●“職場内ヒエラルキー”むき出しの「一発屋」

「『パパは、ひげだんしゃくっていうんでしょー?』と娘に正体を嗅ぎ付けられそうになる危機は無くはなかったが、『違うよー? 似てる人だよー?』と、その都度、水際で止めてきた」 『パパが貴族 〜僕ともーちゃんのヒミツの日々〜』(双葉社)より

「ルネッサーンス!」で一世を風靡したお笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世。同書では、貴族衣装を脱いだ生身の山田順三(本名)として、2012年に生まれた長女・もーちゃんに「職業を隠し続ける日々」とその“攻防戦”がユーモアたっぷりな筆致で描かれている。

なぜ山田はお笑い芸人、そして“一発屋”であることを娘にひた隠しにするのか。そのきっかけとなった出来事や理由を掘り下げていくと、「45歳・山田順三」の父性愛が浮かび上がる。

○■「パパさっきテレビでてたでしょー?」「似てる人だよ?」

――娘さんとの日々をつづった今回のエッセイ。もともとは違うテーマのWEB連載だったそうですね。

数年前から、物書きの真似事をさせて頂くようになって。その最初の頃に「夫婦のことについて書きませんか?」というオファーがあって、ちょこちょこ書いていたんです(2016年〜2018年WEB連載「旦那さまは貴族」)。それに書き下ろしと他の媒体に書いてたものも加えて。ただ当時とは筆致も変わってるので、結果的にほぼ全て書き下ろしたのと変わりないカロリーを消費した一冊になりました。

娘はネタを豊富に提供してくれるので、面白トピックスはある程度文章にしてメモしてます。最悪、僕が一発屋芸人だと長女にバレる事態が訪れても、この本とネタ帳があれば、「こんなにつぶさに子どものことを観察している親がいるだろうか?」と涙を誘って煙に巻く自信があります(笑)。

――「面白トピックス」の基準みたいなものはあるんですか?

色々ありますが、1つは娘の成長具合というか、感情表現のギアが1段上がったなと感じる瞬間。本にも書きましたけど、初めて嘘をついたとか。RPGならレベルアップの音が聞こえてくるようなやつ(笑)。“嘘初め”の際は、「だんだん人間になってきたな……」と感慨深かったです。

――嘘をついても怒らない?

普段から僕はほとんど声を荒らげたりはしないですが、例えば「さんすうのプリントちゃんとやるから、さきにおやつたべていい?」と自ら交渉してきたのに、結局やらずに遊んでる、なんて時はちょっと言いますね。「モーちゃん、プリントの前にお菓子を食べていいよと許可したのは、君を信用してるからなんだよ? なのに今やってないってことは、次からはもうお菓子食べられないよね?」と。言ってみれば、“信用菓子(貸し)”ですからね。それが約束というものだ、信用って大事だよとは諭しますね。多分、響いてないでしょうが(笑)。

――でも、「お仕事何してるの?」と聞かれた時に、父は嘘をつかなければいけない(笑)。

そこなんですよね(笑)。娘には“めちゃめちゃフレキシブルに働くサラリーマン”と説明してますから。自分が毎日嘘を吐いているくせにというジレンマは確かにあります。

――その嘘が、娘さんと2人だけで共有している秘密のようになって、そういう関係性もすてきですね。

最近の話ですね(笑)。朝のワイドショーに出て帰宅したら、「パパさっきテレビでてたでしょー?」と娘に迫られて。いつもの調子で「違うよ? 似てる人だよ?」と返すと、「だいじょうぶだよ! ママにはないしょにしておくからね!」と耳打ちされました。これまでなら、「パパのウソつき―!」と詰められていた場面で、「何その設定!?」とちょっと甘酸っぱい気持ちになったやつ(笑)。まあ共犯関係と言っても、「髭男爵」とか「ルネッサンス」という単語をなんとなく知ってるだけ。もちろん、一発屋という核心部分は完璧に守られてるので、僕的には「バレてない」というジャッジです。

やはり、「一発屋芸人」という肩書きは、カミングアウトのハードルが高い。ここまで“職場内ヒエラルキー”がお茶の間にむき出しの職業って他にないですからね。と言うか、ヒエラルキーそのものが肩書きになってるんで。そこの苦みの部分は、人生始まったばかりの小さな子どもにはまだ味わわせたくない。正体を隠してる一番の理由ですね。

○■「ルネ……」“しりとり”は情報漏えいリスクも

――小学校の頃に父親の職業を発表する授業がありました。「知らない」という子もいたのですが、子どもに仕事を伏せておきたいご家庭があってもおかしくはないですよね。今、お話を聞いて改めて感じました。

色々な事情の方がいらっしゃると思いますけどね。そもそも、父親の職業をクラスメイトと共有する意味がよく分からない。“捜査本部”で犯人の特徴を皆でメモるみたいな(笑)。

とにかく、自分がそんな風なので、他の人はどうしてるんだろうと気になって。一昨年頃から「一発屋のパパ」を取材する連載をヤフーさんの方で始めたんです。ジョイマン高木くんは、自分のギャグ由来の名前を娘さんに付けてました(笑)。当然、彼はもうバレてる。コウメ太夫さんは、近所のお寺の神主さんからお祭りの営業を頼まれて。ネタ中に境内からふと客席を見ると、コウメさんのお母さんが孫、つまりコウメさんの息子さんを抱いて立っていたという(笑)。おばあちゃんが、孫に「あれがパパだよー!」って教えてたそうです。

