「全豪オープン」決勝で第22シードのジェニファー・ブレイディ(アメリカ)を6-4、6-3のストレートで下し、自身4度目のグランドスラム優勝を飾った大坂なおみ(日本/日清食品)。彼女の試合後の記者会見の内容は以下の通り。

Q:優勝おめでとうございます。今この瞬間の感情や気分がどんなものかを教えてださい。


「(祝杯として提供されたシャンパンを)一口飲んで、ちょっとおかしな気分よ(笑)。今は、本当に幸せな気持ち。この瞬間のために、シーズン前の期間を全部使って取り組んできたんだと思うわ。でもね、最後の瞬間になると本当に奇妙で、もしものことが気になって震え始めるのよ。だから今この瞬間は、もしもの世界を生きているような感じね」


Q:獲得したグランドスラムのタイトルは全てハードコートでのものです。ハードコート以外での最初のタイトルは何になるでしょう?クレーでしょうか、芝でしょうか?


「クレーだといいわね。そっちの方が先にあるから。クレーや芝で心地良く感じられるようにならないといけないと思っているわ。これが鍵だと思うんだけど、私はジュニアの大会でプレーしなかったから、芝でのプレーは全然経験していないのよ。 だから正直言って、クレーでの方が分があると思う。クレーでのプレーは全然悪くなかったから。ただ、もっと慣れが必要ね」


Q:昨年の「全米オープン」でのブレイディとの準決勝は最も印象深いハイレベルな試合の一つだったと仰っていましたが、今夜の試合はいかがでしたか?


「今夜の試合は心理戦の部分が大きかった気がする。私たちは二人とも緊張していたわ。もちろん彼女の気持ちはわからないけど、私自身は極端に緊張していたの。実は試合前、たぶんうまくプレーできないだろうって自分に言い聞かせていたの。完璧なプレーをするという重圧を自分に課すんじゃなく、とにかくコートに出ていって一つひとつのポイントに全力を尽くすべきだってね。もちろん結果がどうなるかはわからないけど、懸命に努力したのなら、結果は受け入れられるわ」


Q:どうしてそんなに緊張していたのですか?グランドスラムの決勝が初めてなのは対戦相手の方でしたが。


「わからないわ、私の神経に聞いてみて(笑)。なんであんなに緊張していたのかしらね。たぶん、グランドスラムで優勝したいからじゃないかな。つまり、準優勝選手になりたいと思いながら決勝に臨むことはないでしょ。私自身は、グランドスラムで試合に出る機会はいつだって、グランドスラムで優勝する機会だと感じるの。だからプレッシャーを自分にかけすぎてしまったのかもね。でも実際のところ、それは今のところ私に味方してくれているわね」


Q:今回の優勝で、世界ランキング1位との差がまた少し縮まりました。グランドスラムで成し遂げてきた成功に加えて、このことはどのくらいモチベーションになっていますか?


「正直に言って、ランキングのことは全然考えないの。私は選手の中で一番多く試合に出るわけじゃない。出場する大会全てでいい結果を出したいだけ。それが私の目標なの。今年は安定した成績を残したい。これまでみたいにシーズン中盤の6月や7月にいきなり大きく成績を落とすことがないようにしたいの。ランキングのことはあまり考えすぎないようにしたい。いいプレーができればついてくるものだし、自分にもそう言い聞かせているわ」


Q:数週間前、セレナ・ウイリアムズが現役を続ける限り彼女がテニスの顔だと仰っていましたね。今回の優勝、あるいは金曜の彼女との準決勝での勝利で、それにわずかでも変化はあったと思いますか?


「いいえ、全然(と言って笑顔に)」


Q:これまでに優勝した3つのグランドスラムでは、決勝の相手は経験豊富なグランドスラム優勝経験者でした。今夜のブレイディとの試合は、これまでとは違った関係性にあると意識していましたか?あなたの方が経験があり、優勝候補と目されていたと思います。こういった要素は考慮しましたか?そのことで違いを感じましたか?


「ええ、そのことは今朝考えていたわ。グランドスラム初優勝をかけた試合に臨むという彼女の立場は、私も以前経験したものよ。もちろんそれに伴う緊張も知っている。でもその後、反対のことについて考えたの。私はグランドスラムの決勝に出場したことがあるから、より良いプレーをすると期待されているのかなって。だから、実はそのせいでとても緊張したの。だからそのことについては意識していたかな」


Q:そういった緊張にはどう対処するのですか?緊張とどのように折り合いをつけ、自分が望むプレーをいかに実現するのでしょう?


「あら、どうやって緊張と折り合いをつけるかって?私はコートに出ていく前、いつも叫びたい衝動を抑えているのよ(笑)。その質問への今の私の答えはたぶん、チームと話すことじゃないかな。試合の1時間くらい前に、何を達成したいか、私の目標はどんなことか、どんな気分でコートを後にしたいかについて話すの」


Q:コート内外を問わず、まだ達成していない最大の目標は何ですか?


「これから達成したい一番大きなことは、本当におかしく聞こえると思うけど、小さい頃に私のことを大好きな選手だと言っていた少女が成長した暁に対戦できるくらい、長く選手を続けたいってことかな。


それが私に起こり得る最高に素敵なことだと思う。私自身、大好きな選手の試合を見ている気持ちはよくわかるわ。残念ながら私は(憧れの)リー・ナとは対戦できなかったけど、スポーツってそうやって前に進んでいくんじゃないかな」


Q:昨年の「全米オープン」優勝は、あなたが身につけていた名前入りのマスクのおかげで「Black Lives Matter」運動と強く結びついて記憶されています。今大会の優勝と結びつけて伝えたいメッセージはありますか?


