◆ 最終回:夢の続き

 開幕まで約1カ月。楽天・田中将大投手の調整もいよいよ本番モードに突入していく。

 「2666日ぶりの国内マウンド」と騒がれた20日の練習試合(対日本ハム)では、2回を被安打4、3失点の内容に終わったが、メジャーではこの時期に対外試合で登板することはない。このクラスの投手になれば、打者との感覚や日米のマウンド、ボールの違いなど感触をチェックできれば十分だ。

 田中に加えて即戦力ルーキーの早川隆久投手も加入した楽天には、打倒ソフトバンクの一番手と評価する声が多い。すでに報道陣は例年以上の多さを数えているが、各球団のスコアラー陣もまた、チェックに余念がない。田中と早川を合わせれば25勝は計算できると分析する評論家もいる。特に田中は優勝に直結する大黒柱。どれだけ投球内容を読み解いて、攻略ポイントを見つけ出すかが今後1カ月の重大任務となってくる。

◆ 早くも注目される来オフの動向

 田中が8年ぶりの日本球界復帰を果たしたことで、メジャーリーグのスカウトたちの行動も注目されるところだ。

 1月末に行われた復帰会見。田中は楽天に戻ったことを「決して腰掛けではなく、本気で日本一を取りにいく」としたうえで、もうひとつの本音も明らかにしている。

 「2年契約になっているが、1年終わった段階で球団とお話しさせていただく。(中略)まだアメリカでやり残したことがある」。

 昨オフのFAによる各球団との交渉。田中の希望はヤンキース残留とワールドシリーズ制覇だったと言われる。しかし、折からのコロナ禍による緊縮財政と田中側が希望する年俸額が折り合わずに破談。他球団から好条件のオファーがあったにも関わらず、日本復帰を決意した。

 “夢の続き”は当然、楽天を日本一に押し上げて、その後のヤンキース復帰が理想の形となる。だが、田中を取り巻く環境は楽観視できるものではない。ヤンキースの地元であるニューヨークポスト紙のK・デビットオフ記者が25日付スポーツニッポン紙上に寄せたレポートが興味深い。

 田中の7年間に及ぶヤンキースでのキャリアを「Aランク」と評価しながらも、再契約に至らなかった背景には、球団のアナリティックス(分析)部門からの赤信号報告があったからだと指摘。具体的には、打球角度やバットの芯に当てられる確率などが以前より悪化。それ故に田中側が要求する年俸額に値しないと判断されたという。

 さらにポストシーズンでは無類の勝負強さを発揮してきた田中だが、昨年は2試合で11失点の乱調、これも大きな減点材料になったと記している。

◆ 2021年の主役

 とはいえ、名門ヤンキースでの7年間で78勝をマークした実力に加え、本人が今オフ以降のメジャー復帰を視野に入れているのだから、各球団が指をくわえて待つわけがない。すでに某球団の極東地区担当スカウトは「もちろん、田中のピッチングに注目しながらチェックを続けていく」と、密着マーク方針を明かす。

 近年、メジャー各球団では中南米やアジア地区に専属スカウトを置くことは珍しくない。そればかりか、本国から球団幹部やスカウト部長らも来日して複数で確認。データ会社と契約すれば投手ならボールの回転数やコース別被打率などもチェックが可能だ。

 まだ先の話とはいえ、今年のオフには田中だけでなく、巨人・菅野智之投手のメジャー再挑戦の動向が注目される。さらに米国では「今後、メジャーで活躍が期待できる選手」として千賀滉大(ソフトバンク)、鈴木誠也(広島)両選手の名前まで上がっている。

 他方、国内では田中復帰による経済効果は約57億円に上ると、関大・宮本勝浩名誉教授の試算が発表された。コロナ禍で入場収入などが半減しても39億円超が弾き出されるという。こんな“打ち出の小槌”なら、楽天側も容易に手放したくはないだろう。

 早くも日米間で火花を散らしそうな田中争奪戦。グラウンドの内外で、この男が今年の主役であるとの意見に異存はない。文=荒川和夫(あらかわ・かずお)