世の中には「死者の声が聞こえる」と主張する人が存在し、死者の言葉を生きている人々に伝える霊媒師として活躍している人もいます。イギリスのダラム大学やノーサンブリア大学の研究チームが、「死者の声が聞こえる」と主張する人を対象に行った調査から、どういう特性の人が死者の声を聞きやすくなるのかが明らかとなりました。

Full article: When spirits speak: absorption, attribution, and identity among spiritualists who report “clairaudient” voice experiences

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/13674676.2020.1793310

Scientists shed light on how and why some people report “hearing the dead” - Taylor & Francis Newsroom

https://newsroom.taylorandfrancisgroup.com/scientists-shed-light-on-how-and-why-some-people-report-hearing-the-dead/#

Scientists Are Figuring Out Why Some People Can 'Hear' The Voices of The Dead

https://www.sciencealert.com/scientists-are-figuring-out-how-some-people-can-hear-the-voices-of-the-dead



外部刺激がないはずの状態で何かの声を聞いたり不思議な光景を見たりすることは、一般的に幻聴や幻覚とみなされており、精神疾患の症状の一つでもあります。ところが、中には幻聴や幻覚を精神疾患と結びつけず、「自分は死者の声や姿を見ているのだ」と考える人も存在します。

イギリスやアメリカでは死者の魂といったスピリチュアルな存在への関心が高まっているそうで、死者とのコミュニケーションを取ることができる霊媒師をサポートしたり訓練を提供したりする機関もあるとのこと。イギリスにおけるスピリチュアリスト機関の中でも最大である「Spiritualists' National Union(SNU)」には、なんと1万1000人もの会員がいるそうです。

研究チームはSNUと協力し、「死者の声が聞こえる」と主張する65人のスピリチュアリストと、死者の声を聞いたことがない143人の一般人を対象にした調査を行いました。被験者は調査の中で、過去の経験、性格的な特性、幻覚を体験する傾向、アイデンティティ、および超常現象への信念などについて尋ねられ、スピリチュアリストは死者の声を聞いた際の経験談や詳細情報についても回答しました。



調査の結果、スピリチュアリストのうち44.6%が1日に1回は死者の声を聞いていると回答。79%は自分一人でいる時、霊媒師として働いている時、あるいは教会に通っている時など、日常のさまざまな場面で死者の声を聞いており、もはや日常生活の一部になっていると述べました。また、死者の声が頭の内部で聞こえると回答したのはスピリチュアリストのうち65.1%であり、31.7%は頭の内部と外部の両方で声が聞こえるとのこと。

一般人との比較では、スピリチュアリストは超常現象に対する信念がはるかに高く、精神的なイメージや空想に深く没頭する傾向が強いことも判明しました。また、スピリチュアリストは「他の人が自分をどう思っているのか」について気にする可能性が低い傾向もみられたそうです。

空想に没頭する傾向は一般人においても超常現象の信念と結びついていましたが、超常現象への信念が強いからといって幻聴を経験する傾向が強いわけではありませんでした。なお、疑わしい迷信を信じる傾向については、死者の声が聞こえるスピリチュアリストと一般人の間で違いが見られなかったと研究チームは述べています。

スピリチュアリストは平均で21.7歳の時に初めて不思議な声を聞いたと回答し、71%は最初に声を聞く前にスピリチュアルな考えを知らなかったとしています。つまり、多くのスピリチュアリストは不思議な声を聞いた後に「死者の声」という現象への説明を見つけたのであり、周囲の社会的な圧力やスピリチュアリズムへの憧れによって死者の声を聞いたわけではないことが示唆されました。スピリチュアリストが超常現象への強い信念を持っているのも、超常現象に関する説明が自分が経験する事象と一致しているためだとみられるとのこと。



一連の発見は、統合失調症などに伴う幻覚や幻聴について理解するのに役立つと研究チームは考えています。ノーサンブリア大学の上級研究員であるピーター・モーズリー氏は、「スピリチュアリストは人生の早い時期で始まり、ポジティブであり、しばしばコントロール可能である異常な聴覚体験を報告する傾向があります」とコメント。スピリチュアリストにおける「死者の声」について調べることで、精神疾患の患者が報告する苦痛を伴う幻聴をより深く理解できると述べました。