「うーん。すごく親切な質問ね。聞いてくれてありがとう。正直に言うと、ニューヨークでああいうことになって、私はすごく怯えていたの。それまではなかった、スポーツとは無縁の注目にさらされるようになった気がしたから。


そのせいで、全然知らない話題について突然あれこれ質問されるようになったように思う。私はその話題について知識がある時しか話したいと思わないし、少なくともこれからは話す対象についてほんの少しでも知らないと話したくないの。


この大会には、純粋にテニスのことだけを考えながら臨んだわ」


Q:第1セットでブレイディの返球がネットにかかった場面では、彼女はネットに近く、かなり簡単にポイントを取れそうに思えましたが、そこでセットを落としました。これがターニングポイントだという考えが頭をよぎりましたか?あなたはこの後4ゲームを連取しましたから、どうやら優勝は自分のものだとちらとでも思ったのでは?


「とても彼女らしくないショットだと思ったわ。あれを返球しそこなうなんて。だから私はあの時、彼女はすごく緊張しているか、すごくプレッシャーを感じているかのどちらかだろうと考え始めたの。この機に乗じて、できる限り多くのゲームを奪おうってね。なんというか、ペースという意味でね。なぜって、第1セットを落とすと疑念が頭をもたげ始めると思うのよね。だからそのタイミングでアクセルを踏むべき。それこそが、私が第2セットでしようとしていたことなの。


でも、この試合はもらったとか、このセットはもらったとかは全然思わなかった。彼女がどれほどいい選手かは知っているから」


Q:初めてグランドスラムで優勝してから2年半ほどが経ちました。当時と比べて、コート内外で自分自身について得た最も大きな学びは何でしょう?


「コート内外で学んだことは、自分に確信が持てなくても構わないということね。以前は強くあろうとか、そういうことを自分にいつも強いていた。今は、もし気持ちが沈んだとしても、それは構わないんだって思えるの。


でも、なんていうか自分自身の内面に潜って、何らかの形で物事を理解しなきゃいけないわよね。去年の“全米オープン”前の隔離期間中にやっていたのがそれなの。ここでの隔離期間中もそうしていたわ」


Q:緊張した時には家族であるチームと話し合うそうですね。どんなことをするのですか?


「もちろんチームと話をするわ。彼らこそが私と一緒に過ごしている人たちで、私がどんな風に練習しているかを見ているし、私がいろんなことにどう反応するかも見ていると思う。


それに家族にも電話をするわ、母にね。母は面白いの。私が試合に出る度に、もっと球をコート内に返せれば良かったのにって言うの。彼女にとって試合に勝つための解決策は、球をコート内に返すことなの。スピードとかそんなことは問題じゃないのよ(笑顔)。でも、母はいつも私を笑わせてくれるわ。姉もね。家族に電話するのはいいものよ」


Q:お母さんは今夜の試合をどう思っているでしょう?


「私が勝ったことを単純に喜んでいるんじゃないかな。彼女を喜ばせるのは大変なのよ(笑)」


Q:4つのトロフィーを獲得しました。「全豪オープン」で2つ、「全米オープン」で2つです。並べて飾りますか?どこに保管し、どのくらいの頻度でそれらを眺めますか?


「2018年の“全米オープン”のトロフィーは両親の家にあるわ。ケースに入れた状態で、母が部屋の隅に保管しているの。正直、あの家にトロフィーがあるなんて誰も気づかないと思うわ。


他の2つはLAの私の家にあるわ。実はリビングに置いているの。私にとっては本当にいい刺激になるから。シーズン前は前回の“全豪オープン”のトロフィーをよく見ていたわ。そうすると、もう1つトロフィーを獲るために頑張ろうっていう気分になれるの」


Q:LAに「全米オープン」と「全豪オープン」のトロフィーが1つずつですね?


(無言でうなずく)


Q:グランドスラムの決勝では4勝0敗というとても珍しい道を歩み始めています。自分のことを大舞台に強い選手だと思いますか?大一番でこのような成功を収めるだろうと自分で気づいた試合や瞬間はありますか?これは生まれついてのものでしょうか、それともアスリートとして、テニス選手として学び発達させてきたものでしょうか?


「生まれつきかはわからないけど、子どもの頃はあまり大会に出場しなかったから、誰かが注目してくれる時はいつだってその機会を生かしたいと思っていた。その方が楽しかったんだと思う。それで、観衆にいて欲しいと思ったり、多くの人の前でプレーしたいと思ったりするようになったのかもしれないわね。


でも、小さい頃からグランドスラムをたくさん観てきたことも影響していると思う。観衆を見て、アーサー・アッシュ・スタジアムを見て、オーストラリアのロッド・レーバー・アリーナでの様子を見て、人々の前でプレーしたい、トロフィーを掲げる人になりたいと思っていたわ。これであなたの質問への答えになっているかしら」


                                  後編へ続く                           


(テニスデイリー編集部)


※写真は「全豪オープン」での大坂なおみ
(Photo by Andy Cheung/Getty Images)