開業の約1年延期が発表された芳賀・宇都宮LRT。事業費はさらに200億円以上の増額となりました。延期の理由、増額分の内訳は、それぞれ何なのでしょうか。

宇都宮市内は工事未着手2割

 宇都宮市は2021年1月25日(月)、市域で整備中の次世代型路面電車「芳賀・宇都宮LRT」の事業進捗について発表しました。

 LRTをめぐっては、1月に入り開業が1年ほど遅れる見通しであることが、関係者の話として複数のメディアから報じられましたが、今回、その詳細が改めて発表された形です。報道のとおり、1年遅れの2023年3月開業を目指すとしています。


鬼怒川の東側で工事中の高架橋(2020年11月、中島洋平撮影)。

 現時点で、宇都宮市内は未着手箇所が約2割とのこと。事業用地の引渡しが完了した箇所から順次、工事に着手してきたものの、新型コロナウイルス感染症の影響などで事業用地の取得に時間を要しており、今後1年程度の期間を要すると想定されるそうです。

 また、宇都宮市が計上しているLRTの事業費は、現地の施工条件への対応や社会情勢の変化、安全性・利便性の向上などを見越し、約191億円増の約603億円(税抜き)となる見込みとのこと。なお、これとは別に芳賀町域の事業費もプラス31億円となり、総事業費は684億円となる見込みです。

 車両については、1編成目の納入時期を2020年度末としてきましたが、こちらも2か月程度、遅れる見通しだそうです。新型コロナの影響で、一部の外国製部品の調達が遅れているためだといいます。

 市はこれまで、工事の進捗を折に触れ発信したり、車両の愛称公募などを行ったりして、「2022年3月開業」「2020年度末の車両納入」をPRしてきましたが、大幅な方針転換を余儀なくされた格好です。

増額分は何のため?

 事業費の増額理由について市は、「現地の施工条件等への対応」「建設需要の増加などの社会情勢の変化」「安全性・利便性の向上など」「地下埋設物等移設費」と大きく4つ挙げています。なかでも最大となる102億円増を見込んでいるのが、「現地の施工条件等への対応」です。

 鬼怒川周辺などで軟弱地盤層(沖積礫質土層)が確認されたため、高架橋を支える橋脚の杭をより地下深くまで伸ばすことや、地盤改良の範囲(改良深)をより深くする必要があるといいます。また同じく鬼怒川近くに設けられる車両基地については、近年頻発しているゲリラ豪雨などの豪雨災害対策として地盤をかさ上げするとしています。


予定沿線にあるベルモール内には、LRT車両型の遊具も(2020年11月、中島洋平撮影)。

 このほか事業費の増額は、停留場の安全対策や、車両の仕様変更にも計上しています。後者は、「車いすスペース等の確保によるバリアフリー性の向上」「独自性の高いデザインの採用」「車内外カメラの増設等車両の全扉からの乗降可能となる運賃収受方法の採用と、地域連携ICカードシステムの導入による利便性の向上」が理由です。

 なお、対象事業費の50%に国の補助金を充当予定といいます。