1月の新料金プランの発表後、楽天モバイルの新規加入者獲得ペースは大幅に上がったという(撮影:尾形文繁)

「(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクに次ぐ)4位に甘んじるつもりはない」。楽天の三木谷浩史会長兼社長は自社の携帯電話事業「楽天モバイル」について、決算説明会でそう力説した。

楽天は2月12日、2020年12月期の決算を発表した。売上収益は1兆4555億円と前年を15%上回ったものの、営業赤字は過去最大の938億円に達した。ネット通販(EC)、金融など既存事業は好調だった一方、モバイル事業では自社回線エリア拡大のために設置を進めている4G屋外基地局の償却負担などコストが増大し、同事業だけで年間約2270億円の営業損失を計上した。

自社エリアの人口カバー率は足元で約75%を達成。総務省に示した人口カバー率96%の達成計画に対しては現状、約5年前倒しで進捗しているという。

高密度化を進める理由とは?

今後はエリア化の進んでいない地域での基地局設置に加え、既存エリアでの基地局の高密度化を推進する。4Gの通信設備にかかる投資額も参入当初計画の6000億円から3〜4割増(7800億〜8400億円)まで膨らむ見通しだ。

高密度化を進める理由として、楽天は楽天モバイルの加入者の獲得ペースが加速していることを挙げる。とくに1月29日の新プラン発表後、「申込者数が(従前のペースの)4倍近くに成長」(三木谷氏)した。

これまで同社は「容量無制限で月額2980円」の単一料金プランで展開していたが、移行後の新プランは利用データ量に応じ料金を4段階に分類。1ギガバイト以下は無料で、1〜3ギガバイトは980円、3〜20ギガバイトは1980円、20ギガバイトを超えると2980円という仕様に改めている。

利用データ量の少ないユーザーから得られる月額料は従来より減るが、その分ユーザー数の拡大で補う。今後は4Gに加え5Gの通信環境整備も進めるが、「(携帯事業の)2023年黒字化という計画に変更はない」(三木谷氏)。

楽天が携帯事業でのユーザー開拓をこれほど重視するのは、収益基盤であるEC事業、金融事業などへの波及効果が見込めるからだ。

楽天ポイントでほかのサービスへ誘導

例えば、楽天モバイルに加入した楽天市場ユーザーは、1人当たりの平均月間購入額が加入以前の期間に比べ4割以上増加している。同期間、非加入者の平均購入額も1割強増加しており、全体にコロナ禍の巣ごもり需要による押し上げ効果があったのは事実だ。一方で、携帯事業で囲い込んだユーザーを独自のポイントプログラム「楽天ポイント」等のメリットを通じ、ほかのサービスへと誘導する流れができつつあるのも確かだ。

20年の通期決算において、楽天市場、楽天トラベルなどを含む国内EC事業は約580億円、楽天カード、楽天銀行などを含む金融事業は約810億円の営業利益を稼ぎ出した。携帯事業を通じて新しいユーザーを取り込めれば、こういった収益基盤もさらに強固にできる。

とはいえ、前期はこれら事業の収益を携帯事業への先行費用であっさり食い潰した。21年は基地局の稼働数が増え償却負担はさらに増す。楽天はこれに備え資金の投下先を絞るべく、海外を中心に事業の撤退、見直しも進めている。

20年中には米国とドイツのマーケットプレイス事業を相次ぎ終了。いずれも10年以上の歴史を持つ事業だった。加えて、投資先である米国のライドシェアサービス・リフトの株式を活用したアセットファイナンスを実施し、有利子負債を増やすことなく7億ドル超を調達した。

楽天は今年4月から社名を「楽天」から「楽天グループ」に改めることを発表している。この背景にも、携帯事業に限らず、新事業育成にかかる資金を機動的に集める狙いがある。

「今までは親会社集約的に資金調達を行ってきたが、今後はさまざまな形が考えられる。不動産のLIFULL、グルメサイトのぐるなびなど(上場企業との)資本業務提携も行ってきた。

楽天経済圏を既存事業の外に広げていくためには、今までの100%子会社主義というのを少し緩めていこうという考え方(を反映している)」(三木谷氏)

新事業の育成に欠かせない財務戦略

三木谷氏は明言していないが、GMOインターネットグループのように子会社の株式上場で市場から資金を調達する手もありそうだ。


三木谷氏は財務戦略の手腕を問われそうだ(撮影:尾形文繁)

楽天は携帯事業に関連して、低軌道衛星を活用した通信接続の実現や、楽天モバイルで培ったクラウドネットワーク技術やソフトウェアを海外の企業、政府・自治体などに提供する新事業も構想している。

激化する国内携帯事業社間競争で善戦するのに加え、こうした新事業を軌道に乗せられるか。今後も機動的に資金を捻出できる財務戦略がカギを握りそうだ。