗にとって致命的だったと思います。上京してコミケに参加し、ついでに秋葉原に寄って帰るという顧客層が消滅してしまいました」(同・河嶌氏)

秋葉原消滅!?

 こうしてトレーディングカードやフィギュアといったコアなマニア層に支えられた小店舗が閉店に追い込まれ、そこに風俗店が取って替わる──冒頭でご紹介した光景が展開されたというわけだ。

「もちろん、正確な店舗数がデータとして記録されているわけではありません。あくまでも私の皮膚感覚ですが、10年前と比べると、今の風俗店の店舗数は、少なくとも2〜3倍以上に増えているのではないでしょうか」(同・河嶌氏)

 今後も秋葉原では風俗店が増え、ガラの悪い街になっていくのだろうか。だが、意外にそうならない可能性もあるという。

「注目すべきは警視庁の動きです。JR秋葉原駅の周辺は『外神田・神田佐久間町』という地名で、千代田区です。こんな都心に風俗街が広がっているのですから、警視庁としては看過できないでしょう。これまでに何度も摘発が行われていますが、今後、大規模な浄化作戦が展開されてもおかしくなりません」(警視庁に詳しい記者)

 風俗店が消えることを歓迎する人はいるだろう。だが、免税店も電気店もオタク向けのショップも存続が厳しい状況になっている。全ての店舗が消えてシャッター通りになってしまえば、“アキバ”らしさも雲散霧消してしまう。

秋葉原の“お手本”

 実際、秋葉原が再開発されるごとに高層オフィスビルやタワーマンションに生まれ変わるという現象は20年以上続いている。アキバのオフィス街化も進んでいるのだ。

 だが河嶌氏は「逆風が吹いているのは確かですが、そう簡単に秋葉原という“ブランド”は消滅しないと思います」と言う。

「既にオタク向けのショップをはじめ、『秋葉原に店を構える』ことが意味をなすようになってきています。アキバに店を構えるから純粋に儲かるという視点よりも、ここに店を構えることでオタク層に訴求するブランドを獲得できる。そんな意味合いのほうが強くなってきているのではないでしょうか」

 秋葉原の今後を考える際、参考になるのは神田神保町の古本街だという。

「古本の世界もリアル書店よりネット書店の方が利便性は高いですが、やはり実物を手に取れる情報に勝るものはありません。この需要や実店舗の存在価値は電化製品やグッズにもあると考えています(同・河嶌氏)

 秋葉原はゲームセンターの街としても知られている。特にクレーンゲームは機種が充実しており、日本トップクラスの品揃えだという。これを目当てに、わざわざ秋葉原に足を運ぶファンもいるという。

 まだまだ秋葉原は“底力”を持っているのだろう。一方の神保町もコロナ禍に苦しんでいる。まずは新型コロナの感染拡大を止めることが先決のようだ。

註1:引用に際しては、全角数字を半角数字にするなど、デイリー新潮の表記法に合わせた。

註2:「【年の瀬記者ノート】繁華街に飲まれるな 摘発進むも最後は自戒」(産経新聞:15年12月27日東京朝刊)

デイリー新潮取材班

2021年2月26日 掲載