バレる瞬間って色々あるなと分かったけど、一発屋仲間で僕ほど隠している方はいなかった。テツandトモのテツさんは、早い段階でしっかり説明したとおっしゃってました。「もしかしたら、学校で『お前のお父さん、一発屋』みたいに言われるかもしれないけど、全力でパパとママが守るから」と言い聞かせたそうです。これが正解だろうなと思いつつ、僕は僕で修羅の道を行きますわと(笑)。

●自身の不登校きっかけに向き合い続ける心配性

――「芸能人」というだけでも苦労がありそうですね。

まあ僕の場合、テレビ等の“わかりやすい露出”は、幸か不幸か非常に抑えられているので、バレるリスクは比較的低いけど、バレた後のリスクはめちゃめちゃ高い。ハイリスク&ノーリターン。ただリスクが上下するだけで、リターンはゼロ(笑)。娘が学校で、「お前の父ちゃん一発屋〜!」みたいにイジられたら目も当てられないですから。

だから、情報漏洩には敏感です。本の中でも“しりとり”の話を書いたんですけど、あるとき娘と“しりとり”やってて、僕が「る」で終わる単語を言ったら、娘が「ルネ……」って言い掛けたことがあった。“しりとり”って怖いなと思ったのはあれが初めてですね(笑)。つまり、それを学校で友達とやられた場合、困ると。小学校低学年の子どもなんて、すぐ“しりとり”するでしょ。休み時間に、「髭男爵」とか「ルネッサンス」とか出てきて、「えっ?それ何?」って友達に食いつかれて……と考え出したら夜も眠れない。家庭のことって“しりとり”で漏れてしまう。何食べてて、どんな暮らしぶりだとか。「かかか……かっぷめん!」みたいな(笑)。

――本の中ではご自身が極度の心配性であることも告白されていますが、「しりとりへの不安」もそこが原因になっていそうですね。

心配性ですねぇ(笑)。中学のとき不登校になったんです。そこから、20歳まで6年間引きこもって。大検取得して何とか地方大学に潜り込んだんですが、結局、夜逃げ同然で上京。そこから芸人を目指し、飯が食えるようになるまで、自分の願望が叶う経験がほぼ無かった。ここまでの人生で、「よっしゃ!」と手応えを感じたのは2回くらい。結果、自分がこうなって欲しいなと思うことは全部駄目になるっていうネガティブな気持ちが拭い切れない(笑)。

自分が男3人兄弟なので、妻が身籠った時は「娘が欲しいなー……」と頭をよぎったんですけど、「俺がそう思ったってことは、多分息子だろうな……」とため息吐いて。公園で娘と遊んでても、気が付いたら、今にも隕石が飛来して娘の頭に直撃するのだと、半ば本気で考えてたり。我ながら怖いです(笑)。

“不登校”、“ひきこもり”のキッカケは、登校途中で、ウンコを粗相したこと。まあ、それはあくまでキッカケで、一番の原因は疲れてたことですね。中学受験を突破して関西では有名な中高一貫校に通ってたんですが、通学時間が片道2時間くらいかかるし、勉強も部活も真面目にやってた。無理をしていたんだなと思います。典型的な優等生で、そんな自分がウンコを漏らすなんて、と恥ずかしかった。自意識過剰で「テヘヘ……」とピエロ路線にも転向できず、そのまま6年。

そのトラウマがあるからか、娘が幼稚園に通い始めて以来今日まで、朝送り出す時に必ず、「ウンチ出た?」「ちゃんとトイレ行った?」と聞いてしまう(笑)。かれこれ、5〜6年ずっとですよ? 娘は「でたよー!」と普通に答えてくれてたんですが、先日とうとう、「なんでまいあさウンチのこときくの!?」とキレ出して(笑)。「はいはい、でたよー! いってきまーーす!」と捨て台詞を残して学校行きましたけど。

――小学校2年生だったら……そろそろお父さんの仕事にもピンと来てるんじゃないですか?

さっきも言いましたが、ジグソーパズルの欠片は幾つか持ってますね(笑)。「パパってひげだんしゃくっていうんでしょ?」とか時折迫ってくることはあるけど、「違うよ? 確かにすごく似てるね?」と徳俵で踏ん張る日々です。

やっぱり、負けとか失敗を連想させる「一発屋」という言葉は、小2にはまだ早いなと。一方でHGさんとかムーディー勝山くんとか小島よしおくんを中心に結成された一発会というのがありまして。「一発屋」というもののブランド力を上げていこうと、それぞれ頑張ってますね(笑)。なんとか娘にバレる前に、「一発屋」って凄いんだよ、むしろ勲章だよとなるよう、世間様を心変わりさせることが出来れば。ここ2〜3年は、随分風向きも良い方向へ変わった気がしていますが、当面は、「パパが貴族」という秘密は死守したいと思っています(笑)。

■プロフィール

山田ルイ53世本名、山田順三。1975年4月10日生まれ。兵庫県出身。1999年、ひぐち君とお笑いコンビ・髭男爵を結成し、近年は文筆業・コメンテーター業などでも注目を集める。主な著書は『ヒキコモリ漂流記』(15)、『一発屋芸人列伝』(18)、『中年男ルネッサンス』(18 ※社会学者 田中俊之氏との共著)、『一発屋芸人の不本意な日常』(19)。